『ブロークバック・マウンテン』、映画館で観ました。
1963年、ワイオミング州。20歳のイニスとジャックは、ブロークバック・
マウンテンに季節労働者として雇われる。大自然の中でひと夏を過ごす二人。
そこで助け合い芽生えた友情は、いつしか深い愛情へと変わっていく‥‥。
きっと、好き嫌いが分かれるだろう、この映画。きっと、観る人を選ぶだろう、
この映画。果たして10年前の自分だったなら、どんな感想を持ったのか‥‥。
恐らく「ホモセクシュアル」に対する嫌悪感だけで、はなからここに描かれる
“愛の崇高さ”なんて分かろうとしなかったかもしれない。男同士の汗の匂い、
切ない息遣いと熱い指先、激しい鼓動と胸の高鳴り、そして何より、自分の
冷たい体を温めてくれた“あの男性(ひと)の優しさ”に、とうとう最後に
残った理性さえ夜の闇に溶けていく。観ながらオイラは、互いの“心の隙間”を
埋め合って、互いの“孤独”を慰(なぐさ)め合う、そんな彼らの一途な愛の
行方に息が苦しくなった。
それにつけても、、家庭人の(?)オイラからすれば、まったく分からないし、
分かりたくもない…(笑)。ひとつの過ちから“禁断の愛”へとのめり込み、
手にした幸福(家庭)さえガラガラと音を立てて崩れ去っていく。彼らの
やり場のない怒りと、抑えきれない激情とが、監督アン・リーの抑制された
演出の中、気が狂わんばかりの“切なさ”となって観る側に押し寄せてくる。
結局、今の世界にそんな彼らを温かく迎え入れてくれる場所なんて何処にもなく、
二つの人生は“あの日”のまま…、静かに音を立てず止まっていた(涙)。
だとしたら、彼らにとっての“ブロークバック・マウンテン”は何だったのか??、
ラストシーン、主人公が二人の“愛の証(あかし)”と、一枚のフォトグラフを
(決して人目に付くことのない)タンスの奥にそっと仕舞いこむ。いや、恐らく
彼らにとってのブロークバック・マウンテンは、何人(なんぴと)も触れる事が
出来ない“二人だけの聖地”だったんだろう。その、フォトグラフに映るブローク
バック・マウンテンは、今も澄み切った青空の下、「偏見」とは程遠い“美しい
世界”にいるようだった。