肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『サテリコン』、観ました。

2007-05-08 20:58:36 | 映画(さ行)






監督:フェデリコ・フェリーニ 
出演:マーチン・ポター, ハイラム・ケラー

 『サテリコン』、観ました。
紀元前のローマは退廃の極み。人々の生活は快楽を求めることしかなかった。
学生のエンコルピオはアシルトと美少年ジトンをめぐって争い、敗れる。その後、
エンコルピオは有力者トリマルキオの催す酒池肉林の宴で、人生の指南役
エウモルボと出会うが‥‥。
 まず、作品の質をどうこう言う以前に、フェリーニの“映像作家としての凄み”を
痛感する。赤や青や金銀作り…、眩いほどの極彩色が目の前で踊る。だが、
同時にそれは非常に官能的な色使い。大胆だが、魅惑的なメイクと、妖しい
彩を放つ照明の素晴らしさ。奇抜だが、この目に飛び込んでくるすべての
映像に心酔し、いつしかボクはグロテスクで美しい、“その退廃的な世界”に
引き込まれていく。中でも、背景セットを含めた、大小様々なオブジェと
ディテールのデザインは“美術部門における映画史上最高傑作”であるものと、
ボクは自信を持って断言する。オープニングで絵のように広がる大衆浴場の
大階段…、男たちによって運ばれる石で作られた巨大な顔…、大海原に浮かぶ
奴隷船の雄大さ…、鮮やかに彩られ、画かれた壁画の数々……。この映画の
凄さは、ストーリーだけに頼ることなく、人の心のズルさ・醜さをあぶり出し、
《文明社会の退廃》を“映像”として観る者の記憶に焼き付けていく点だ。
まさにそれはその名の通り、《映像の魔術師》こと“フェデリコ・フェリーニ”が、
観る者をその“魔法”にかけ、瞬時に古代ローマの時代へと誘(いざな)わせる、
そんな“幻想の力”を秘めた作品だ。
 さて、映画は、後期フェリーニの特徴でよくみられる“独立したエピソードの
羅列”によって成り立っている。しかし、言い換えれば、その前後となる
エピソードに“明確な繋がり”はなく、大きな幹となる物語性も持ち合わせて
いないので、ストーリー重視で観る人には苦手な映画に分類されるのかも。
ただ、ボクが考えるに、これを単なるロードムービーとしてではなく、もっと
内面的な“意識の旅”として印象付けたかった“フェリーニの隠された狙い”が
あったのではなかろうか。一方、映画では「富」と「エロス」と「権力」とが
あい乱れ、ある種“異様なデカダンス空間”を作り出す。そして、残酷にも
我らは観ながら思い知らされることになる。その“底知れぬ快楽”の前では、
愛も、芸術も、哲学も、神の子(信仰)さえも“無力”と化し、人々に見向きも
されぬまま忘れ去られるのだ。
 それにしても、ラストシーンは“その主題”について深く考えさせられると
同時に、人間のおぞましさに一層怖くなる。死した大詩人エウモルボが、
その遺言書の中で言う、「我の遺体の一部を食した者にのみ、その財産を
分け与える」と。その言葉を聞くなり、ハイエナの如く死体に群がり、貪り食う
人間ども…。恐らくエウモルボは死にながらに嘲笑していたに違いない。
人はその理性を失った時、自分自身を見失う。“人間としてのモラル”より、
財産という“一時(いっとき)の快楽”を選んだことで、彼らは今後どこまでも
果てしなく堕ちていく。まるで、かつて“大詩人”であったことを“最後の誇り”
としていたエウモルボ自身が、いつしかその快楽に溺れ、“煩悩(ぼんのう)の
底なし沼”に沈んでいったように。その先にあるのは…、そう、“破滅”しか
ないのだ。



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