肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『紙屋悦子の青春』、観ました。

2007-07-26 20:34:50 | 映画(か行)





監督:黒木和雄
出演:原田知世/永瀬正敏/松岡俊介/本上まなみ/小林薫

 『紙屋悦子の青春』、観ました。
敗戦の色濃い昭和二十年・春、鹿児島の片田舎。両親を失ったばかりの紙屋悦子は、
優しい兄夫婦と3人で慎ましい毎日を送っていた。彼女は海軍航空隊に所属する明石
少尉に秘かな想いを寄せていた。ところが悦子に別の男性との縁談が持ち上がる。
相手は明石の親友、永与少尉だった。それは明石自身も望んでいることだと聞かされ、
深く傷つく悦子だったが…。
 “激しい戦争映画”は怖くない。必要以上に“感情へと訴えかける映画”も好きじゃない。
ここには、激しい戦闘シーンもなく、涙ながらに「どうか行かないで」と引き止める別れの
場面も存在しない。静かだが、“戦争の痛み”に耐え、愛する男性(ひと)との別れを、
何も言えずに見送らなければならない人々の哀しみが描かれている。何も《戦争の
犠牲者》は、“死んでいった者達だけ”とは限らない。それとほぼ同じ数だけの…、
“残された者達の犠牲”でもあるのだ(涙)。彼らが、その人生で“奪われた時間”の
重さと、“生まれなかった愛”の無情を思うと、例えようもない“やるせなさ”に包まれる。
また、改めて、本作が“遺作”となってしまった黒木和雄監督のご冥福を祈ると共に、
彼が生涯拘(こだわ)り続けた反戦とは、“敗戦国・日本”としての、その“国民の視点”に
立って戦争を描いていた点だ。観終わって、戦争に対する憤(いきどお)りで“怒り”に
震えることはない。が、その代わりに、この映画では戦争に打ちひしがれた人々の
悲しみが、涙のように染みてくる。
 さて、この映画の特徴は、そのほとんどが“ひっそりとした家の中”で展開され、
戦場の激しさとはかけ離れた“日常の生活”から《戦争》を描いている点だ。中でも、
ヒロインの言うに言えない淡い恋心を軸に、“当時の戦争観”が浮かび上がってくる
あたりは秀逸だ。ただ、ここで、たった5人に限られた登場人物をみてみると、唯一、
当時(戦時中)としては稀な思想の持ち主に気付かされる。それは、本上まなみ扮する
兄嫁の存在だ。国の勝利の為なら自分の命を投げ出すことさえ厭わない時代の中で、
彼女だけがこの愚かな戦いが早く終わり、“暗黒の時代”が早く過ぎ去って欲しいと
願っている。つまり、彼女だけが“軍国主義のまぼろし”に惑わされずに、観客と
一番近いところで《戦争》を捉えているのだ。観ながら恐ろしくなったのは、戦争が
すでに“日常の中”にまで入り込み、国民一人一人の思想まで確実にコントロール
している点だ。そこでは、本来の常識などいともたやすく撥ね返され、愚かな戦争の
価値観だけがもてはやされる。映画終盤、見合いの相手との結婚を決意したヒロインの
頭上から散り始めた桜の花びらが舞っている。戦場で散っていった命と、果かなく
散っていく桜の花の美しさ‥‥。その後、何度季節が巡ろうとも、桜の季節になれば
思い出す。あの人の面影と…、自分には今とは違う、“別の、もうひとつの人生”が
あったことを。



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