快読日記

日々の読書記録

「仮想儀礼 上」篠田節子

2013年08月16日 | 日本の小説
《8/9読了 新潮社 2008年刊 【日本の小説】 しのだ・せつこ(1955~)》

もと東京都職員である鈴木正彦は常識人で、チベット密教を中心とした宗教の知識(信仰心があるわけではなく、必要に迫られて仕入れたもの)を持っている。
はからずも相棒となった矢口誠は美大卒。女や子供の扱いに長けている。
ホームレス寸前までに転落した彼らが、2001年の9.11をきっかけに、癒しや心の支えを必要とする人々に信仰というサービスを提供する、という発想で始めた宗教ビジネスの顛末。

まず、2人が着手したのがホームページ作り。
アップした直後からさまざまなメッセージが届き、矢口の巧みな返信に“生きづらさ”を抱える若者たちが集まります。
一方、教祖となった鈴木が展開する常識的な教義には、経営者などの言わば大人が引きつけられ、信者になっていく。
小さなラッキーパンチが呼び水になって、みるみるうちに組織が膨らむ過程もおもしろいし、その後の展開も読み始めたら止まらない。

篠田節子作品は、「女たちのジハード」「夏の災厄」、短編連作集「死神」、他にエッセイを読んだくらいで、わたしにとっては久しぶりの再会でした。
人物の書き分けの正確さや作品世界の厚みには安心感があって、ハズレがない小説家という印象があったのですが、しばらく読まない間にそこに“凄み”が加わってたんですね。

ひとつひとつの描写は重く、展開はダイナミック。
ハードな実録ものみたいな読み応えがありました。

蒸し暑い夏にぴったりかも。

/「仮想儀礼 上」篠田節子