快読日記

日々の読書記録

「犬はいつも足元にいて」大森兄弟

2011年10月27日 | 日本の小説
《10/25読了 河出書房新社 2009年刊 【日本の小説】 おおもりきょうだい 兄(1975~) 弟(1976~)》

この作品は引力の強い暗喩に満ちていて、
だから公園に埋まっている「肉」や、それを掘り返す「犬」などの意味をあれこれ勘ぐりたいところだけど、
そういうのはちょっと我慢して、
主人公の男子中学生「僕」みたいに“世界を解釈したり分析したりしない”読み方がふさわしいような気がします。

出てくる人たちはみんなクセが強くて(特に同級生「サダ」のお母さんが好き)、
彼らに比べると「僕」は利口で冷静で、心身の温度が低そうだけど、価値観はまともな、いわゆる作中では傍観者なんだ、と思って読み進んでいくと、
終盤、実は一番の爆弾はこの子なんだ!と気づかされる、そのグラグラくる怖さがたまりません。

「まことの人々」にも同種の怖さがありました。
この世で一番怖いのは、幽霊でも核兵器でもない、人間そのものだ、なんてのはありがちなフレーズだけど、
彼らが描くのは怨念の殺人犯や理解不能のサイコパスなどではなく、
目立たず穏やかで平和な“普通の人”が胸に秘める、何もかもをズタズタにしてしまいたい破壊衝動、腐臭がするような悪意、そういうもので破裂しそうになる人間の姿なのかも。
制御できなくなるほどの暴力の芽が自分の中にあって、それが静かに成長し、ある日突然暴れ出す…想像するだけで冷や汗がにじみます。

時間が経ったらまた違う感想をもつかもしれないけど。

/「犬はいつも足元にいて」大森兄弟
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