快読日記

日々の読書記録

「寡黙なる巨人」多田富雄

2011年02月07日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《2/4読了 集英社文庫 2010年刊(2007年に集英社より刊行された単行本を文庫化) 【日本のエッセイ】 ただ・とみお(1934~2010)》

免疫学者として精力的に活躍していた2001年に脳梗塞で倒れ、文字通り生死の境をさまよったあと、リハビリテーションに取組む中で、
自身が回復するのではなく「新しい人(=寡黙なる巨人)」が生まれてゆっくり成長していく様子をつづった「Ⅰ寡黙なる巨人」と、
そのあと書かれたエッセイ群「Ⅱ新しい人の目覚め」が収められています。
重い右半身麻痺が残り、声を失った筆者に代わって「寡黙なる巨人」が産声を上げる場面には、ぞくぞくしました。
体の奥から原始の命が湧いてきて、脱皮するようなかんじです。

よくある闘病記と違うのは、同情の涙を誘うような雰囲気がないこと。
例えば、日々の予定に忙殺されて、生命そのものは衰弱していた過去の自分と比較して、
病後の自分は生きることに精一杯で「体は回復しないが、生命は回復している」と感じている、
その力強さ・柔軟さに溜め息が出ました。
解説で養老孟司も言うように、多田富雄は美しい。
ものの考え方がきれい。
繊細なのに強い。
「美しい」と「強い」とは同義なんだなあと、つくづく思ったですよ。

それから、障害者を取り巻く現状を考える上でも有効な1冊でした。
リハビリをただの訓練みたいに考えてたのが修正できたし、
日本の医療制度の冷淡さもよーく理解できました。
実も蓋もないことを承知で言えば、
先立つものの有無がその後の人生を大きく左右しちゃうよね、ってかんじです。
そんな国ってどうよ。

/「寡黙なる巨人」多田富雄
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