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精神科医師のブログ。
弱さを絆に地域を紡ぎ、コンヴィヴィアルな社会をつくりましょう。

目指すべきは大町病院と安曇病院の連携、協業、そして統合。

2011年08月30日 | Weblog
安曇総合病院も院内に再構築検討委員会が発足し、将来的にどのような病院を目指していくのかを検討されているが、大北医療圏の中心に位置する市立大町総合病院もまた今後の方向性を模索している。
平成 19 年 12 月、総務省より「公立病院改革ガイドライン」が提示され、地方公共団体は、平成 20 年度内に、採算性と効率性を考慮した「公立病院改革プラン」の策定を義務づけられた。
これを受けて作成された市立大町総合病院の改革プランもウェブサイト上でも公開されている。

市立大町病院改革プラン

「40 床を増床した平成 12 年度から医師数の減少が始まっており、設備投資に見合った診療活動と病院収益の確保が困難な状況に陥っていた。」

「特に、20%以上の救急搬送患者を、大北医療圏以外の医療圏に依存する医療体制は、住民の大きな不安や負担となっている。更に、専門性を要する「超」急性期の治療はやむを得ないにしても、一般的な救急対応は体制の再構築が急務である」

「職員の高齢化が目立ち、定年退職者が平成24 年度まで毎年 10 人程度存在するほか、早期退職を希望する者も数名あり、退職給与費は毎年 2 億円以上が必要となっている」

「なお、厚労省は、概ね 2 次医療圏に 1 箇所程度の「がん診療連携拠点病院」の指定 を行っているが、当院の規模、放射線治療設備の不備から、当面指定獲得は目指さない方針としたい。」

「内科、外科、整形外科に関しては、全体的には一般内科、一般外科、一般整形外科として両病院が対応しなくてはならないが、より高度な専門性については、両病院の専門性を異にした上で、相互の協力体制が望ましい。しかし、現実には両病院では専門性が重なる部分も多く、無用な競争になっている面も見られる。両病院は設立母体が異なり、経営方針も同じではなく、病院の歴史も異なり、住民感情も一様ではない。
その点、医療圏を設定した長野県がもっと積極的に関与し、信州大学との関連を強化し、両病院の果たすべき役割について細部にわたって支援、特に専門性の分担など細部にわたって具体的な支援や指導を行うべきであると考える。 」


大筋としては現状をよく分析した上での、よく練られた現実的なプランだと思った。
安曇病院としても早急に住民に向けて同様のレポートを出す必要があるだろう。(それこそ説明責任だ!)

地域医療再生には安曇病院と大町病院の連携、協業、そして統合が不可欠だが、なかなか経営母体の違う病院が協力してやっていくことは難しい。自分の家から近い病院、おらが町の病院にこそ頑張ってもらいたいというような住民感情もある。
判官贔屓のような感情もあるだろう。
大町市に「大町病院を守る会」ができ、県や市の主催する地域医療のシンポジウムが昨年からおこなわれているが、その中で同じ医療圏の中にある安曇総合病院のことは一言も触れられなかった。
これも地域エゴ、病院エゴの一例であろう。

しかし17年連続して毎年赤字を計上(税より補填)している大町病院経営改革はまったなしである。
大町病院の地域の中核病院としての機能や経営の在り方について、より深く検討していくために、有識者を中心とした「市立大町総合病院経営検討委員会」が設置された。


(信濃毎日新聞 2011年8月28日)

信濃毎日の記事によると8月20日の初の市立大町総合病院経営検討委員会には安曇総合病院の中川真一院長も出席し、「うちならつぶれます」という発言をしたようだ。
こういうもの言いでは大町市民や大町病院の職員の反感をかうだろうし、せいぜい「公立病院だから許されてきたこと。」くらいの発言にしておけばいいとおもうが、これは赤字になっては後がない独立採算の厚生連の病院をひっぱって来た院長の偽らざる気持ちなのだろう。

大町病院の経営難の一番は医師や看護師が不足し病床稼働率が低いことが原因だろうが、市職員がローテートで病院の医事や事務を担うため専門性が深まらない、高い人件費、不採算医療の提供、高額医療機器をそなえるが利用が伸びず設備投資に見合った収益があげられないことなども赤字の原因になっているようである。

例えば大町病院には尿路結石を超音波で破砕する結石破砕装置(ESWL)があるが年間30例前後しか利用がない。
(→CT、MRI等高額医療器械の利用状況
多くの病院では100~500例くらいの稼働があるようだからかなり稼働は少ない。
おそらく1~2億(今は数千万で買えるらしい)かけて導入したであろうESWLの機械であるが、診療報酬は約20万円弱であり年間30件では約600万円の収入しかない。これでは人件費やメンテナンスなどのランニングコストも出ないくらいではないだろうか。

突っ込みどころ満載の感動地域医療漫画「Dr.ーコトー診療所」の一コマを思い出した。


(Dr.コトー診療所 3巻 KARTE 22 「Dr.コトーはしゃぐ」より)

もっとも安曇総合病院を「がん診療連携拠点病院」にするために放射線治療機器を導入したり集中治療室(ICU)をつくるという動きがあるようで、これでは市立大町総合病院やコトーを笑えない。

大町病院も安曇病院も地域に必要な病院だ。
しかし市立大町総合病院も毎年赤字を計上している経営難で、JA長野厚生連安曇総合病院も毎年ギリギリの綱渡りなのだ。(DPC,7:1看護、ジェネリック導入など次々とカードを切って来たがもう切るカードがない。このままでは今年は赤字だろう・・といわれている。)。
日々の臨床の実践でお互いに競うのは良いが、無駄な争いをしたり過剰な設備投資をする余裕はない。
地域ニーズをしっかりと把握した上で身の丈にあった医療のありかたを真剣に考える必要がある。

全国の自治体病院の多くが赤字を抱え、厚生連や民間病院など他の経営母体に経営移管したり、指定管理者で募集したりということは全国的におこなわれているようだ。逆に経営難となった厚生連の病院を町立に移管するケースなどもあるようだ。
住民にとっては別に大町病院が市立の病院でなくても良いし、安曇総合病院が厚生連(JA)の病院でなくてもいいのだ。病院の経営母体は関係ない。住民は良い医療、必要な医療をを安定して提供してくれる体制をもとめている。
そう考えると例えば可能なら両方とも松本の相澤病院や安曇野赤十字病院(赤字だが・・)の分院になっても良いだろうし(実際に大町病院の指定管理者を相澤病院に打診したという噂はきいたことがある。)、合同で新たな事業体をつくるというような道もあるだろう。(ex.北アルプス医療福祉センター、大町サイト、安曇サイト、白馬サイトなど)
地域エゴ、病院エゴで市立大町総合病院と安曇総合病院が対立する構造になってしまっては絶対にいけない。
政治家や病院長といった立場の人がそういうことをあおっているのは本当にまずいことだと思う。

安曇総合病院の再構築はどんな形であれ市立大町総合病院との連携、協業、そして統合なくしてはあり得ない。


大町病院は大北地域の中心部で人口も多い大町駅前という好位置にあり災害医療の拠点でもあり院内でICLSコースを開くなど救急医療も頑張っている。また常勤の産婦人科医がおり、お産もおこなっている。
安曇総合病院は精神医療、整形外科などの得意分野をもち、独自で初期・後期研修医を採用したり、DPCや7:1看護、電子カルテの導入の実績もありなんとか黒字経営をつづけている。

まずは両方の病院の現場の職員や両地域の医療福祉従事者、住民が参加できる医療や経営などの合同の勉強会や懇談会、飲み会を頻回におこない交流していくことからだろうか。

(文責:樋端)

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