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精神科医師のブログ。
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漢方薬、保険はずしのピンチをチャンスに!

2009年11月26日 | Weblog
内閣府の行政刷新会議による事業仕分けで、漢方薬や湿布等の市販品類似薬を保険適用外とする方向性で結論が下されたそうですがとんでもないことです。

医療や東洋医学の何たるかを知らない仕分け人が何を言うかです。

湿布薬に関しては、家族みんなの分を欲しがっているのではないかというくらい大量に希望される方がいて包括化などの方向性はあり得るとは思いますが、あちこち痛いお年寄りを湿布で我慢させているくらいなら、むしろ鍼灸や維持リハビリの保険適応のあり方を再考するべきでしょう。

この漢方薬の保険はずしは、さすがに暴挙だと考える人も多いようで、医療従事者や市民から非難の声が上がっています。

【ツムラ・芳井社長】漢方薬の“保険外し”に反発‐「事業仕分け」の結論を一蹴

心身を一体のものとして捉え複雑系としてシステムを読み解こうとする東洋医学の側から見れば西洋医学では有効な治療法の無いような病態に関しても出来ることはたくさんあります。

また高齢者の医療にかかる医療費の削減やQOLの向上を目指すなら、老いや病と折り合いをつけつつ共存を目指す東洋医学を推進したほうがいいであろうことは、漢方を主軸においた治療で効果を上げていた南富良野町での経験からも示唆されていることです。

生薬やエキス剤が薬価収載され、西洋薬とあわせて医療に自由に使える、また鍼灸をはじめとする補完代替医療がここまで一般的であることは実は他の国と比較して、世界がうらやむ日本の医療のアドバンテージなのです。
西欧諸国はもちろん、中国や台湾、他のアジア諸国でもこういう医療環境のところはありません。
であるからこそ民主党も統合医療の推進というマニフェストを掲げたのではないでしょうか。
我が国から漢方薬のエビデンスの集積やメカニズムの解明のための研究をさらにおしすすめ世界に発信していかなくてはなりません。

漢方薬の使用に関しては診断に対しての処方ではなく、証に対して処方するというのが基本です。
証は東洋医学の理論をもとにした経験則やエキスパートオピニオンともいえる口伝(くでん)の集合からなっています。
診断ではなく個別に効くであろう全体像(証)の人に、効くであろう処方をして、効いたならば証があっていたという理屈(方証一致)ですから、西洋医学流のエビデンスのレベルではせいぜいケースシリーズどまりで、RCTなどは難しいのです。

しかし理屈に基づいて古来より言われているように用いれば、ちゃんと効くのです。

自分の経験ですが、ストレスで疲れ果てバテているのになかなか眠れず、食欲もなくなったときにすすめられて補中益気湯を飲みました。
初めて飲んだその日(!)にひさしぶりにすっきりと気持ちのいい眠りにつけたことを思い出します。
ついでに疲れがたまると毎度出てきて悩まされていた痔核まで治ってしまいました。
食欲も出て気持ちのいい便通もつき体が元気になっていくのを実感しました。
今考えるとエネルギー切れの気虚の状態が補気の作用で改善され、また昇提作用(気を上に引き上げる作用)の効果で痔(下陥の状態)の改善されたと解釈できます。

そんな経験があって以来、漢方薬や東洋医学を信頼し、自分でも勉強しながら少しづつ使える方剤を増やし、いろいろなエキス製剤を試して飲んだり生薬を煎てみたりしながら経験を蓄積しています。

精神科、心療内科に流れついた西洋医学の目では単なる不定愁訴としか捕らえられなかった、痺れや冷え、のぼせ、動悸、痛みなどの症状が東洋医学の理屈でみごとに説明でき、こういう人に効くという(証)にあった方剤を出せばかなりの確率で期待されている効果が得られます。

「楽になりました。」
「何かいい感じです。あっている気がします。」
「2年間取れなかった頭のモヤモヤがすっきりしました。」
「のどのつかえが取れました。」
「気持ちが落ち着いています。」
「つづけてみたいです。」

著効と言えるようなケースも経験し、最近は患者さんからもこういう言葉をいただき感謝されることも増えてきました。

自然の治癒力や回復力を助け、その人なりのバランスに落ち着ける心身を一体として読み解こうとする理論や、傷寒論の精緻な急性熱性疾患の経過の観察には新鮮な驚きを覚えます。

風邪ひとつとってみても、西洋医学だけでは固体側の要因は無視した対処療法しかできませんが東洋医学では養生法の指導と一体となった細やかな治療が出来ます。
また、こころの風邪といわれる「うつ病」の養生にも東洋医学の考え方はフィットします。

そして来るべき強毒性のインフルエンザのパンデミックの際には必ずや傷寒論の考え方や漢方薬が役に立つでしょう。

漢方の保険はずしが議論され、漢方医療はピンチにたたされています。
しかしこのような議論になっている今こそ、東洋医学を西洋医学とともに医療に欠かせないものとして、医療者や市民に広く認知してもらうチャンスともいえるのではないでしょうか?

まずは署名にご協力をお願いします。↓

漢方を健康保険で使えるように署名のお願い

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2 コメント

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Unknown (もーみん)
2009-11-29 10:02:56
私もびっくりいたしました。

どこがどうなってこういう結果なのか、議論の過程を調べてみたいと思います。

この仕分けの後に、国家戦略局で東洋医学に関する統合的な施策指針が打ち出されるという前提の話なのか、それともこの適応外とする結果だけでもって後の政治判断の俎上にのぼるのか?
その前後の流れもよくみないといけませんね。
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仕分け (といぴ)
2009-11-29 20:37:19
もーみんさんこんにちは。

いづれにしろ、一部の人のこんな「仕分け」だけでとても決められることではないでしょう。

むしろこれは保険適応を決める仕組み(今は中医協)をどう改善していくかというテーマのなかの一部なのではないかとおもいます。

最近は削減ありきの経済論理が先行しがちなので・・。
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