ときの備忘録

美貌録、としたいところだがあまりに顰蹙をかいそうなので、物忘れがひどくなってきた現状にあわせてこのタイトル。

レクイエム

2021-05-03 | 砂時計

学生時代、趣味で習っていたピアノの先生が亡くなった。
享年70歳。
この四月にお誕生日を迎えられたばかりだった。
5年前、脳に腫瘍が見つかり自宅で闘病生活を送られていた。
入院されてすぐ、私の仕事中にかかってきた電話は忘れられない。
おそらく、ご自身の病のショックに混乱し、ご自身で受け止めきれなかったのだと思う。
それでも、季節ごとにメールやLINEで、同じように脳の病に倒れた夫や、それを支える私の様子を気にかけていてくださった。

田舎の高校生だった私にとって、都会の風をまとったようなその先生は憧れでもあった。
エリートサラリーマンのご主人を支え、優秀なお子さんに恵まれ、かわいいお孫さんたちにも恵まれた幸せな一生だったと思う。
ご主人からもたらされた突然の訃報、ひょっとしたら自分の母親の死よりもショックだったかもしれない。

お通夜でお目にかかったご主人は、気丈にふるまっておられたがその表情には疲れもにじませておられた。
先生との会話を通じて、その成長をうかがっていて初めてお目にかかるお子さんたち。
「姉弟で早慶戦を繰り広げているのよ」
と、嬉しそうに語られていた姿を重ねると、さらにその年月と寂しさが押し寄せてきた。

私の還暦祝いにいただいたワインを、今宵開けた。
普段飲むテーブルワインとは比べ物にならない上品で繊細な味わい。
どうせなら、この感想をお目にかかってお伝えしたかった。
もう一度、大好きな銀座を歩きたかったに違いない。

先生、いただいたワインは本当に、とってもおいしかったです。
もう一度、先生にピアノを習いたかったです。
ご冥福をお祈りいたします。




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