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「小夜子と天院」5

2014年06月27日 | T.B.2016年
「こんにちは」

 突然、声がかけられる。

 その声に驚いた彼が、彼女と話すのをやめる。

「……?」
 彼女は、彼の様子に首を傾げながらも、云う。
「この声は、未央子(みおこ)?」
「こんにちは」
 未央子は、再度、あいさつをする。
 彼女が訊く。
「ひょっとして、野菜?」

 未央子は、豆をたくさん抱えている。

「お話の途中に、ごめんなさい」

 云いながら、未央子が笑う。

「豆、頼んでもいい?」
「いいよ。野菜を洗うのも、もう終わるから」
「今日の夕食の分らしいけど」
「間に合うと思うわ」

 と、

 彼が立ち上がる。
「どうかしたの?」
 彼女が、彼に声をかける。
「いや」

 彼が云う。

「じゃあ、また」

「ごめんなさい。仕事が増えてしまって」

 彼が行ってしまうと、未央子が云う。

「あなたと話すのに、夢中だったのね」
「え?」
「だって、私が来たのに、相当驚いていたよ」
「そう?」
「冷や汗かいてた」

 それを聞いて、彼女が笑う。

「最近、よく話すんだよ」
「今の人と?」
「うん。結構、毎日」
「へえ……」
「何か変?」
「うん。変かも」
「何が?」
「……あの人、あまり人と話さない、と云うか」
 未央子が云う。
「周りと接触しないようにしている、と云うか」

「未央子も、知ってる人なの?」

 その言葉に、未央子は驚く。
 訊き返す。

「誰だか、知らないの?」

「知らないよ」
 彼女が云う。
「最近、よく話す人、て、だけ」

「本当に知らない?」

「うん。名まえも、知らない」
「知ってて話しているのかと、思った」
 彼女が訊く。
「未央子、名まえ知ってるの?」

「確か……」

 未央子が考え、云う。

「天院(てんいん)様、だわ」

「え?」
 彼女は、洗っていた野菜を、落とす。
「まさか!」
「顔をよく見たことはないし、どう云うつながりかは判らないけれど」
 未央子が云う。
「宗主様の、ご家系の方よ」

 東一族の宗主家系の男性名には、「院」の文字が入る。
 宗主の直接の家族ではなくても、高位家系であることは間違いない。

「宗主様の、家系の……?」

 突然、彼女は、洗い水を勢いよく流す。

「もう!」

 彼女の、その様子に未央子は驚く。
「何、怒ってる?」
「怒ってる!」
「なん、」
「あの人、使用人のようなもんだって云ってたし!」
 未央子の言葉をさえぎり、彼女が云う。

「目が見えないから、そう云ったのかな?」

「なれなれしく話しちゃったし!」

「かしこまって話してほしくなかったとか」

 彼女は顔を膨らませる。

「それにしても、……」

 未央子の呟きに、彼女が訊く。

「何?」
「いや。なんでもない」
「何よ?」

「天院様、怪我してた」

「ああそう!」

 彼女は顔を膨らましたまま、云う。

「この前も、していたけどね!」



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