TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「小夜子と天院」1

2014年06月06日 | T.B.2016年

 小さな部屋で、彼女は、仕事をした。

 暗い部屋の中で、
 ほんのちょっとの明かりで。

 あるときは

 運ばれてきた豆を
 手探りで、集め、
 手探りで、むく。

 あるときは

 運ばれてきた綿花を
 手探りで、集め、
 手探りで、紡ぐ。

 誰かが、彼女に、豆や綿花を運んでくる。

「今日、ちょっと量が多いけれど」
「大丈夫よ」
 彼女は、運ばれてきたそれらを受け取る。

「綿花は急ぎじゃないわ」
 誰かの言葉に、彼女が頷く。
「じゃあ、豆むきを終わらせよう」
 彼女は、豆をむきはじめる。
 誰かが云う。
「もう少し、明かりを増やしたら?」
「平気」
「明かりを持ってくるわ」
「油がもったいない」
「……手元が見えないのに」
 誰かは、ため息をつく。
「単純作業だもの」
 彼女が云う。
「慣れてるから」
 誰かが、云う。
「私には、無理だな」

 彼女は、笑う。

「そうかもね」

 誰かが云う。
「休み休みやったら?」
「大丈夫」
「量が多いんだから」
「大丈夫だって」
「急いでるの?」
「うん」
「なぜ?」
「早く終わらせたいから」
「豆も、そんなに急ぎじゃないよ」

 彼女が云う。

「早く、終わらせたいだけ」

「……上手ね、豆むき」
「ありがとう」
 彼女が、豆をむきながら、云う。
「こつがあるのよ」
「こつ?」
「そう」
「今度、教えて」
「いいよ」

 誰かは、彼女が紡ぎ終わった糸を、かごに入れる。

「あなたの糸、持って行って、届けてくるわ」
「お願い」
 誰かが云う。
「糸、紡ぐのも上手ね」
「こつが、ね」
「はいはい」
 誰かが、部屋の扉を開ける。
「じゃあ、またね」
「うん」
 彼女は、豆をむき続ける。
 誰かは、振り返る。
「たまには、休んでよ」

「こんなことしか、私、出来ないし」

 外で仕事が出来ない分、これぐらいは、と
 彼女は自分に出来ることをやる。

 同じ東一族の村人とは、少し違う生活だけれども

 それで、食べることが出来る。
 生活も悪くない。

 何より

 ここにいれば、彼に会える。

 仕事さえ終われば、
 彼が、迎えに来て、外へと連れ出してくれる。

 ちょっとでも早く会えないかな
 なんて
 考えながら
 仕事を、どんどん片付けていく。

 手が荒れたって、たいしたことない。

 彼に会える。
 それだけで、仕合わせだった。



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