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「彼女と母親の墓」1

2017年06月16日 | T.B.2020年

 彼女は、ひとり。
 庭に出て、花を見る。

 庭は、きれいに手入れされ、この時期の花が並ぶ。

 彼女は、ただ、花を眺める。

 しばらくして、彼女の父親が現れる。

 彼女に話しかける。
 彼女は答える。
 そうして、すぐに、父親は去って行く。

 彼女は父親を見送る。

 あたりを見る。
 誰もいない。

 空を見る。
 日は、まだ高い。

 彼女は庭を出る。

 本当は、この庭から出てはいけないのだけれど。
 ……大丈夫。
 きっと、父親には気付かれない。

 彼女は、そのまま村を歩く。

 村人と、すれ違う。

 彼女がひとりで歩いていても、一族の者は気にもとめない。
 気にもとめず、あいさつをする。
 彼女も、笑顔であいさつを返す。
 一族の者は知らない。
 彼女がひとりで歩いていては、いけないことも。
 彼女の身分も。
 そもそも、彼女の存在も。

 彼女も知らず顔で、東一族の村を歩く。

 やがて、村人の姿がなくなる。

 あたりが静かになる。

 彼女は、村はずれの墓地にたどり着く。

 墓地を見る。
 たくさんの墓が並ぶ。

 ひとつの墓に近付くと、彼女は墓石を見る。
 そこには、名と日付が刻まれている。
 それを見ると、その隣の墓も見る。
 それを見ると、さらに、その隣も見る。
 彼女は、順番に墓を見る。

 前列に並ぶ墓を、すべて見終えて
 ふと、
 彼女は顔を上げる。

「……誰?」

 彼女の横に、誰かが立っている。

 彼女より背の高い彼、は、彼女を見下ろす。
 その表情は、驚いている。

 彼女は、屈んだまま、彼を見上げる。
 訊く。

「あなたは誰? なぜ、驚いているの?」

 彼は、目を見開く。

 彼女は続ける。

「ひょっとして墓地には誰もいないと思っていた?」

 彼は、何も云わない。
 ただ、彼女を見ている。

「私がいたから、驚いているの?」

 彼女は首を傾げる。

「ねえ。聞いている?」

 その、彼女の言葉に、

 彼は、やっと口を開く。

「そう。……墓地には人が滅多に来ないから、……俺も驚いて」

「私も、あなたがいて驚いたのよ」
 彼女が訊く。
「あなたは、お参りに?」

 彼は、少し考える。

 そして、頷く。

「……君、は、なぜここに?」

「私はね、お墓を探しているの」
「お墓を?」
「そう。私の母様の、お墓」

 彼女は、立ち上がる。
 墓地を見渡す。

「亡くなった母様のお墓が、どこかにあるはずなんだけど、見つからなくて」
 彼女が、彼を見る。
「でも、私がここにいること、内緒だよ」

「……なぜ?」

「私、屋敷を出ちゃいけないの」



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