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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「海一族と山一族」1

2015年05月05日 | T.B.1998年

海には舟が数隻浮かんでいる。
全て海辺に住む一族が漁のため出した舟だ。

彼らは漁を生業として過ごしている。

「今日は良い天気だな」

一つの舟の上、
青年が呟く。

晴れて、凪いだ海。
今日は漁の日ではないが
そうでない日も彼らは沖に出ている。

もう習慣になって居るのだろう。

「……ミナトはいつもそうだな」

舟の上には2人。
1人は釣りをしていたが
もう1人横になり寝ていた青年が起き上がる。

「今日も凪で良かった。
 晴れて良かった」

彼の言葉をもう一度繰り返す様に
そうして、それをとがめる様に言う。

「同じ事の繰り返し、
 いつもと同じ毎日、それが良いという」

退屈じゃないか、と
そう言う彼に、ミナトと呼ばれた青年はため息をつく。

「お前はそういう所があるなトーマ」

年の頃は同じだが、
僅かに年上のミナトは複雑な表情を浮かべながら答える。

「凪いでいる時の漁が一番安全だ。
 なのにそれがつまらないという」

言われたトーマの方は気まずそうに目をそらす。

「確かに時化た後や、
 少し風があった方が良い成果が上がる時もある」

ミナトは釣りの手を止めて
トーマに向き直る。

「でも、お前は違うだろう。
 時化や荒れた天気の時の方が
 楽しそうだ」

「―――誰かがケガしたらいいとか
 そんなことを思っているわけじゃなくて」

「変化を求めるのは良いけれど」

ミナトは遠くに視線を向ける。
それは海ではなく、山の方。

「無くしてからじゃ遅いんだからな」


「―――俺は」


「なーんてな」

ぶはっと耐えきれずにミナトが吹き出す。
「え?」
「まぁ、確かに少しいつもと違うことがあった方が
 メリハリがあるよな」
あーおかしい、と笑うミナトに
やっと、からかわれたとトーマは気付く。

ばしゃーん、と大きな水音が沖に響く、

岸辺で作業をしていた少女は
立ち上がってそちらの方向を見る。

「あぁ、トーマとミナトは
 今日も遊んでるわね」



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