辰樹は空を見上げる。
まだ、昼だというのに薄暗い。
雨でも降るのだろうか。
と、
遠くから聞こえる鳥の声に、辰樹は耳を澄ます。
これは、
「緊急召集……?」
動物を供とする東一族ならではの合図。
辰樹は走る。
武器を握り、
自身の抜け道を使い、
宗主の屋敷へ。
「来たか、辰樹!」
「何があった?」
屋敷の前に、戦術大師の補佐がいる。
戦術大師。
通称、大将と呼ばれる東一族の戦力の要。
以前は、現宗主が務めていたが、
現大将に変わってからは、その本人に、辰樹はあったことがない。
「諜報員か?」
「そう。砂だ」
辰樹は補佐を見る。
補佐と云っても、辰樹のひとつ上。
それだけの実力を持つ、と云うこと。
「砂の諜報員が宗主様に毒を使おうとした」
「え? 毒?」
辰樹は驚く。
「砂がよく宗主様に近付けたな」
「当たり前だ」
補佐が云う。
「そいつは東一族だ」
「東一族!」
辰樹は考える。
「砂に寝返ったと?」
「どう云う理由かは知らん。だが、毒を使おうとしたのは事実だ」
「すごいな、そいつ」
「女だ」
「お、女!」
補佐が云う。
「その女と、毒を調達した砂一族が村内にいるはずだ」
「判った」
辰樹は頷く。
「包囲網は?」
「張ってある」
「追えばいいんだな」
「宗主様も大将も向かっているはずだ」
辰樹は再度頷き、補佐に視線をやる。
それに気付いた補佐が頷く。
「女も砂一族も、猶予はない」
つまり
すぐに、息の根を止めても構わないと。
「確認なんだが」
辰樹は訊く。
「東の女がはめられた可能性は?」
「それはどうか」
「その可能性が高くないか?」
補佐が云う。
「女は屋敷の使用人だ」
「名まえは?」
「判らん」
「ええー」
辰樹は気の抜けた声を出す。
「判んないのかよ」
構わず補佐は続ける。
「その使用人の父親は、以前、砂に情報を流して殺されている」
「へえ。そう云う東一族いるんだな」
辰樹は、動こうとする。
その背中に、補佐はさらに云う。
「とにかく、目に病がある使用人だ」
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