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「辰樹と天樹」23

2016年11月11日 | T.B.2017年

 辰樹は空を見上げる。

 まだ、昼だというのに薄暗い。
 雨でも降るのだろうか。

 と、

 遠くから聞こえる鳥の声に、辰樹は耳を澄ます。

 これは、

「緊急召集……?」

 動物を供とする東一族ならではの合図。

 辰樹は走る。

 武器を握り、
 自身の抜け道を使い、

 宗主の屋敷へ。

「来たか、辰樹!」
「何があった?」

 屋敷の前に、戦術大師の補佐がいる。

 戦術大師。
 通称、大将と呼ばれる東一族の戦力の要。

 以前は、現宗主が務めていたが、
 現大将に変わってからは、その本人に、辰樹はあったことがない。

「諜報員か?」
「そう。砂だ」

 辰樹は補佐を見る。

 補佐と云っても、辰樹のひとつ上。
 それだけの実力を持つ、と云うこと。

「砂の諜報員が宗主様に毒を使おうとした」
「え? 毒?」

 辰樹は驚く。

「砂がよく宗主様に近付けたな」
「当たり前だ」

 補佐が云う。

「そいつは東一族だ」
「東一族!」

 辰樹は考える。

「砂に寝返ったと?」
「どう云う理由かは知らん。だが、毒を使おうとしたのは事実だ」
「すごいな、そいつ」
「女だ」
「お、女!」

 補佐が云う。

「その女と、毒を調達した砂一族が村内にいるはずだ」
「判った」
 辰樹は頷く。
「包囲網は?」
「張ってある」
「追えばいいんだな」
「宗主様も大将も向かっているはずだ」

 辰樹は再度頷き、補佐に視線をやる。

 それに気付いた補佐が頷く。

「女も砂一族も、猶予はない」

 つまり

 すぐに、息の根を止めても構わないと。

「確認なんだが」

 辰樹は訊く。

「東の女がはめられた可能性は?」
「それはどうか」
「その可能性が高くないか?」

 補佐が云う。

「女は屋敷の使用人だ」

「名まえは?」

「判らん」
「ええー」

 辰樹は気の抜けた声を出す。

「判んないのかよ」

 構わず補佐は続ける。

「その使用人の父親は、以前、砂に情報を流して殺されている」
「へえ。そう云う東一族いるんだな」

 辰樹は、動こうとする。

 その背中に、補佐はさらに云う。

「とにかく、目に病がある使用人だ」



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