東一族が、走り回っている。
市場もすべて閉め、
家の扉を、固く閉ざす。
辰樹はあたりを警戒しながら、走る。
相手は、東一族の村に入り込んだ砂一族。
相当の実力者のはずだ。
「どこにいるんだ」
辰樹は耳を澄ます。
耳を澄ましながら、
先ほどの、補佐の話を思い出す。
補佐は、目に病がある使用人、と云っていた。
目の病。
それだけで、どの東一族の者かはずいぶんと絞られる。
しかも、女。
屋敷の使用人。
「…………」
一番に思い付くのは、未央子の友人。
「いやいや。まさか」
立ち止まり、辰樹は首を振る。
未央子の元に行って、その友人の所在を確認するべきだろうか。
確認出来れば、その友人の疑いは晴れる。
「名まえは、何と云ってたかな……」
辰樹は、口元に手をやる。
「えーっと。……小夜子(さよこ)、だったか?」
と。
何かの音。
話し声。
「誰だ?」
……とりあえず証拠隠滅。
「これは、」
……君を、殺す。
「もしや」
辰樹の額に汗が流れる。
武器を握り、走り出す。
「どこだ!」
辰樹の頭の中で状況が浮かぶ。
このままでは、東一族が危ない。
辰樹は声の元を追う。
「東一族に殺されたように、傷を入れてあげるし」
砂一族の声。
「宗主付きの蛇に近い毒も入れてあげるからねー」
「や、」
「そうすれば、少しは俺の時間が稼げるだろー」
「いや……」
「ん? 誰か来るな」
「いや、」
「急ぐわ」
「助け、」
「やめろ!」
辰樹は叫ぶ。
「あーあ。来ちゃったか」
「下がれ、砂一族!」
「何でだよ」
薄笑い。
そして、
「だめだ、やめろ!」
辰樹は、紋章術を作動しようとする。
が
間に合わない。
東一族の少女が何かを云う。
砂一族は
容赦なく手を振り下ろす。
東一族の少女が倒れる。
血が、流れる。
「おい、待て!」
瞬間、
砂一族は、走り去る。
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