辰樹は走る。
砂一族の痕跡を追う。
痕跡は弱まっている。
隠れたのか。
逃げられたのか。
東の誰かに、やられたのか。
辰樹は走る。
どれだけ走っただろう。
砂を見て、
天樹と別れてから、ずいぶんと時間が経っている。
水辺近くに出る。
そこに血の痕。
それは、水辺の方へと延びている。
「ここでいったい何が」
辰樹はあたりを見る。
誰の気配もない。
けれども、ここで争った痕がある。
紋章術の発動の、痕。
辰樹は耳を澄ます。
誰かが走ってくる音。
「補佐!」
辰樹は、やってきた補佐を見る。
「辰樹、砂が見つかった!」
「俺も見たんだ」
辰樹が云う。
「東の者がひとりやられた」
「ああ」
補佐はすでにその情報を得ている。
「砂も手負いらしい」
「そうか」
辰樹は足下を見る。
「ここに血の痕と、紋章術発動の痕が」
「これは、宗主様の紋章術だな」
「宗主様が砂を?」
「おそらく」
「なのに、宗主様から逃げ切ったと?」
辰樹の言葉に、補佐は頷く。
「砂は命をかけてるからな」
「うへえ」
「死ぬ気で最期までやるだろうよ」
「投降すりゃ悪いようにはしないのに」
「あいつらは、それを恥だと思ってる」
「じゃあ、この血の痕は砂のものと云うことか」
「そうかもしれん」
補佐は指を差す。
「お前は、あちらを探せ」
「判った」
「気を付けろよ」
補佐が云う。
「砂は何をしてくるか判らん」
「いや、でも。ここまで血が出てるならもう、」
「辰樹」
きつい口調で云い、補佐は首を振る。
「……判った」
辰樹は武器を握りなおす。
補佐は走り去る。
辰樹は再度、足下を見る。
血が延びる水辺の方向を、見る。
けれども、そちらから、砂の気配はない。
辰樹は首を傾げる。
補佐に云われた方へと走り出す。
走りながら、
東の少女はどうなったのだろう、と考える。
おそらく
天樹が病院へと運んだはずだ。
あとは医師に任せるしかない。
そしたら、天樹も砂を探しに、また村に出ているはず。
どこかで合流出来るだろうか。
「っと、」
辰樹は突然、立ち止まる。
静かな場所。
風が吹く。
地面に、血。
そこに
「砂一族」
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