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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」101

2014年09月16日 | 物語「水辺ノ夢」

夕食中に、圭が箸を止める。
そこにいるのは杏子と圭だけ。
湶は先に夕食を済ませている。

「……?」

杏子は不安そうに圭をのぞき込む。

体調が悪いのか、
夕食が口に合わなかったのか、
そう考えているところで圭が口を開く。

「両親が、帰ってくるって」

ぽつりとそう呟く。

「圭の……お父様とお母様?」
「そう」
圭は、じっと料理を見つめたまま続ける。
「湶がさっき俺に言ったんだ、
 補佐役の話だから間違いないだろうって」
両親のことは、湶が帰ってきたときに少し聞いていた。
南一族で―――諜報員をしている、と。

「ずっと居るのか、
 一時的な帰宅なのかは分からないけど」

湶の時と同じで、
ずっと離れていて記憶もない両親に
圭はまた、戸惑うだろう。

「圭、大丈夫?」

どうかな?と圭は自嘲気味に笑う。

「でも、多分。
 俺がどうこう言ってる場合じゃないんだと思う」

圭はため息をつく。

十数年一度も帰らなかった両親に
帰宅が許される。

「それほど、ばあちゃんの状態も悪いと
 判断されたって事だから」

杏子は思わず言葉に詰まる。

でも、

「私に出来ることがあったら、言ってね」

そう言う杏子に、圭は顔を上げる。
この話を始めてから
圭が初めて杏子をきちんと見る。

「……杏子は」
「うん?」

圭はしばらく、無言になる。
何だろう、
杏子は圭が自分に何をして欲しいのかが分からない。

やがて、圭は言う。

「また、杏子には面倒をかけると思うけど」
「……いいのよ、
 私の事は気にしないで」

圭は、そうか、と言って食事を再開する。
杏子もそれに続く。

やがて、食べ終わった食器を片付けながら
杏子は思う。

もしかして、

さっき、圭は自分に何か言って欲しい事があったのだろうか。
ずっとそれを待っていたのだろうか。

でも、圭は今、部屋に戻っている。
言って欲しかった言葉も分からない。

いずれ、分かるだろうか。
それに自分も圭に言うことがある。
状況が落ち着いたら、その時に言おう。

そう思い杏子は片付けを続ける。

そして、数日が過ぎ、
両親が帰宅するというその日がやってくる。



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