「ここで、何してる?」
広司は、杏子を見る。
杏子は答えない。
「圭を探してんの?」
広司の言葉に、杏子は頷く。
「いいじゃん。いなくなったままで」
「また、そんなことを・・・」
杏子はあたりを見る。
広司以外、誰もいない。
圭も、いない。
杏子は、広司を見る。
云う。
「あなたは、あの部屋から出られたのね」
「それ。ずいぶん、前の話だけど」
「ここで、何を?」
「見回りだよ」
「見回り?」
「東一族が攻めてこないように」
杏子は、首を傾げる。
「攻めてくるの?」
「さあ?」
広司が云う。
「祖父母の代の時までは、この水辺に舟を出して、争っていたって、話」
「そう・・・」
杏子は、水辺を見る。
水辺は静かだ。
ずっと昔に、ここで争いがあったとは、とても思えない。
「圭・・・」
水辺を見たまま、杏子が呟く。
「どこへ行っちゃったんだろう」
その様子を見て、広司が云う。
「あんた、圭とやったの?」
「え?」
思わず、杏子は広司を見る。
「だから、圭と」
杏子は顔を赤らめる。
首を振る。
「そんなこと、聞かないで」
「そう」
広司は、杏子を見る。
「もし、」
「え?」
「もし、圭が帰ってこなかったらさ」
広司が云う。
「俺んとこ、来てよ」
その言葉に、杏子は驚き、広司を見る。
広司は目を背け、立ち上がる。
水辺から、去る。
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