「早くから、悪いな」
湶の姿を見つけると、優は声をかける。
早朝。
村人が、やっと動き出すころ。
湶は、ひとりで現れる。
「昨日の今日で疲れているだろうが」
「構わないよ」
「すまない。これまでの話を聞きたくてな」
優は、辺りを見る。
「圭は?」
「まだ寝ていた」
「そうか。・・・まあ。気持ちの整理には時間がかかるだろう」
「圭には、十何年ぶりに会ったわけだけど」
湶が云う。
「圭は、今、何をして暮らしているんだ?」
「何、と云うか」
優は息を吐く。
「あの身体だからな。畑仕事やったり、・・・そんなもんだ」
「あまり、身体はよくないのか」
優は頷き、云う。
「狩りに出られないから、役立たず扱いだよ」
「役立たず・・・」
湶は、優の言葉を繰り返す。
「ここでは、男も女も、狩りが出来て当たり前だからな」
優が云う。
「湶。お前、狩りの訓練はしてきたのか?」
「一応」
湶は答える。
「南ではほとんど必要ないけれど、父さんがやっておけと云うから」
「やっておいたがいいさ」
「でも、実戦はあまり。てとこかな」
優が云う。
「お前は西一族だが、見慣れない顔だ」
「ああ」
「近いうちに狩りにでるんだな」
「狩りに?」
「狩りさえ出来れば、村人からも認められる」
「わかった」
優は、家の中に湶を招こうとする。
と
「広司じゃないか」
優は、片手を上げる。
「どうした、こんな朝早くに」
「・・・いや」
広司は、優を見る。
そして
湶を見る。
「誰だ?」
「ああ」
優が云う。
「近いうちにみんなに紹介するが、・・・圭の兄だ」
「圭の?」
広司は再度、湶を見る。
「へえ。家族がいたんだ」
「近いうちに、狩りに行くだろうから、頼むな」
「ああ」
広司が云う。
「よろしく」
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