THE KUROSAKIC RADICAL

こちらは『闇の末裔』の黒崎密を幸せにするサイトでしたが、サーバー廃業により、ブログで密を愛することにしました。

都密小説『st.mulakitan's day』後編

2010-03-14 02:28:57 | 小説
!警告!
必ず、前編ないし中編よりお読み下さい。さもないと、ビックリして泣きたくなるかもしれません。



『st.mulakitan's day』後編

「んーーー!!」
口元を押さえて声を上げ、何度か咀嚼して飲み込んだ。
「美味しい♪♪」
舌についていたのは少し苦味のあるチョコレートで、柔らかく煮込んであったらしい舌は、舌の上で溶けるようだった。ブランデーの味が淡く後に引いて、都筑は密の手からフォークを受け取った。
「密の気持ち、食べるよ!!!!」
そう言うと密の涙が止まり、頬を緩ませて、14年経って初めての微笑を浮かべた。
その微笑は、密からもらった三段のチョコレートより、都筑の心の奥に深く刻み込まれた。
こんな嬉しそうな密の顔を見たのは、初めてだった。
いつまでも見つめていると、密が口を開いた。
「食うなら早く食えよ。冷めるだろ」
はっと我に返り、都筑はフォークを持ち直し、密の心尽くしのチョコレートを眺め、どこから食べれば良いのか躊躇った。
「まず三段目から食えよ。血液は固まりやすいから」
「血液?」
「それ、蜜漬けの心臓のチョコレートがけ。名前はハニーハート」
熱々の蜂蜜が口の中いっぱいに広がり、都筑の頭にはディズニーランドのプーさんのハニーハントが思い浮かんだ。
「今度デートしよ♪ディズニーランド行こうよ」
ぽっと頬を赤らめて、密は小さく頷いた。
都筑がハニーハートを一滴も残さず平らげると、密は珍しく饒舌になった。
「二段目は、ブラックチョコパイ。肺にチョコを窒息寸前まで注ぎ、パイ生地で包んだんだ。ニコチンの苦味がアクセント」
「……もしかして、パイと肺をかけた?」
「分かってるなら言うな!」
さらに顔を赤くした密は、やっぱり何をしても可愛かった。
「ごめんね。じゃあ富士急ハイランドにも行こうね。密、絶叫マシン好きでしょ?」
「お前の方がベタじゃないかっ!」
にこにこ笑って、都筑はブラックチョコパイも平らげた。
「最後は、ミショコラフォンデュ」
「え?」
聞き取れなくて聞き返すと、密は恥ずかしそうにもう一度言った。
「ミ・ショ・コラ・フォンデュ」
かち割られた脳から覗くペースト状のものを見て、都筑はおずおずと確認した。
「もしかして、味噌・ショコラ・フォンデュを縮めて、ミショコラ・フォンデュ?」
こくんと頷いた密に、都筑は強く言った。
「密、やっぱり初デートは名古屋へ行こう。名古屋といえば味噌。こここそ初デートの場所にふさわしいよ。絶対名古屋」
「別にいいけど。周りに置いたフルーツにからめて食えよ」
口に含むと、まるでチョコレート味のかにみそだった。
「美味しいよ!酒が欲しくなるっ!」
密はワインを注ぎ足して、自分のジュースも注ぎ足した。
「これも邑輝なんだ。邑輝の血をワインで割ったんだ。血液どろどろだったから、そのまま飲むには口当たりが悪すぎて。こいつを料理するの、結構大変だったんだぜ。楽しかったけどよ」
「そっか。ありがと、密」
「俺のは、オレンジジュースで割ったんだ」
「え?ブラッドオレンジジュースって、言わなかった?」
「馬鹿。ブラッド+オレンジジュース。まんまだ」
「ブラッドオレンジのジュースじゃなかったんだ……」
密は邑輝の脳天に突き刺さったままの、愛してるという文字を書いたプレートを抜き、都筑に見せた。
「これも時間かかったんだ。愛してるって漢字で書きたかったから、爪が足りなくて」
「爪?」
「そ。邑輝の爪を剥いで、ネイルを塗って、並べたんだ。爪が生えてくるまで待って、また剥いで色塗って。色を変えたり、花や星とか描いてみたりしたんだが、シンプルな方がいいと思って」
都筑は愛してるの文字をまじまじと見つめ、それほど密が凝ってくれたんだと嬉しくなった。
「俺が仕事に行ってる間は、邑輝にこのレースを編ませてたんだ」
始めにかけていたレースを取り出し、密は楽しそうに喋る。
こんな密なんて、今まで見たことなかった。
「逃げ出そうなんて考えないようにな。網目を一つでも間違えたら解いて最初からやり直し。編み棒なんて使わせずに、爪のない指で編ませた。
俺が言った量をこなせなかったら、骨を全部砕いてから殺したり、腕や脚を落としてから殺したり、肉を全部削いでから殺したり。俺は治癒能力者だから、死んだら生き返らせて、何度でも殺せる。その時々で色んな苦しめ方で殺して、楽しかった」
そう言って微笑む密は、やっぱり天使のように可愛くて、都筑はついつい見とれしまう。
「あ、もしかして、ステーキも邑輝?」
「当然だ。美味かったから分かんなかっただろ。ソースに凝ったのと、ハーブばかり食わせてたから」
自分のために作ってくれた料理について、楽しそうに話す密に、都筑は幸せな気持ちでいっぱいになった。


(おしまいです。残さずお読み頂きありがとうございましたm(_ _)m)

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