気ままな旅


自分好みの歩みと共に・・

何故か思い出した店名を入れ替えた話

2017-10-16 00:09:28 | エッセイ

 いま、或る原稿を書き始めている。 だが、持病のため筋肉が硬直し痺れで、なかなか思うようにいかなく時間がかかる。 そんな時に思わぬ記憶が覚まされることがある。  

 それは初めて単身赴任した時のことである。 当時は弁当屋はあるもの規模は小さい。 自炊をしていても主婦と違いレパートリーがない。 刺身が食べたいがスーパーに行くには帰宅が遅い。街中には魚やはまずない。 

 ところが、この街にはあった。 しかも、単身赴任マンションの近くの細い路地裏に・・・。

    「おばさん、まぐろ・・時には、かつを・・または白身・・・を」と、ひとりの食べる量だから遠慮して一種類になる。 本当はイカも、いわしも、幾つか食べたいと思っていた。 週に一回は立ち寄り一人分の刺身を買っていた。 

 或る時、言葉を交わすほどに親しくなってきた頃、おばさんが

     「いろんな種類があった方が良くないの~。作ってあげましょう」

と言うと7~8種類を2~3切れづつ綺麗に箱につまもわさびも付けてくれるようになった。 週に2回に増えることもあった。 値段はこれまでと同じだった。 間違いなく損をしている。 単身を哀れに思ったのかなと・・・感謝している。一年後に、この地を離れる時にはわざわざお礼の挨拶にいったほどだ。 

 気になっていた、お店の看板の由来?について聞いてみた。 店の名は「八百政」とあるからである。 魚屋なのにと…。 おばさんは口を開いた。

   「祖父の代に仲の良い友人に八百屋がいたそうです。 ふたりは永遠の仲を誓うことを約束し、お互いの店名を交換して使うことになったそうよ。 ところが代が代わり、こんどは犬猿の仲になってしまった。だが、元に戻すことが出来ず、このままになっているのだそうよ。 八百屋さんの店に行くと魚屋の店名になっていますよ」

と夏の夜の怪談話でも聞かされたようだった。 

その地を去ってから、もう33年も過ぎている。

行ってみて確かめたい気がする。 人間の頭の中の記憶回路は不思議ですね。それとも、私の記憶回路だけが狂っているのでしょうか・・・。

終わり          


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1 コメント

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貴重な思い出 (屋根裏人のワイコマです)
2017-10-16 08:22:37
一つのエッセイになっています
ショート、ショートのエッセイで
tiburonta さまの思い出が・・
素晴しい物語、そんなドラマの中に
生きて来たことが、今のご自身に
繫がっています
いい話しです
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