送電鉄塔の見える場所

稜線の向こうに消えてゆく鉄塔の列はどこへ続いているんだろう

チッソ株式会社水力センター

2010-07-01 23:24:11 | 変電所
また寄り道です。というより今度は分岐になりそうな・・・(´Д`)
新しい世界への扉を開けてしまったような気がする今回のレポートです。


 2回線鉄塔は南熊本緑川線、4回線鉄塔が南熊本宇土・南熊本松橋線。廃止された路線は右端の鉄塔の手前を通っていた。

1/25000地形図には南熊本変電所の西側に苓北火力線その他の電線路と交差し国道をまたぐ送電線が載っている。
毎日通る国道だけどその場所に現物はない。地形図の情報が少し古いのは分かっている。廃線だろうか?
たどってみると阿蘇への入口、立野の近くにある白川発電所を出発して宇城市小川町にある変電所へと入っていくようだ。
白川発電所ってロードマップには載っているけど九州電力の設備図にも熊本県企業局やJ-パワーのリストにもないんだよね。
どこのだろう?変電所も九電のじゃない。
「白川発電所」で検索してみたら・・・えー!大正3年建設のチッソの発電所!?あのチッソ?
水俣病の原因となった化学工業会社だとしか知らなかったけど、その母体は明治期に設立された水力発電会社なんだそうだ。
現在も熊本・鹿児島・宮崎の3県に計13ヵ所の水力発電所を持っていて水俣製造所の使用電力すべてをまかなっている。
たしかに地図上の送電線は小川からさらに水俣へと延びている。

このチッソ送電線の鉄塔がつい数年前まで熊本空港から程近い場所に残っていた。
産業遺産・近代化遺産のサイト「九州ヘリテージ」の管理人ゴン太さんからそういう情報を頂いた。
一部なりと鉄塔そのものが最近まであったのなら南熊本変電所周辺にも基礎や敷地の痕跡くらいは残っているかもしれない。
そう考えて苓北火力線の旅のついでにそれっぽいあたりを見に行ったのだが。探し物は見つからず、別の発見をしてしまった。
あまりにも長い名前がお気に入りだった「南熊本イオンモール宇城バリュー線」が「南熊本松橋線」に変わっている!
引込先が松橋変電所になったのか。松橋変電所は宇城バリューよりも手前だ。その先はどうなったんだろう。
宇城バリューがあるのも小川。小川に行ってみようか。

というわけで小雨のぱらつく仕事帰りに名前の変わった電線路に沿って南へ走った。
道々チェックした元・南熊本イオンモール宇城バリュー線のことは次回に。簡単に流すことのできない展開になったからね。

日没の遅い6月とはいえ雨模様の夕暮れだ。撮影もしようと思うなら時間の余裕はない。変電所に通じるはずの道を急ぐ。
どうにか明るさのあるうちに鉄塔が集まって立っているのが見えてきた。鉄構もある。
しかし周囲に駐車できる場所がない。川の向こうの次の鉄塔付近に車を置いて歩いて来た方が良さそうだ。

        
              左が九電、右がチッソの送電線              振り返って水力センターと1号鉄塔

山腹の果樹園の中に鉄塔が2本。大きい方は九電の110kV2回線、これは鉄構には繋がっておらず上を素通りしている。
位置と方向からして「あれ」の続きだな。鉄塔番号札を確認してびっくり!「南熊本人吉線 1925.2」って…
もう1本の腕金の配置が変則的な1回線鉄塔がチッソのものだった。碍子は5個。66kVだ。避雷碍子も付いている。
しかしなぜ空きも含めて腕金が全部片側に?そうなってるのは1号と2号だけだから鉄構との位置関係からなんだろうけど
そんなに角度ついてるかなぁ?上下回線とも2段腕金の三角配置にすれば鉄塔高を抑えられると思うのはシロウト考え?
段々畑の中だから若番側の脚2本と老番側の2本に段差がある。下のB脚に鉄塔番号札が2枚掲げられていた。
ずいぶんシンプルな表示だな。小川線かぁ。架線が外されてしまっている下段に以前は「小谷送電線」があったようだ。

 

ざっと鉄塔を見てからさっきの場所へ戻る。門の横の電柱が変だ。送電線との間隔を保つためか配電線の高さを下げてある。
えらく低く見えるけど大丈夫なん?いやシロウトですから余計な心配は止めますw
門柱に「チッソ株式会社 水力センター」、街灯には「チッソ(株)小川開閉所」と出ている。変電所ではなく開閉所だった。
左側の建物は社宅でその奥が事務所と制御施設らしい。営業車っぽい車が停まっているけど人の気配はしない。
連絡先の書かれた看板があるということはここも今では無人化されてるんだろう。

 
                      門扉のところから撮影。大きく写っている鉄塔は九電のもの。

門の右側が小川線1号鉄塔だ。外からだと番号札は見えない。先に路線名を確認しておいてよかった。
鉄構には南側の小川線の他に東側からも1回線鉄塔が繋がれている。あと2回線分空いているところには小谷送電線と
白川発電所からの路線とが入っていたのかも。
鉄構の様子は隣の畑の方向からならもっとよく判りそうだった。だけどもう薄暗かったし小止みだった雨がまた落ち始めていて
とてもケータイで撮影できるコンディションじゃなかった。ということでこの日はここまでで終了。

帰って地形図で確認すると東側の送電線は目丸発電所から出発し内大臣川発電所を経由、緑川ダムの南岸を下って来ていた。
内大臣川発電所は大正期に作られたチッソ所有の発電所だ。歴史のある路線なんだな。
小谷送電線の方はなぜか山の上で突然終わっている。地形図が改訂された時期にはすでにその先が撤去されていたんだろう。

翌日には天気も回復した。見残した東側が気になって休日まで待ちきれず、また仕事帰りに出掛けて行った。
初日に撮った画像は光量不足で画質の粗いのが多かったんで今回使ったのはほとんど2日目のもの。いいデジカメ欲しいよ~。

 
       東からの路線は内大臣川線という。96号が最終鉄塔。鉄構の下には避雷器・断路器・遮断器が並んでいる。

  
                内大臣川線96号                  美里町の山中に立つ内大臣川線66号(手前)と67号
                                             左の大きいのは上空を通過する500kV南九州幹線

ゴン太さんから教えていただいたサイトで無くなってしまった白川発電所からの路線の画像を見ることができた。
架空地線のない小さくて古風な鉄塔で最初「もしかして22kVの鉄柱!?」と思ったがあれはやっぱり66kVの鉄塔かもしれない。
九電の66kV電線路でそれよりやや現代風ではあるけど似たタイプの鉄塔がまだ残っているのを見つけたから。
でもその起点の発電所は2年後の増強工事開始が決まっていて鉄塔も建て替えられる可能性が高い。現役だから仕方ないね。
小川線も内大臣川線も古い路線だけど鉄塔は現代の仕様だ。チッソの他の路線でもたぶん同じ。

                     
                              架空地線ありの66kV甲佐支線2号

見た目では判らなくても長い歴史を持つ電線路がある。追っていくと違った姿が浮かんでくる。今回そういう世界を覗いてしまった。
次回もそういう世界の話。次の次は苓北火力線に戻ります。でもね、苓北火力線にもいろんな過去があるんですよ。ふふっ♪


追記:目丸発電所は1965年運転開始、内大臣川発電所は1916年運転開始と開設時期にかなりの開きがあります。
    目丸‐内大臣川の間は路線としては内大臣川線とは別かもしれません。距離と鉄塔基数から推測してもその可能性が
    高いです。しかし送電経路としては連続しています。
    一方、内大臣川発電所の対岸に同じくチッソの津留発電所(1920年運転開始)があります。
    川を挟んでいるとはいえ目と鼻の先なのに、こちらは内大臣川線とは連系しておらず九州電力の送電線に繋がっています。
    九電のも1927年開設の古い路線ですが津留発電所よりは新しいですし、完成当時の津留発電所は八代方面に向けて
    送電していたようなので、元々は内大臣川線との連系だったかもしれません。そのあたりは今後の調査課題です。
                                                                   (2010-08-25)

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4 コメント

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こんにちは (ゴン太)
2010-07-14 23:43:01
水力センターの記事、とても興味深く読ませていただきました。チッソに関する産業施設は古いものが多く、まだまだ“お宝”が埋もれているのでは、と思っていましたが、“電力”というインフラ側からの視点でそれらを見てみるのも面白そうですね。
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いらっしゃいませ (たぬ猫)
2010-07-19 13:09:29
ご訪問ありがとうございます^^
ゴン太さんのサイトで白川発電所について知ったのをきっかけに昔の事を調べ始めたんですが・・・こんな大変とは思いませんでした(´Д`)
ゴン太さんはすごいです!
なんとかこの連休中に南熊本人吉線&戦前の電力事情レポートをアップしたいんですが、できるかな(||| ̄△ ̄;)
それにしても戦前の人ってパワフルだったんですねぇ。今の政治家にあのパワーを見習って欲しいなー。

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はじめまして (Kitakuma)
2011-01-10 21:45:59
こんにちは。Kitakumaと申します。先日ブログを始めまして、チッソの自家用送電線について少々書こうと下調べをしていてここにたどり着きました。熊本の送電線ということで興味深く拝見させていただきました。たぬ猫さんの行動力と調査力には脱帽です。
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コメントありがとうございます (たぬ猫)
2011-01-14 08:48:51
わーい、熊本の方!来ていただいてとても嬉しいです。九州在住の送電線好きがカミングアウトして下さるのを待ってましたのでw
kitakumaさんのブログ、拝見しました。専門知識をお持ちの方って羨ましいです。憧れます・・・自分には理論的・技術的な素養は皆無です(-_-;)行き詰まったときには助けてくださいねー。

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