鍵おろす 神経の束どさり置く 多美
玄関の鍵を下ろして私は灯りもつけずに台所の床にペタリと座る。
勤めだしたばかりの精神病院での一日は緊張がいっぱい。
砥ぎすまされた精神を持つ患者さんや幻聴、幻覚のある人たちの中で、
看護士さんのお手伝い的仕事であっても神経はゆるむときがない。
緊張感で食欲も落ち、不眠が続いた。本当は私のほうこそ入院する必要が・・・。
ある日、院長にそのことを話すと「自分の神経を不安に思えることは正常な証拠」
と笑いながら仰った。神経は自由に形を変えるものらしい。ずいぶんと気分が楽になった。
ふぐのセットが届きました。初めて口に入れるもの。
「ふぐは食べたし命は惜しいし」
しばらくはお皿とにらめっこしていましたが
「えいやっ」とばかり口へ放り込みました。
美味しい!! 甘い歯ごたえがなんともいえません。
命と引き換えにしてもまた食べたい味でした。