産経新聞にこんな記事がありました。 京都大学名誉教授とかいう文学者が何も知らない進化論について語っています。進化論はなんの証拠もないというのは嘘で、ウイルス学とかの遺伝子分析にしろ、古生物学にしろ進化的な証拠はどんどんあがっております。そりゃあ、だれも36億年の生物の歴史をつぶさに見た人なんていないし、そんなに時間のかかる実験をしたわけはないので、決定的な論拠にかけるといえばそうですが、現在の生物界のありかたを進化論以上に合理的に説明できる理論はない。
――では、生命体はどうやって生まれたと考えますか?
それは分からないとID派の学者たちは答えています。
それはダーウィニストも同じでしょう。
だれも生物進化を完全に説明できる人はいません。
ゲイがどうしているのかだって、まだ説明できません。
性がどうしてあるのか、性別はどうして2つなのか(というと、怒られるんだけど)、性比はどうして1:1なのか、そういうことも分かっていない。いろいろな仮説は提出されていますが、分からないわけです。この人は、「仮説」と「科学理論」を区別できない人のようです。
ダーウィニストは、分からないことでも分かっているように言うのが科学的だと考えています。「分からない」「神秘だ」と正直に言う方が知的に誠実ではないでしょうか。
どこのダーウィニストも「分からないことでも分かっているように言う」わけはありません。科学を「分からないのに分かっているように言う」のはやめて欲しい。
アメリカにおけるインテリジェント・デザイン論争は、ピューリタン的な宗教の背景があります。橋爪大三郎氏の『アメリカの行動原理』にはその背景が書かれています(p56~58)。まとめると、「アメリカには信教の自由があり、政教分離が徹底していなければならない。しかるに進化論と聖書にある創造説は両立不可能な理論である。進化論を教えると、創造説を否定することになり、信教の自由を侵害する」ということのようです。1925年の「スクープ・モンキー・トライアル事件」(生物教師スクープが進化論を教えたとして訴えられた事件! いや~、ぼくも毎週訴えられちゃうよ!!)の宗教的な背景を解説するものです。
中岡望氏のブログにも詳しい解説がありました。
ところが、記事で渡辺名誉教授は、インテリジェント・デザイン説は宗教とは関係ないことを力説します。が、「詳しい解説」にもあるとおり、裁判のための戦略であるようです。
まっとうな科学者がどの程度、インテリジェント・デザイン学説系の科学者と論争をしたのか分かりませんが(きっとアホらしくてまっとうにやりあう気など起こりもしない)、以前、日本のあるメーリングリストで創造論者とダーウィニスト(というか、ダーウィン以降修正が加えられたネオ・ダーウィニズムが主流です)が論争をしていたのを見ていたかぎり創造論者に勝ち目はないという気がします。
ただ、キリスト教原理主義系統の創造説が認められたら、ゲイの存在というのは肯定されるんだろうか? 神がゲイも作ったってことになるじゃない?
しかし、ブッシュが肯定するにいたっては、いくらアホらしくても、科学者はまっとうな知性を擁護するために、一度は向き合わなければならないのかもしれませんね。
ちなみに日本のブログ界では、渡辺・京大名誉教授をトンデモだとする人ばかりでちょっと安心しました。ちなみに、ジェンダーフリー批判の背後にもあるのではないかと言われている、某宗教団体との関連も指摘されていますね。
ちなみに科学と疑似科学を分ける作業というのは、実はそう簡単ではなくて、論争があります。そのあたりは、『疑似科学と科学の哲学』(伊勢田哲治)をごらんください。
肩書きの字面からすると、「教授」よりも偉そうで権威あって賢そうだけど、ふしぎー。な人が多い気がする。めいよってなんだー。
ていうか、産経新聞もどうかしてて、なんで理学部生物学科の進化論の専門家のコメントも併置しないのか?って思っちゃいますなあ。
進化論は、たしかに「実証」できていないし、まだまだ分からないことも多いし、「仮説」でしかないんですよ。
でも、化石研究、DNAの系統などなどさまざまな手段で状況証拠が膨大にある仮説です。
ID仮説なんてアホなもんと一緒にされたくはないのです。