「平和百人一首」とこのシリーズについての解説は、初回記事と2回目の記事をご参照ください。前回記事はこちらで見られます。
なお、かなづかいや句読点は原文のままとするので、読みづらい点はご了承ください。
平和百人一首
焼け果てし街に還りて大工我れ まごころ込めて握るのみかも
静岡県光明村 浅野 高夫
戦ひ敗れて帰つて来た故郷の街は、赤錆びたトタン屋根の家並に生々しい戦火の跡をとどめた廃墟の街であつた。
いわれなき戦ひにかり出され殺戮の戦場に野獣の如くに濫費した青春の四ヶ年が今更ながら惜しまれてならなかつた。
やりどころない憤懣の中に送つた復員後の数ヶ月、併し生きねばならぬ要求は、私をして再び手馴れたのみを握つて廃墟の再建に立たしめた。
働くものの喜びがいつしか私の若い血潮をたぎらせ、平和の有難さが戦ひに荒んだ心に甘露の様にしみ入るのだつた。
ああ今日も空襲のない日本の空が美しく晴れて、新しい街をつくるのみの音が平和の讃歌となつて高く高く響いてゆく。
(高夫)