バイクライフ・バイクツーリングの魅力を北海道から。
聖地巡礼-バイクライディングin北海道-
ラーメンナイト(6)
ヘッドライトを消し、フル加速する田山のCB750。
スカイラインとチェンタウロがきれいに抜けつつあるカーブを猛然と加速する。
3秒でいい。稼がせてくれ!
スカイラインを追っていた圭子ミラーを見ていなかったのか、反応はなかった。
反応が先に現れたのはスカイラインだ。一瞬、アクセルを抜いたのか、瞬間的に速度が落ちる。
それを見た圭子が自分もアクセルを緩めたと同時に、ミラーに田山のCBの姿がないことに気が付いた。
圭子のチェンタウロがさらに速度を落とす。
その隙に、CBと田山はチェンタウロとスカイラインの間に入り込んだ。
間に合った!
ライト点灯。
左カーブが終わる。
田山は左手を高く上げて圭子に合図を送る。
びっくりさせて、ごめんな。
田山は感じていた。傾斜が変わる。登りから下りに変わる。一秒後には傾斜の頂上を越えていた。
スカイラインのライトが路面と周囲を照らしだす。
闇の中で、次の右カーブが迫っているのが見えた。
圭子の前にCB750を進め、左手を横に上げ、手のひらを後ろに向けてチェンタウロのライトに照らさせつつ、減速の合図をする。
直進を保ったまま、軽く制動を掛けていく。
後ろのチェンタウロも減速している。きっちり対応している。
Ok、さすが圭子だ。すまんな。
田山は一瞬、左向きに体をねじって圭子を振り返り、大きくうなずく。
さらに減速。同時にハザードを点灯。
圭子がさらに減速する。
スカイラインは、速度を落とさず、先行していく。
右カーブに入った。
スカイラインは見る見る離れる。
が、そのラインが右に大きく曲がって消えて行った。
田山と圭子は少し遅れて右にターンインする。
田山はCBを傾ける。
チェンタウロもリーンして、曲がってくる。
そうだ。ここの右カーブは、今までよりきつい。
そして長い。
時間をかけて、カーブを曲がっていく。
CBもチェンタウロも、完全にゆっくりモードの速度域に入った。
カーブを曲がりきると、スカイラインは遥か前方にいた。猛然と加速して、視界から消えていく。
CBとチェンタウロが直立する。
田山はハザードを点灯したまま、さらにゆっくりと、速度を落としていく。
チェンタウロのライトが心配げに揺れている。
… … … …
壇ノ浦PAは静かだった。すでに火曜日の11時を回っている。
水銀灯に照らされた駐車場に、CB750とチェンタウロがゆっくり入ってくる。
並んで停める2台ともサイドスタンドを掛け、エンジンを止める。
先にヘルメットをとったのは田山だった。
「圭子、大丈夫か。すまん、驚かせて。」
圭子がヘルメットをとる。大きく息をつく。
黙って田山を見た。
「大丈夫か?」
田山がCBから降りる。
圭子はチェンタウロに跨ったまま、2,3度、大きな息をした。
「ちょっと、あぶなかったわね。」
圭子が言う。
「…ああ、すまん。」
「そうじゃなくて。…32Rよ。」
「気づいてたのか?」
「ううん、…篤志クンが前に出て、びっくりして気づいた。あれもかなりあぶなかったけど」
「…すまん。」
「あのまま、引っ張られるままについて行ったら、結構やばかったね。」
冷静に見れば、スカイラインは走行ペースが速いだけで、それほど危なくはない。
危ないのは、それに追随して同じペースで走るバイクの方だ。
しかし…。
「最初に私の判断ミスだったね。ついていく相手じゃなかった。ランデブーする気なんて、なかったんだもの。」
「……。俺も気づくのが遅れた。もっと速くに前へ出て、追うのを止めればよかった。」
圭子はもう一度大きな息をついた。
グローブを外し、チェンタウロから降りる。
関門海峡の見えるテラスの方へ、歩いていく。
田山も圭子の後ろを歩いた。
レストハウス前の自動販売機で缶コーヒーを買う。
圭子はテラスの手すりに腕を乗せ、海峡を眺める。
田山は横に並んで立った。
並ぶたびに田山は思う。圭子、背が高いな…。
缶コーヒーを開け、一口飲む。
海峡の風は心地よかった。
10分ほど、黙ったまま二人で海峡の風に吹かれていた。
「わたし、だめだなあ…。」
そう言って、圭子は大きく伸びをした。
いや…、と田山は言おうとしたが、黙っていた。
……だめなのは、俺の方だ…。
「篤志クン、コーヒー、一口いい?」
普段缶コーヒーを飲まない圭子が珍しく言う。
田山は缶を差し出す。
「甘いぞ」
圭子は受け取ると一口飲んだ。
「ホントだ、あま~い」
「甘いの、苦手だろ?」
「ま、…ね。でも、砂糖の味って、精神的にほっとさせるものなのよ」
「それってホントは気のせいで効果ないっていうのが最近の研究結果じゃないのか」
「あら、よく知ってるね。でもね、精神的効果っていうのは、たいてい気のせいだから。」
「へえ。」
圭子がコーヒーを返す。田山は残りを一気に飲んだ。
「どうする?」
「何?」
「ラーメン。」
「行くわ。だってそのために走りに来たんだもの。」
「行くか。」
「ゆっくり行くわ。追い越し、追従禁止でね。店長、待たせることになるけど」
「……。じゃあ、もう一走り、行くか。」
「うん。」
「今日は、ラーメンナイトだからな」
「なに、それ?」
「だから、そうだろ?」
「まあ、そうか」
「じゃ、しっかり行こうぜ」
「ラーメンナイト?」
「ラーメンナイト」
(つづく)
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

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更にあと少し。
ラーメンナイト!
経験積んだ、大人のワンナイトトリッパーだねぇ。
格好いい
北海道にお住まいの方には、笑われてしまいますが、
明日は、交通機関は大混乱です。
さてさて、今回のストリーは、ライダの手が活躍していますね。
高速道路でトラックを抜くときに、左手を挙げる。
その刹那、風圧で左手が押されます。
昨年は、そんなシーンを何度も越えてきました。
プロドライバ、追い越し方も追い越しされ方も、
そこに力(りき)みが無い。
淡々と流しているようだけど、神経は研ぎ澄まされている。
その中を許される限度ギリギリの速度で疾走しくバイクとライダ。
ナイトラン、なんとも素敵な響きです。
今どき、ライダ同士の手の合図、通じないケースが多くなりました。
それは、さびしいことですが、でも、それをロートルライダが伝承して来なかった責任もありますものね。
手で思いを伝え、安全を確保する。
わたしは、今でも、しつこくしていますけどね。
深夜のラーメンはカロリー過多で体には良くない気がします(笑)。
では~。
壇ノ浦まで来ました。
もう少しでラーメンです。
今回はスカイラインの何が危なくて「やばい!」のか、ちょっとわかりにくかったですね(^^;)
さて、篤志クンと圭子さん、どうなるのか、どうもならないのか、書いてみないとわかりません…。
雪、大変だったようですね。
お見舞い申し上げます。
よく「これくらいの雪でばたばたしたら北海道の人に笑われる」なんて言いますが、
北海道でも雪が降ったらばたばたしますし、東京と同じくらいの設備や装置、靴底などの装備がなかったら、似たような事態になると思います。
私も雪は大好きですが、雪は都市型生活、近代生活にとっては、やっぱり不便なものですね。
ライダーのハンドサイン、「Bike jin」という雑誌で一度取り上げていたんですが、私の知ってるのと違うのもあって、やはり地方差とか、世代差とかあるんだなあと思いました。
でも、やはり伝えることって、大事だと思います。
私のハンドサインは我流ですが、私もよく使う方だと思います。
年齢のせいかな?
深夜ラーメン、体に良くないとわかっていても、どうしても食べたい日がありますよね。
圭子さんには今日がその日だったみたいです。(^^)
馬鹿女!と言いつつ付き合う篤志クンに光は射すのか?
なんつって、まだ先を考えていない樹生でした。