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号外 「常歩ライディング」(和歌山)について

今日のライテク記事は号外です。
『ビッグマシン』2009年10月号の特集は、
「和歌山利宏の常歩(なみあし)ライディング」
32ページから51ページまで、オールカラー20ページを使っての特集記事だ。

和歌山氏は僕がずっと注目して来たバイクジャーナリストの1人で、このブログでも氏の著作「タイヤの科学とライディングの極意」について取り上げた事がある
(ただし、中身について具体的に紹介してはいません。)

今回の特集は、2006年に和歌山氏が「2軸ライディング」として提唱したものを、さらに発展、深化させたものだ。

「常歩」(なみあし)とは、日本古来の体の使い方から来る歩き方の呼称で、馬の歩き方の歩法用語とも関連がある。(上記記事では語源はそこだとしている)

2000年頃から日本の古武術の動きに注目が集まってきている。
甲野善紀氏が有名だが、西洋式の作用反作用の考え方に基づくパワー重視の動きに対して、重心と慣性、位置エネルギーの作用を重んずる日本の古武術的動きで、ひねらず、溜めず、無駄のない動きで、介護の役立てたり、野球やバスケットの動きを刷新したりと、かなりの成果を上げてきていることは、もうかなり有名だ。

和歌山氏は、1990年、「ライディングの科学」を出版し、当時のライテクをバイクと路面の力のやり取りを軸にした物理的・力学的考察に基づいて説明し、コーナリング技術に科学的根拠を与えたわけだが、今回の2軸ライディング理論や常歩ライディング理論は、それらを古武術的な文脈でとらえ直し、より無理のない、合理的なものに昇華させているといえる。

今回の記事は、よく読み、実際に書かれている動きを自分で行ってみて、力むことなく自然にできるようになるまで繰り返していけば、そして体で納得していけば、決して難しくはない内容だ。
そして飛躍的にコーナリングが楽に、安全になり、効率が上がる。

ただし、読んだだけでは、何のことやら分からないかもしれないし、一日で完全にできるものでもない。
体の動きの根幹に関わるチェンジを伴う技術だからだ。

例えば、「コーナリングに入るとき、内側の足でステップを踏み込んで外側の膝でタンクを押し込んで倒しこむ!」と、これは柏秀樹氏のいうロール荷重だし、内藤氏の言う「3次元ニーグリップ」も似たような発想である。つまり、「何かをするときには筋肉を動かし、力を入れて動く」、「作用:反作用」の法則を活用して力で動く…という発想だ。

しかし、和歌山氏の今回提唱している「常歩ライディング」はむしろいかに力をいれずに効率よく重心移動していくかがポイントになっている。
そのための体の動かしかたが「2軸」の感覚なのだ。

同じコーナリングするのに、片方は「どこ力を入れてバイクを動かすか」を考え、もう片方は「いかに力を使わずにバイクと倒れていくか」を考える。
このライテク理論は力みっぱなしのコーナリングには革命的な意味を持つことになるだろう。

ただ、この和歌山氏のライテクの方法を、20年以上前から提唱していた人もいる。
根本健氏だ。
1980年代から、根本氏のライテクはいかに入力するかではなく、いかに力をいれずに自分の体重をリヤタイヤの接地面に対して有効な関係に置いていくか、ということをテーマにしていた。
1980年代から、2006年に和歌山氏が2軸理論を提唱するまで、根本氏がひとり、日本のライテク理論の中で古武術「的」な発想を持っていたといって、まず間違いはない。(むろん、根本氏が古武術そのものを意識していたかどうかはこの際問題ではない)

そのことを指摘しているブログがある。
古武術とオートバイの運転技術(1) SS1の日記』だ。なんと2002年11月に既にこのことを指摘している。
私自身、2007年にそれを記事にしかけ、きっと誰も言及していないだろうと密かに興奮していたのだが、2002年に書かれた「SS1」さんには脱帽だった。

さらに言うと、ここ数年、和歌山氏のコーナリング時のフォーム、特に背中側からみたフォームが、根本氏のものと非常に似てきているのだ。

1本の固定した視点を作り、ねじりひねりで大きな力を引き出そうとする1軸の動き方、
重心自身を移動させながら重力(自重)を上手く利用して筋力だけでない力を引き出し使う2軸の動き方。
例えば野球の松井秀樹選手のホームラン打法は1軸。イチロー選手の打法は2軸の動きだ。(かなり乱暴にまとめればという話です。)

どちらがいいとか、どちらが正しく、どちらが間違いというものではない。

だからビッグマシン誌の表紙のアオリ、「これまでのライテクは間違っていた?」は、僕としてはちょっと煽りすぎだと思う。

しかし、和歌山氏のライテクとその理論は、バイクはなぜ曲がるのか、そのための操作はどうするのが効率的で安全で楽しいか、のテーマに対して、これからさらに深く、明確に探求し表現していってくれることだろう。

おそらく来年にでる(と僕が勝手に予想している)新しいライテク本、そしてDVDブックは必読の文献になるだろうが、その前に、バイクの運転そのものを楽しんで、探求したい人には、今月のビッグマシンは買い逃すべきでない本だ。
読んでは走り、走っては読む。
数ヶ月かけて読み、理解していく、久しぶりに本物のライテク記事だ。


*注意*********
今回の記事の中には、かなり断言調が入っています。
それだけ、筆記者(樹生和人)の思いは強いのですが、筆記者はただの素人であることをお忘れなきようお願いいたします。筆記者は個人の意見を言っているのみであり、客観的に証明されているわけではありません。間違っている可能性もあります。
本記事は、この記事を読んだ方のその後の行動、およびその結果について責任は負えません。この記事についての判断は、あくまでこの記事を読んだ方の主体的判断により行ってください。
また、言うまでもなく、ライダーは一度バイクに跨り運転を始めたら、その運転に関してはすべて自分で責任を負わねばなりません。特に公道上では決して無理をなさいませぬように。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (GAG-R)
2009-09-20 19:44:42
私も買いました(毎月買っています)
いくら読んでも、理解できない・実践できない・・・

頭の片隅に引っ掛けておいて、走りに悩んだ時に何かのきっかけになればと繰り返し本を読んでます。

走る・曲がる・止まる・・・これだけの事が 難しい
 
 
 
できたときがわかるとき (樹生和人)
2009-09-20 20:26:44
GAG-Rさん、こんにちは。おひさしぶりです。
今月の和歌山氏の記事は、読んだだけでは分からない記事の典型かもしれませんね。
分かるのは、できたとき。
それは例えばバスケットのレイアップシュート。
投げ上げると絶対に入らない。リングの上に「置いてくる」。
これは文章はヒントに過ぎず(実際に置いてこれるほどジャンプできる人は少ないので)、「置いてくる」加減が自分でできたときに「このことだったのか!」と分かる。
今回の2軸の動き、力を入れないリーン動作も、実は無意識にできている側面も誰にもあるのですが、いつの間にか力を入れる要素が強くなり、意識が「操作」に行っている人も、特に速い人に多いような気がします。
読んでいろいろ試してみて、違う、違う、と試行錯誤を繰り返し、できた瞬間に「これか!」と分かる。
でも、分かるとは、本来、そうしたこと意外はありえないものだと私は考えています。
安易に、簡単に、分かったつもりにさせるものが最近は満ち溢れていて、本当に分かることからかえって遠ざけられているような気さえするのです。

さて、私もこの動き、なんとか自分のものにしたいので、徐々に試しつつ、読み返し、長期間楽しみたいと思います。
この和歌山氏の理論は、私のような遅い人間、もう飛ばさないゆっくり走る人間に見事に当てはまるもののはずだからです。

いや、それにしても、走る・曲がる・止まる・・・これだけの事が、本当に難しいですね。
そして、限りなく面白い。
遅い速度で、下手なりにも楽しめるのがバイクライディングのいいところ。
ゆっくり、じっくり行きます。
 
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