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肉筆浮世絵の世界 展

2015-09-17 20:57:39 | アート・文化

当記事、"肉筆浮世絵の世界 展”には、猥褻な文章および画像が多数含まれています。

苦手な方は読まれる際、ご注意ください。

 

  

先日の休みに久しぶりに美術展に行った。

福岡市美術館で8月から開催されていた特別展、

"肉筆浮世絵の世界 展 -美人画、風俗画、そして春画-"だ。

版画物が多い浮世絵だが、肉筆で描かれた貴重な一品モノをそろえた展覧会。

浮世絵の代名詞、美人画を中心に、各時代別の流行や風俗が読み取れるような内容になっている。

また日本国内の国公立美術館での展示は初の試みとなる、春画も裏の目玉だ。

言うまでもなく自分の目的は春画である。

 

 

無料駐車場がわずかだが設けられているようなので、車で向かった。

大濠公園のすぐそば、市内の喧騒のない、割と閑静な場所にあった。

入り口で警備員にすぐに車を止められる。

染めたんじゃなくて脱色っぽい長髪の、ヤンキーだけどきれいなおネエちゃんだ!

たまに居るよな、こういうヤンキーねえちゃんの警備員さん。

「びじゅつかんですかー?」

「ただいま まんしゃなので、まっていただいています・・・30ぷんくらいかかりますが・・・。」

ヤンキーっぽいけれど、ちゃんと丁寧に事情を説明してくれるおねえちゃん。

よく見ると自分の前に車が数台駐車場空き待ちで停車している。

後ろからも次々に車が入って来る。

平日の昼間なのに・・・。

いや、30分も待つくらいなら近所の有料駐車場使うがな、タイムイズマネーだ。

隣接した場所に有料駐車場があったので、ヤンキーおねえちゃんに誘導されてそっちに止める。

 

 

右:作者不詳/寛文美人図

左:作者不詳/若衆

肉筆浮世絵の世界展図録より

写真などがなかったこの時代、

こういった浮世絵は江戸の流行をいち早く伝える役目も担っていたとか。

 

前に一度来たことがあったような・・・。

結婚前に元妻と一度来たような記憶があるが、ここだったっけかな?

確かそのときも、浮世絵展だったよな、"笑い”をテーマにしたような特別展だったと思う。

興味なかったけれど元妻に誘われて付き合ったっけ。

 

美術館に入ると、けっこうな人!

そのほとんどが、この浮世絵展を観に来ている観覧客のようだ。

9割がシニアだが、中には若いカップルなども居た。

やっぱり浮世絵展というジャンルだから、シニアに人気があるのかな?

平日の昼間だから、まあ働いている現役世代は来れないわな。

そんなことを考えながら、展示会場となっている二階の特別展示室へと向かう。

展覧会で最初に提示されているあいさつ文のパネルを読む。

「本展覧会では特設の春画展示室を設けて公開しております、

十八歳以上の方でもご覧になるかどうか判断していただけます。」 

なるほど、春画は別室か、観たくない人も中には居ろう。

 

右:歌川豊春/遊女と二人の禿

左:歌川豊春/遊女と禿

肉筆浮世絵の世界展図録より

"禿”は「ハゲ」ではなく、「かむろ」と読む。

遊女に付き添い世話をする見習い幼女のこと。

成長すると禿もまた遊女としてデビューする運命。

土屋アンナ主演の映画、"さくらん"では、主人公のきよ葉が、

幼かった禿時代から成長し、一番人気の花魁になる様が描かれている。

  

すごい人だかりで、皆作品の真ん前で止まって、

ゆっくりじっくり観ているもんだから、なかなか間近で作品を拝めない。

そして皆、前の人が進むまで礼儀正しく列作って待っているという。

自分は先に空いているところを鑑賞して移動しながら観るけどな。

ポールなどで順路が厳しく設定されてあるところはこれができないけれど。

にしてもシニア達はふつうに喋りまくる。

「やっぱ日本人は器用やなあ!」,「これはハギの花ばい!」,「歌麿ってあのうたまろかね?」

なんで美術館で普通の声色で喋ってんだよ!

小声で喋るのが常識だろうが!

書き入れを一所懸命読んでいるようで、その文字をたどって作品に触れているひとも・・・。

いくら表面が保護されていたとしても、触れちゃいかんだろうがよ?!

 

浮世絵の創世記から、全盛期、終焉記と、時代の移ろいと共に、

肉筆で描かれた色とりどりの浮世絵が並んでいる。

美人画が中心なので、役者画や風景画はほとんどない。

被写体が身に着けている着物、その着こなしや柄、帯など、

また髪型に髪飾り、周りの小物など緻密に描写されている。

このため浮世絵は描かれた時代が判別できるのだという。

風俗画には当時の世相や流行も読み取れるため、

浮世絵は芸術作品とは別に文化遺産としての価値も高いといわれている。

 

喜多川歌麿/雨宿り図

肉筆浮世絵の世界展図録より

これは・・・ポポリアきのこ山だ!

 

そんな江戸時代の浮世絵師たちの力作を眺めて行くと・・・。

来ました、別室へ誘う怪しい入り口!!

「これより先の展示室は18歳未満の方はご入場できません。」

そんな文言の書かれた立て看板とともに、脇に学芸員が座って監視中。

入り口にはアダルトグッズ売り場みたく、内部を遮蔽する大きなのれん。

「春」と一文字書かれた大きなのれん、それを支える柱が真っ赤!

こんなんしたら、本当にいかがわしく見えてしまうじゃないか。

真剣に浮世絵を観ているシニア達を後目に、サッとのれんをくぐる。

こっちが自分の本来の目的、春画展の場所だ、こっちは人が居まい・・・ゆっくり鑑賞できる。

 

!!

なにこの人だかり!!

おいおい、こっちの方がごった返しているぞ!?

ひょっとして、みんな自分と同じでこっちが真の目的?

「もういい・・・もういいです!」

そんなことを大声で言いながら出てくるジジイも。

春画なんてワイセツ画けしからん!・・そんな石頭なひとかな?

「前代未聞ですわなァ。」

苦笑いしながら学芸員に詰め寄ってるジジイも居た。

 

フランスやイギリスでは権威ある大きな美術館でも展覧会が開催され、

大成功を収めて芸術家や関係者のみならず、

観覧した一般市民にまで高い評価を得ていた。

にもかかわらず、本家日本では自主規制で長年それが拒まれ続けてきた。

やはりよく思わない人が中には居る。

そういった人や団体からのクレームや、

後援企業のイメージダウンなど、色々鑑みると開催を躊躇してしまうのも解る。

おもむろに春画展を開くことができず、美人画や風俗画を並べ、

それを隠れ蓑に春画の展覧会にこぎ付けた・・・そんな風にも思えなくもないな。

 

伝 岩佐又兵衛/春画絵巻

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

岩佐又兵衛・・・江戸初期に活躍した絵師。

戦国時代の武将、摂津国有岡城城主、荒木村重の息子。

織田信長に謀反して敗れた荒木一族は、逃亡した村重本人以外は根絶やしにされたが、

乳母の機転で命拾いした又兵衛は、諸大名や幕府に重用される絵師として活躍したという。

 

そんなジジイ達をやり過ごし、いざごった返した春画の会場へ-。

いきなり巨大な屏風絵が現れる、等身大に近いスケールで描かれた性交中の男女の絵だ。

局部の結合部もあらわに、各々の陰毛から、シワやヒダやスジまで細かく描かれている。

これまで雑誌などで観てきた春画、その実物が目の前に。

大作を過ぎると、長い巻物状の一枚紙に、ストーリータッチで描かれた男女の色情。

男が帰ってきて、迎える女、そして衣服をはだけ、前戯から本番~後始末。

そんな性行為の一部始終を描いたものや、

色んな層の色んな人たちの性交風景を書きならべたもの、

はたまた女性器を緻密に描き、処女,上物,淫乱物・・・と比較して並べ描いたもの。

書き入れは自分には読むことができないが、それぞれ性の指南書のごとく詳しく解説されていたり、

面白おかしく物語が綴られているものなど様々だ。

 

奥村政信/閨の雛型

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

男二人、女一人の乱交の様子。現在でいうところの3P。

女一人を男二人で攻めるというのが普通だが、

この画では、男一人が、女ともうひとりの男を同時に攻めている。

男色も普通だったこの時代、両刀使いも居て、

乱交も今とは趣向の異なるものだったのだろう。

 

江戸の性のるつぼだった。

"肉筆"と題しているが、春画だけは版画作品も展示されていた。

ここに自分も好きな作品が展示されていた。

鈴木春信の、"風流艶色真似ゑもん"だ。

ストーリー仕立ての版画本、今でいう漫画のような感じ。

主人公が小人になって諸国を渡り歩き、色んな人の色事情を見て回るというもの。

これが書き入れのストーリーを理解して見たらすごく笑えるのだ。

 

鈴木春信/風流艶色真似ゑもん 第四図

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

妻が妊娠中でご無沙汰なため、

ムラムラした夫が我慢できずに妻の姪に手を出し、妻に見つかり修羅場に・・・。

絵の右端で修羅場を面白そうに眺めている小人が主人公のまねゑもん。

この展覧会のマスコットキャラクターも務めていた。

 

しかし・・・シニア世代のパワーがすごい。

とくに、バアさんたち!!

「うわ見てん、これ!」

「本当にこんな格好でしよったんやか?」

「みんな大きく書きすぎじゃない?」

興奮するのは解るが、大きな声で喋んなよ・・・。

「昔のひともこんなことしよったんやねえ・・・。」

そりゃそうだろ!でなきゃアンタも俺も生まれてねえよ!

 

菱川師宣/恋のむつごと四十八手

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

あらゆる体位を描いた指南書、"四十八手"。

相撲の決まり手よろしく、様々な体位を研究して描いた作品。

実際に絵師自身が遊女相手に試しながら考案したという体位も。

中には、こんなんできるかよ!?みたいなのも在る。

 

もうオバハンらの目を見たらランランとしてんの。

家政婦は見たの市原悦子ばりに皆、目で、「うっひょー!」って叫んでる。

失礼だけど、あなた方の旦那はもうおそらく機能しない、

すなわち、あなた方もとんと御無沙汰で・・・。

若き日の煮えたぎるものが蘇ってきて、

それがエネルギーとして、目に言葉に溢れてきている。

そんな感じだろうか。

やっぱり性というのは、人にパワーをもたらすな。

年老いてもソレが健在なひとは、やっぱり皆若々しいもんな。

 

鳥文斎栄之/春画帖

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

茶屋の個室で遊女と客の綾瀬を描いた作品。

周りを気にしつつスリルと快楽を愉しむ様が描かれている。

今でいうところの、耳かき店とか個室マッサージ店のようなもの?

 

春画と同じくらい、観覧客の人間ウォッチを堪能し、春画コーナーを後にする。

のれんをくぐって、再び通常の浮世絵の展示場に戻る。

出てきた自分を一斉に見やる近くに居た人々。

だから、この のれん恥ずかしいって。

本当にいかがわしいい店から出てきたときみたいじゃねえか。

ラブホテルから車出したら渋滞中で、

止まってる車のドライバーから一斉に視線浴びるような、あんな感覚。

 

河鍋暁斎/新富座妖怪引幕

最後の浮世絵師といわれる、明治時代の河鍋暁斎の大作。

横17m、高さ4mの巨大な布に、力強くコミカルに妖怪達を描いた作品。

自分がたまに書く、バカなイラストを知っているひとならば気付くかもしれないが、

自分の絵のタッチはこの方の描いた妖怪絵や鬼の絵に影響を受けている。

 

春画コーナーを出ると、浮世絵展も終盤。

最盛期を過ぎ、終焉期の作品が並ぶ。

技術がさらに進歩し、表現の幅も広がり、絵師達の個性的なタッチも際立つようになり、

描かれた人物の表情もより豊かになってくる。

役者絵や殿様の絵も、デフォルメされた部分が少なくなり、

より肖像画の色が濃くなってくる。

 

肉筆浮世絵の世界展の図録。

右側は春画編で別冊になっている。

 

写真の登場により、浮世絵は急激に衰退する。

同時に新政府となり、欧米諸国と肩を並べんとする政策で、

これまでの鎖国時代の日本固有の文化が、時代錯誤なものとして排除されていった。

江戸で花開いた大衆文化のほとんどはこのとき徐々に失われていき、

浮世絵もまた、その歴史に幕を閉じる。

性文化もまた、それまでオープンでタブー視されることがなかったものが、

はしたないこと、みだらなことと、今現在の日本人の持つ性意識へと変わっていった。

その過程で、貴重な文化であり芸術作品でもあった春画も、

また同様に闇に葬られてしまったのだろう。 

 

この展覧会の図録を購入して美術館を後にする。

もちろん春画の図録も入った完全版。

春画は別冊になっていて、それの含まれていないバージョンも販売されていた。

ポストカードや一筆箋など、見てみたが、さすがに春画はなかった。

まあ商品化はさすがに無理だわな。

仮にポストカード作ったとしても、郵便禁制品になるだろうから実用できん。

 

ヒガンバナとススキを見ると、秋もいよいよ本格化だな。

そろそろ掛け布団用意して、扇風機をしまわないと。

 

美術館の植え込みに、真っ赤な花が咲いているのに気付く。

ヒガンバナだ。

もうすっかり秋だな~。

悠長に駐車場へ向かっていて、あることに気付く。

そういや、あれ観てないわ!!

一番、生で観たかった絵!!

葛飾北斎のタコが海女さんを犯してるやつ!

 

葛飾北斎/喜能会之故真通・下 第三図

肉筆浮世絵の世界展図録より※一部画像を加工しています。

あの富嶽三十六景で有名な浮世絵師、葛飾北斎も、こんな絵を描いていたのだ!

海女さんが蛸に全身を愛撫され幾度もオルガズムに達するという絵。

余白にびっしりと書き込まれた書き入れには、海女の喘ぎ声と蛸の卑猥な言葉、

濡れた陰部から発する擬音が臨場感たっぷりに埋め尽くされている。

エロゲーやエロマンガにありがちな触手プレイ。

既にこの時代にそんな妄想を持った絵師が居たのだった。

 

帰宅して図録を確認すると、確かに掲載されていた。

どこに飾ってたのか?

くそう・・・一番観たかったやつを見落とした・・・。

そう思ってがっかりしていたが、この展覧会、前期と後期とで展示物の入れ替えがあったようで、

このタコと海女さんのやつは、前期のみの展示物で8月いっぱいまでの展示だった。

そうだったのか・・・8月までに来ればよかった・・・。

そう思ったが、それと同じくらい観たかった、まねゑもんシリーズは後期のみの展示だった。

前期、後期とも観るべきだったのか!

 

 

春画の特集記事を掲載した週刊誌。

最近人気があるのか、ちょくちょく春画が特集される。

 

以前購入した芸術雑誌、"世界の性愛学"。

こんなだけど れっきとした芸術本、世界中の性をテーマにした絵が収録されている。

当然、日本の春画もいくつか掲載されていた。

自慰から同性愛、青姦、乱交にアブノーマルセックスまで、性の追求と思いは万国今昔共通だ。

 



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