HAYABUSA、いのちの物語
開催日時:2011年5月5日(木) 14時~ 約1時間半
会場:すばるホール 2階ホール
主催:財団法人 富田林市文化振興事業団
協賛:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
講演者:上坂浩光氏(HAYABUSA BACK TO THE EARTH監督)
※ 重ねがさねとなりますが…。
本レポートはブログ主の記憶とメモを主とし、そこにこれまでに
収集した情報とブログ主の解釈等を加味して記載しています。
そこに書かれてある内容に事実と相違等ある場合、その文責は
一意にブログ主にあります。
■懊悩
こうして。
HBTTEのシナリオの彫琢は進んでいった。
その完成を受けて作られるアニマティクスも、また。
このあたりの時系列がどうなっているのかは、講演でもつまびらかに
されなかったために、よく分からない。
シナリオの完全完成を待って、アニマティクスの製作に移ったのか。
あるいは、両者は最後までもつれ込んだのか。
ただ。
それらの集大成としての、アニマティクスの完成時期において。
ある大きな事件があったことが、監督から紹介された。
それは。
製作委員会の1社であるJAXAからの、はやぶさのリエントリ・
シーンを描かないでほしいという申し入れである。
8月のストーリーボードプレゼンに際しては、リエントリ・シーン
込みのシノプシスにGOの判断を出してくれたJAXAではあったが。
この時期のJAXAは、実は大きな折衝を行っていたところだった
のである。
それは、オーストラリア政府とのはやぶさのリエントリ許可に関する
もの。
勿論、打ち上げ前の時点から。
オーストラリア政府からは、リエントリの許可は得られていた。
それでも。
イトカワへのタッチダウンを経て、はやぶさの地球帰還がリアリティ
をもって語られだした頃から。
オーストラリア政府には、一抹の不安がよぎり出したのだろう。
そしてそれは、日を追うごとにマンデルブロ集合のように拡散していく。
それは、無理もない。
当初と比べて、はやぶさのコンディションはあまりにも悪化して
いる状況なのである。
まして、姿勢制御スラスタが全く使えない状態では、本当にJAXAは
ウーメラの沙漠にはやぶさのカプセルを導くことが出来るのか?
まかり間違って、シドニーの街中に墜落するような事態が生じないと
誰が確約できるのか?
万一そうなったときには。
誰が日本にオーストラリアを実弾演習場と化すような営みに許可を
与えたのかと、政府の責任問題となることは必定だろう。
そう考えるオーストラリア政府を、少しでも刺激しないために。
HBTTEには、大気圏に突入する火球となっていくはやぶさの
姿は描かないで欲しい。
JAXAがこう考えたとしても、至極もっともな願いだとは思う。
だが、それは。
はやぶさを通じて、生命の繋がりを描きたいと願う監督にとって。
文字通り、作品生命の連続性を断たれるような要請だった…。
この要請に対してどう感じたのかを。
監督は、静かに、しかし力を込めてこう語った。
「監督として、(あのリエントリ・シーンは)外すことの出来ない
生命線だ!」
と。
この、JAXAの申し出を受けて。
監督の中に、迷いが生じなかったはずはない。
要請とは書いたけれど。
その実態は、指示に近いものであったとも思われるのだから。
元より。
はやぶさの帰還に際し、出来る限りの協力をすることに是非も無い。
それでも。
表現者として。
どうしても、描きたい絵がある。
どうしても、語りたい話がある。
それを抜きにしては。
この物語そのものの要諦を欠くことに他ならない。
そんなシーンなのである。
それでも。
このシーンを、前面に押し出すことで。
最悪の場合には、製作委員会そのものが瓦解してしまう可能性だって
あるのである。
そうなれば。
飯山氏をはじめ、これまでこの作品の製作に携わってくれた多くの
人々に。
そして、夏からアニマティクス映像の製作に打ち込み続けてくれて
いるLiVE社の社員に。
なんといって顔向けしたらよいのか?
自分一人の信念を貫き通すために、そうした人たちのこれまでの
営みを無に帰すようなことを招く権利が、自分にはあるのか?
講演会の中では、そこまで踏み込んだ思いは語られなかったけれど。
監督が相当に懊悩煩悶されたことは、想像に難くない。
ひょっとしたら。
2008年11月の、監督のご自身のルーツを訪ねての旅路も。
難度繰り返し問うても出ない、その答えを求めてのものだったのかも
知れない…。
そうした末に、監督がだした結論は。
映像は、あくまで自分の思いを貫いたものとする。
そして、その是非は作品を観た製作委員会に委ねる。
というものであった。
この結論は。
監督にとって、とても重圧を課すものであったろう。
何せ。
8月のスケッチボードプレゼンの頃とは、既に関わっている
人も資金も桁違いだ。
そして、何より。
監督の中に、既にもうしっかりと監督のHBTTEは飛翔して
いるのである。
その作品の帰結をどうするのかを、他人の判断に委ねなければ
ならない辛さが、そこにはあった。
元より。
そこでリエントリ・シーンがエジェクトされたからと言って
監督が素直にそれを受け入れたとは思っていない。
その場での説得は無理でも。
タイミングを見計らっての巻き返しについては、当然その
念頭には有った筈である。
それでも。
少なくともオフィシャル向けとして、リエントリ・シーン
無しのバージョンも製作に掛からざるを得ないだろう。
製作委員会とLiVEとの契約もあるのだから。
#LiVEも製作委員会の構成メンバーではあるが。
そうして。
裏バージョンとして、リエントリ・シーンをも製作する。
公開のアテもなく。
ただ、そのシーンを自分が作りたいがために。
その思いは、美しいけれど。
完成させたいという欲は、公開したいという欲をも生む。
そして。
そこで行き場を失った思いは、どのような影響を作品の
製作に携わる人々にもたらしていくのだろう。
己の信念と。
LiVE代表取締役としての在り方と。
監督の胸に去来する、様々な不安、懊悩。
そして、運命のアニマティクス試写会が始まった。
(この稿、続く)
(この稿、続く)
小惑星探査機 はやぶさ HAYABUSA BACK TO THE EARTH 帰還バージョン Blu-ray版 | |
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へーーー。こんなやりとりが裏であったんだ。おもしろいというか、世の中複雑。映画一つ、それも正確性を要求される科学映画?ですら、いろいろな人の思い、利害?が絡んでいるんだなぁ・・・