活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

引力■HAYABUSA、いのちの物語(その11)

2011-06-12 00:01:28 | 宇宙の海

HAYABUSA、いのちの物語
開催日時:2011年5月5日(木) 14時~ 約1時間半
会場:すばるホール 2階ホール
主催:財団法人 富田林市文化振興事業団
協賛:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
講演者:上坂浩光氏(HAYABUSA BACK TO THE EARTH監督)

※ 重ねがさねとなりますが…。
  本レポートはブログ主の記憶とメモを主とし、そこにこれまでに
  収集した情報とブログ主の解釈等を加味して記載しています。
  そこに書かれてある内容に事実と相違等ある場合、その文責は
  一意にブログ主にあります。
  


■引力

これは何も、飯山氏の文学的な才能やセンスをどうこうという趣意では
ない。

がしかし、本来自ら生み出した言葉なり映像なりに他からの意見を容れて
よりよいものにしていこうという姿勢は、創造というプロセスと相反して
いるとしか思えない僕にとって。

そうした自らの作品に外野からの意見を取り込むといった行為は、
決して監督の意に沿うものではないと思えたからである。


それが故に。
単に、制作委員会の一員だからという事由のみで。
あるいは、総合プロデューサーだからという事由のみで。
飯山氏にシナリオを開示したのではないと、僕は推論している。

あの。
2008年3月24日。
日本天文学会が開かれていた、代々木のオリンピック記念青少年総合
センターには、朝から冷たい雨が降っていたけれど。

リブラの田部社長の仲立ち(※)で、飯山氏と邂逅したその時から。
監督と飯山氏との間には、同じ目的に向かう同士としてお互いを認め合う
シンパシーの炎が、静かに立ち上り始めたのだと思う。

そのシンパシーとは。
もちろん、単にはやぶさを描いた作品を作りたいという偏狭な意ではない。

宇宙に関する正確な情報を通じて。
そして、
宇宙に関して自らが抱いている夢や憧れを。
様々な機会を通じて、少しでも多くの人々に伝えていきたい。

そうした思いを一にする同志、という意味である。

そして。
それ故に、監督はシナリオに対する意見を求めたのではないか。

※ 監督の星居ブログでは、アストロアーツの上山氏が監督と飯山氏を
  結びつけたという記述もあったが、今回の講演でのお話しを受けて
  ここでは田部社長を仲立ちとして記載している。
  3月24日とはまた別の機会で、監督と飯山氏との間を深く結び
  つけるきっかけを、上山氏がもたらしたのであろう。


そして。
飯山氏は、それに真摯に応えて自ら思うところをコメントし。
その意見に納得したからこそ、監督はシナリオを手直しされたのではないか。
そう、愚考する次第である。


そのようにして。
飯山氏のチェックによって手直しが入った箇所が、どれほどあったのかは
分らない。

が。
講演の中において、一箇所だけ監督が示してくれた修正点がある。

それは、

 「星が引力で引き合うように、そこで生まれた命は心で引き合うんだよ」

という、監督がもっともこの作品を通じて訴えたかったところと、かねて
仰られているコンテンツ。

この部分に過不足を見出し、コメントした飯山氏。
そして。
この部分にメスをいれることを受け入れた監督。

正に、言葉の真剣勝負である。

本来、監督が書き起こしたシナリオには。
上記の言葉に続いて、

「こうして宇宙のバランスは保たれている」

という文が続いていたそうである。

比較のために。
少し、この部分の前後の言葉を引用して、この言葉を補ってみよう。

「君の体がひどく傷ついているのはよくわかっている
 でも 君はこの旅を通じて知ってきたはずだ

 君は宇宙と そして私達と
 深く結びついているということを

 君と私達は 地球という星が育んだ仲間なんだ

 私達の声が届いているだろうか

 星が引力で引き合うように
 そこで生まれた命は 心で引き合うんだよ

 こうして宇宙のバランスは保たれている(んだ)」

 ※ ()はブログ主が補足。
   講演会の際に監督が投影してくれたスライドには、確かに
   上記の表現だったと思ったが、前後の言い回しからすると
   語尾がこちらの方がしっくりくるのでは?と思い、補完した
   次第。蛇足であれば、誠に申し訳ありません。
   

こうして見ると。
監督がここで現(あらわ)したかったことが分かるような気がする。

監督が、思い描いていたもの。
それは、さながら曼荼羅のように、調和のとれた世界の存在では
なかっただろうか。

因果応報という言葉に代表されるように。
全ての命は引き合い、繋がり、影響し合っている。
分子同士の結びつきが物質を構成するように、すべての命の結びつきが、
この宇宙全体を一つの形として成しえているのだ。

そうした思いが籠められていた文章のように、僕には思える。

その一方で。
飯山氏が感じたこと。
それは、最後の一文を削除したことから推察するしかないのだけれど。

もっと、宇宙はカオスに満ちているのではないか?
調和も、破滅も。
ありとあらゆるベクトルに向かう可能性を内包しつつ、引きあっていくもの。
それこそが宇宙における命なのではないか?

それが故に。
引きあうまでは由としても、バランスが保たれているとまでは言えない。

そうした思いで、削除をコメントされたのではないかと思っている。


この推論は、もちろん単なる僕の感覚上のものではあるが。

もし、お二人の思いが上記のとおりであるならば。
これは、宇宙を神の目線でみるか、人々の目線でみるかによって、
答えが異なってくる部分なのかもしれない。

そして、はやぶさの7年間の飛翔は、正しく人の営みであり。
このナレーションも、神の目線ではなくはやぶさを生み出した人の目線
と思い至れば、この部分のカットも納得が行くと思えるのだ。


上述したとおり。
この箇所以外に、どれほどの修正が飯山氏やその他の人々からの思いを
受けて加えられたのかは分からない。

ただ。
このエピソードは、HBTTEが上坂監督の作品であることを改めて認識
させてくれるとともに、決して監督一人では今の形に成り得なかったこと
もまた、教えてくれる。

そう。
星が引力で引きあうように。
そこで生まれた生命は、心で引きあうのである。

(この稿、続く)

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クリエーター情報なし
有限会社ライブ

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