……「もうすぐです……」
と秋本は呟いた。
「何なんですか? 分かるように説明してもらえませんか」
ジュウには秋本が何を考えているのか、さっぱり理解できなかった。
「あなたはまもなく、二人目のかけがえのない人を失うのです」
ジュウの目に、軽い敵意のような感情が兆した。
「まったく理解できません。何一つ理解できないんですけど」
「あなたには高所転落の難相があって、それが天中殺しているんです」
「……」
「あと五分ちょっとしかありません。奇蹟が起って、それを阻止できるのではないかと、わたしはまだ希望を繋いでいます」
「……」
「その頃、あなたの難相を刺戟するような女性が出現し、あなたを独占しようとしたのです。それからあの合図が始まったはずです」
「……」
「十二年が経ち、いままた、あなたはある女性に魅入られています。彼女はあなたに換わって、その運命を引き受けようとしているのかもしれません。だがそんな自覚すらなく、自らの不可解な衝動のままに行動していると感じているのかもしれません。――詳しいことは、わたしにもよく分かりません」
「……」
「三分を切りました。どうやら奇蹟は期待できないようですね」
「秋本さん、いったい何が起こると言うんですか?」
「すみません。すべて忘れてください。いままでの話は、なかったことにしてください。わたしは何も話さなかったし、まもなく何かが起こったとしても、それは単なる偶然で、わたしたちはたまたまここに居合わせたに過ぎないのです。しかし、あなたはここに居なかった、それでも構わないと思います」
秋本の目の中に異常に燃えるようなものがあって、それを必死に堪えているふうに見えた。まったく意外なことに、彼は泣いていた。
ジュウは見てはいけないものを見たような気がして、ふと秋本の肩先に目を逸らした。
――何が起こるというのだろう、とジュウの不信感が頂点に達しかけた時、秋本の顔に一瞬だけ痙攣が走った。
その瞬間、恐ろしい衝撃音が響き、つづけて店中が騒然となった。飛ばされた物でガラスが割れる音がして、人々の悲鳴がそこかしこに起った。
ジュウは戸外テラスのあの予約席のテーブルの上に落下して来たものが、その惨事の正体だと分かった。落ちて来た時、彼は視界の中にそれを捉えていた。
せっかくの占い師の言葉ではあったが、彼がこの日の午後の出来事をなかったことにするのは不可能だと思われた。
腰が捩れて、膝から骨が覗いていた。肘や首からも、鮮血が噴水のように噴出していた。――目の前で飛び降り自殺を図ったのは、一昨日までいっしょにいた沢田彩香だった。片方の眼球が飛び出していたが、間違いなかった。……
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―1
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―2
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―3
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―4
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―5
ホラー小説 《占ひ師 ―― 落ちてくる》―6
と秋本は呟いた。
「何なんですか? 分かるように説明してもらえませんか」
ジュウには秋本が何を考えているのか、さっぱり理解できなかった。
「あなたはまもなく、二人目のかけがえのない人を失うのです」
ジュウの目に、軽い敵意のような感情が兆した。
「まったく理解できません。何一つ理解できないんですけど」
「あなたには高所転落の難相があって、それが天中殺しているんです」
「……」
「あと五分ちょっとしかありません。奇蹟が起って、それを阻止できるのではないかと、わたしはまだ希望を繋いでいます」
「……」
「その頃、あなたの難相を刺戟するような女性が出現し、あなたを独占しようとしたのです。それからあの合図が始まったはずです」
「……」
「十二年が経ち、いままた、あなたはある女性に魅入られています。彼女はあなたに換わって、その運命を引き受けようとしているのかもしれません。だがそんな自覚すらなく、自らの不可解な衝動のままに行動していると感じているのかもしれません。――詳しいことは、わたしにもよく分かりません」
「……」
「三分を切りました。どうやら奇蹟は期待できないようですね」
「秋本さん、いったい何が起こると言うんですか?」
「すみません。すべて忘れてください。いままでの話は、なかったことにしてください。わたしは何も話さなかったし、まもなく何かが起こったとしても、それは単なる偶然で、わたしたちはたまたまここに居合わせたに過ぎないのです。しかし、あなたはここに居なかった、それでも構わないと思います」
秋本の目の中に異常に燃えるようなものがあって、それを必死に堪えているふうに見えた。まったく意外なことに、彼は泣いていた。
ジュウは見てはいけないものを見たような気がして、ふと秋本の肩先に目を逸らした。
――何が起こるというのだろう、とジュウの不信感が頂点に達しかけた時、秋本の顔に一瞬だけ痙攣が走った。
その瞬間、恐ろしい衝撃音が響き、つづけて店中が騒然となった。飛ばされた物でガラスが割れる音がして、人々の悲鳴がそこかしこに起った。
ジュウは戸外テラスのあの予約席のテーブルの上に落下して来たものが、その惨事の正体だと分かった。落ちて来た時、彼は視界の中にそれを捉えていた。
せっかくの占い師の言葉ではあったが、彼がこの日の午後の出来事をなかったことにするのは不可能だと思われた。
腰が捩れて、膝から骨が覗いていた。肘や首からも、鮮血が噴水のように噴出していた。――目の前で飛び降り自殺を図ったのは、一昨日までいっしょにいた沢田彩香だった。片方の眼球が飛び出していたが、間違いなかった。……
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