福祉マネジメント&デザイン

SocialWelfare Management&Design
〜福祉サービスに経営と創造を〜

施設から介護福祉士が消えたなら

2017年08月21日 | 人財育成
こんなタイトルの映画が昔ありましたね。

さて、今日は福祉業界でますます深刻化する人材不足の話です。
5月の日経新聞に、「保育士資格、介護士ら取得しやすく 一部試験免除 」という記事がありました。
介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士の有資格者は、保育士資格を取得する際、保育士の試験科目が一部免除になるという仕組みづくりに着手するという内容です。

この記事だけみれば、保育士不足の解消に向けた、現場を知らない議員による”とんでもない政策”にしか映りません。
例えば、高齢福祉、障害福祉、児童・保育の複合的なサービス提供実践者(ソーシャルワーカーの社会福祉士等と区別するため)を育成するために、職員のキャリアアップやキャリア形成を推し進められるよう、高齢福祉と児童・保育との垣根を下げるために、資格取得を促す特例的な位置付けであれば話は変わってきます。
しかし記事を読み進めればお分かりの通り、待機児童問題を解消するために、保育園を拡充する量的施策の方向性が、ついに人材不足の解消策としても向けられたかというのが、私の最初の印象でした。

しかし、人材不足は保育士に限ったことだけではありません。
高齢福祉業界においても、介護人材不足が発生しており、新規開設の特養などでは、人員配置基準を満たせず、利用者を受け入れず、ユニットを閉鎖している施設などは珍しくない状況があります。
直接雇用の職員は数名で、残りは派遣職員といった有料老人ホームなどもあるという話を聞きますので、需要と供給(ここでは供給したいが、提供できないという状況)のアンバランスが今後ますます深刻化するでしょう。

高齢福祉業界では、介護人材、特に介護福祉士有資格者の存在が、施設経営を左右する重要なファクター(要因)となっています。
具体的には、介護福祉士の有資格者の在籍率が、加算要件になっているということです。
特養では日常生活継続支援加算、デイなどではサービス提供体制強化加算に介護福祉士の在籍率が設定されており、単位数についても毎日算定することが出来る加算なので、増益につながる大きな加算といえます。

例えば、100名定員の特養が日常生活継続支援加算(ユニット型であれば46単位)を1年間取得した場合、
100名×365日×46単位×地域係数10=16,790,000円の増益につながります。

また、30名定員のデイがサービス提供体制強化加算(Ⅰイであれば18単位)を1年間取得した場合、
30名×365日×18単位×地域係数10=1,971,000円の増益につながります。

しかし、経験年数の長い介護福祉士の有資格者の退職、それを補うための未経験の中途採用者の採用を繰り返していくと、おのずと有資格者の在籍率の低下を引き起こし、ひいては加算要件を満たせず減収という最悪のシナリオに片足を突っ込んでいるような施設もあるのではないでしょうか。

この記事は「人財育成」のカテゴリーで書いていますので、その視点で論じようと思います。
大事なのは「なぜ介護福祉士の資格を取得したか」ということが職員一人ひとりのキャリアアップやキャリア形成の中にきちんと目的化されているかどうかが重要です。
「経験年数を重ねて、何となく受験資格を満たせたから」「資格手当が上がるから」といった職員では、どこの組織でもやっていけないでしょう。

大事なのは、「介護福祉士の資格をとったら、こういったキャリ形成の可能性や役割を期待している」ということをキャリアパスできちんと示しながら、組織的に人財育成をバックアップ(試験対策の勉強会の実施や資格取得支援補助金の支給、受験日の公休・出勤扱いなど)することが、結果的に組織への帰属意識を高めることにつながっています。
また、資格を取得することをきっかけとした業務範囲が広がり、向上力を高めながら、組織力やサービスの高次化を図るための個々の目標設定が促され、衛生・動機付け要因で取り上げた「達成」「承認」を繰り返すことで、職員のやりがいやモチベーションが高められる好循環を生み出します。

さらに言えば、介護福祉士有資格のA職員がいることで、「特養では日常生活継続支援加算を取得できているため1,700万円近い増益につながっており、法人経営に携わっているんだよ」ということを経営層がきちんと表出する(言葉で伝える)ことが重要です。
何かを達成したからといって、賃金を上げて欲しいのではなく、経営層から労いの言葉をかけてもらえることを職員はただただ待っているのです。

冒頭の話に戻ると、上記のような職員の動機があって保育士を目指すということがない限り、資格を持っているだけの潜在保育士をただ増やすだけになってしまうということがお分かりいただけたと思います。

資格取得はゴールではなく、あくまでも通過点であることを職員に伝えていかなければ、あなたの法人で仕事をして時間が、ただ受験資格を満たすためだけの3年間で終わってしまいます。

もしも、「施設から介護福祉士が消えたなら」…。

そうならないためにしっかりと現実と向き合いながら、無期転換ルールの活用ナレッジ・マネジメントを用いた組織力やサービスの質の向上を通して、これからの人材問題に太刀打ちしていきましょう。

管理人


最新の画像もっと見る

コメントを投稿