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【プランD ―ace in the hole―】〈21〉

2016-10-16 09:46:22 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
こんな状況ではお金のことに目を瞑るのは当たり前。
それどころか空いてない。オプションがない。
ということで已むお得ない。

プランDを出すことにした。それはとある日本人経営のバックパッカー宿だった。
ゲストハウス系、ユースホステル系も日本にいた時から探していた。理由としては安いというのもあったが、ゲストハウスならではの体験というものがあるからだった。確かに二人部屋でないことが多いし、一部屋に4つベッドがあるドミトリー式で相部屋になることがほとんど。プライヴァシーに関してはあまりない。

ただそこで得られる出会い、交流、情報は活きている。もう二度と会うことはない彼らが無形にもかかわらず、確かな存在として質感をもって自分のどこかで活きている。覚えていたいという意思、忘れたくないという想いを持たなくても自然と残っている。いい記憶だけでなくいやな思い出もまた人生に帰納する。それはゲストハウスを含む旅全体を含めてのことなのだが、一晩を過ごし朝食を取るという日と日をつなぐ「場」というのは大事だったりするのだ。

今回の旅の目標の一つに、彼女に出会いと交流を味わう体験をしてもらうというのがあった。そういう経緯もあり、前向きに安宿・ゲストハウスの線でも探していた。ただ1日を前にしたこの状況では、ゲストハウスのドミトリーさえも一人が1万円ほどで、満杯な有様だった。地球の歩き方に掲載されているゲストハウスもまた同様に満室で八方塞がりだった。

そんなゲストハウス探しの中で、1件だけここなら空いていて、結構面白いんじゃないかと思える宿があった。その名を“コリントス”と言った。なぜ空いているかと思ったかといえば、WEBでの著名な旅行・ホテル検索サイトには出てこない。つまりホテル探しをしている人の目からは除外されているのでその情報に辿りつけない。そして一般の検索サイトでも日本人が経営しているといこととと、HPの更新が止まっていることでよっぽどピンポイントで探している人でないと見つけずらい。検索用語で言うロングテイルの中でも「超」が二つ付くくらいなので、なかなかリーチできない。恐らく日本人が経営しているというのもあり、グローバルで見るとHIT数も限定的かつ局地的だった。
そして面白そうだと思った理由は、まずは立地で、グエル公園の近くだったこと。そして坂の中腹の住宅街にあるので屋上のテラスから地中海が望めること。そして日本人の方がいれば言葉の心配がいらないからだった。他方でWEBでの評判はいいものもあれば、あまり芳しくないものも散見された。いいか悪いか、それは賭けだった。パートナーのいる旅行としては、あまり賭けはしたくなかったこともあり、自分の候補からは消えかかっていた。プランDは特殊なシチュエーションがゆえの選択肢だった。

バルセロナ市内で心当たりを探しつくした旅行会社の方に、コリントスに連絡入れてもらうようお願いした。その名前を見て、こんなところがあるのかと若干驚いていた旅行会社の方も半ばダメ元の境地で電話をして下さった。すると、部屋が空いていた。しかもツインの部屋で€70(7,500円)だった。ただ旅行会社とコリントスの支配人のスペイン語によるやり取りを見ていると、当初は空いている事実に対する驚きはあったものの、後半は表情が曇りがちになっていた。そして電話を切ると、私たちにこう言った。
「部屋は空いています。ツインで€70です。ただおそらくこちらは市の未認可の私営の宿なので、こちらからの予約はできません。」

その時二つの考えが頭をよぎった。一つは、既定・既存の外まで視野を広げれば活路はあるという考え。もう一つ気になったのは、あの旅行会社の方の曇った表情だった。その眉間には「これは危ない」ということを物語っていた。

そうはいってももう明日のこと。とにかくそこへ行ってみることにした。あとは二人の目で確かめるしかなかった。旅行会社の方は、お金にならない困っている旅行者に30分ほど誠意ある接客して下さった。別れ際その美しい旅行会社の方は、くれぐれもお気をつけて、よいご旅行をと見送って下さった。その言い回しと誠意があった接客姿勢が、次のコリントスへ向かう自分の心にひっかかっていた。

選択肢はないが、安易に決めるのはよそう。そう思った。
そして二人は再び地下鉄に乗り、グエル公園方面へ向かった。