常識について思うこと

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広告業が直面する問題点

2009年02月04日 | 産業

テレビや新聞等のマスメディアが、非常に苦しい経営状況に陥っていると聞きます。これらメディアの大部分は、広告事業をその収益源としており、近年それらの広告が、大きくインターネットにシフトしつつあるという事情もあるようです。

しかし私は、たとえ現在の広告業が時代の流れに合わせて、その軸足をテレビ等からインターネットに切り替えたとしても、広告業の本質的なビジネスモデルに変化があるわけではないと思います。無論、広告がインターネットによって普及することで、数多くの変化が見られるようにはなるでしょう。けれども、これから先の時代において起こるであろうことは、これまでの広告業というビジネスモデルの崩壊であり、それだけ大きな現象になるということを念頭に置いておいた方がいいように思うのです。

既存の広告業というビジネスモデルの崩壊については、以下のようなポイントによって整理することができるだろうと思います。

①メディアの変質

元来、広告の役割というのは、「伝えるべき人(企業)が伝えられない」、「知るべき人(消費者)が知らない」という問題を解決することにあります。情報伝達手段に限界があり、それらの情報の授受が困難な時代にあって、広告はそうした問題を解決してきました。この際、広告はメディアを有効に活用してきており、歴史的にメディア産業と共に、成長してきたと言えるのではないかと思います。

ここで注意すべきは、その活用すべきメディアの急速な変化です。従来のメディアは、片方向が主流でした。これはテレビ、ラジオ、新聞等を含め、その大部分が、発信者と受信者にきちんと分かれていることからも明らかです。つまり、従来のメディアにおいて広告を流す際には、メディアのそのような関係性のなかで、発信者側の人々と組んで、広告を業として成り立たせてきたということです。

しかし、これからの時代においては、インターネットが主流メディアに移り変わろうとしているわけです。そしてインターネットとは、あくまでも通信技術から生まれたものであり、その本質は双方向性にあると理解しなければなりません。このことは、インターネットの全ユーザーが発信者になり得るということであり、従来のようにメディアにおける限られた一部の発信者と組むという手法では、広告が業として成り立たないということを意味しているという点が重要です。

この点については、インターネットの発達とともに、様々な工夫がなされてきました。例えば、ずいぶん前から「アフィリエイトプログラム」といった手法等を通じて、ひとつの流れを作ろうとする業界の動きがあり、新しい広告の新しいモデル構築が試みられていると考えます。

しかし一方で、相変わらずインターネットにおける広告収入の大部分が、一部の大手サイトに集中するという意味で、そうした試みが必ずしも成功しているとは言い難いと思いますし、これからもっと大きく広告業の在り様が変質していくのではないかと考えます。その具体的な動きについては、以下に記す他項とも深く関係するので、それらから読み取っていただければと思います。

②訴求対象の変化

今日の広告業は、テレビを中心としたマスメディアの成長とともに、発展してきたと言えるでしょう。しかし一方で、広告はその対象となる商品やサービスとともに成長してきたとも言うことができると考えます。

高度成長期の日本では、たくさんの技術革新の下、多くの画期的な商品が生まれました。そして、それらの多くの優れた商品については、全国民的に訴求するだけの価値があったと考えられます。したがって、それらの情報をテレビ等のマスメディアに乗せて、広く知らしめるという行為が十分に成立し得たのだろうと考えることは十分に可能です。

その後、企業が訴求したい商品が多様化したり、消費者の購買力の増大や生活スタイルが変化したりといったことも相まって、マスメディアの広告が、細分化される傾向が生まれてきました。こうした時代の流れに沿って、広告を打つ側の企業も、各商品間の差別化するポイントを広告の中に取り入れたり、細分化されたメディアの中から、最適なものを選定する等の行為を通じて、より効果の高い広告戦略を立てるようになりました。

けれども、こうした細分化が進めば進むほど、差別化するための方向軸が増えることになります。それは結果として、それらの間で互いに差別化することが急速に難しくなっていくことを意味します。

さらに、今日の日本経済のように、高度成長が一段落し、かつてのような画期的な技術革新もなく、各商品間での差別化が難しくなってくると、それらを消費者に対して、アピールすることがますます困難になります。

ニーズや商品の多様化は、社会の成熟度が上がると解することもできるため、これそのものは大いに歓迎されるべき現象です。しかし、多様化は産業成長の方向軸がばらけることを意味しており、広告に乗せるべきメッセージが持つインパクトの低下を招きます。こうした状況にあって、広告はイメージ先行型のものが多くなり、何の広告だかサッパリ分からないというものまで、散見されるようにまでなってしまいました。

もちろん、そうした差別化要素が皆無なわけではないので、何かしらの差別化要素を見出して、それを広告におけるメッセージとすることは、引き続き試みられていると思います。

ただ、そうした差別化要素が、本質的に消費者のニーズを満たしているものでない以上、メッセージはメッセージとして受け取られません。結果として、画期的な技術革新やアイディアに乏しく、かつてのような訴求力を失った商品の広告は、メッセージ性が希薄となり、広告を広告たらしめることができなくなってしまうと思うのです。

③情報量の膨大化

前項のような問題があったとしても、仮に画期的な技術やアイディアによって、「見たこともないような商品」が出たとしたら、それは非常に多くの人々が知りたいと思うでしょうし、またそれを知った人も他の誰かに知らせたいと思うようになると思います。

かつて、メディアが限られている時代にあっては、そのメディアなしには、そうした新しい商品を知ることが比較的困難だったと言うことができるでしょう。つまり、そうした新商品に関する情報は、今日に比べて、非常に限られていたと言うことができると思うのです。

しかし近年では、「見たこともないような商品」が出れば、その情報は直ちに、知らせたいと思う人が、知りたいと思う人に伝達できるようなネットワークが整備されています。消費者は自分たちに張り巡らされたネットワークを通じて、そうした情報を自由にやり取りし、従来のメディアから得られていた以上の情報を扱えるようになりました。

もちろん、メディアそのものの多様化やボリュームの増大が進んだのという点も見逃せません。端的に言えば、例えばテレビのチャンネル数や雑誌の種類だけを見ても、この20年間で膨大な量に膨れ上がったことは明らかです。このことは、広告のみならず、それらメディアの中で組まれる番組や記事のなかで、新しい商品に関する情報が扱われるということまでをも含めて、情報量の膨大を意味しているわけです。

このように、消費者間の情報流通の発達、メディアの多様化等といった現象から、広告の対象となる商品に関わる情報ボリュームが急速に増加し、結果として、広告業の社会的意義を低下させているいのではないかと思います。

④産業構造の変化

昨年以降、世界経済の深刻な不況が大きな話題になっていますが、このように産業が活気を失ってくると、企業活動において、まず削られる対象として挙げられるもののひとつが広告費です。とくに最近では、日本の大手自動車メーカーの動きが、広告業界に多大な影響を及ぼしているようですが、これは今後の広告業界の未来を指し示すひとつの大きな予兆である気がしてなりません。

もちろん、それぞれの業界によって特色があり、不況に強い業界、あるいは不況であればこそ盛り上がる業界等もあるため、それらを全て一緒に論じることはできません。ただ、産業全体で捉えた場合、そうした不況に強い産業群が日本、あるいは世界産業全体を牽引していくだけの力があると考えるのは、非常に困難ではないかと思います。私は、そういう意味で、産業界全体の傾向として、今後、広告業が極めて困難な状況に直面していくのではないかと考えています。

つまり、これから先は、日本のみならず世界を牽引していけるだけの産業を興していくことが、大変重要なのであり、それをバネにして、新しい活気ある経済活動が再開されるようになるのではないかと思うのです。そうした中で私は、インターネットをはじめとする基幹インフラの整備が、今後の産業復興のための起爆剤になり得ると考えます。そして、そのような新しい産業が生まれることを通じて、次の時代の産業界の勢力図が決まることになるのでしょう。

ただし、そうした新しい産業が成立し、経済活動に活気が戻ったとしても、広告業が、かつてのような繁栄を取り戻すようなことはないような気がします。

本来、こうした新しい起爆剤的な産業が生まれることで、産業界全体が活性化すれば、再び各企業が広告にお金をかけるという流れが出てくると考えるべきなのかもしれません。

しかし、次の時代におけるインターネットを中心とした新しい産業構造においては、メディアの役割が大きく変質していると考えられるのです。インターネットは、まだその本来の実力をほとんど発揮しておらず、次の時代における広告業は、現在とは全く異なる環境下に置かれると考えるべきです。それこそが、私が冒頭に記した「既存の広告業というビジネスモデルの崩壊」という言葉の真意になります。

ひとまず今日は、既存の広告業について思ったことを、一通り駆け足で書いてみました。一方で、「将来の広告業」の姿という視点もあると思うので、それについては、また機会があれば、記すようにしたいと思います。

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