先日・・以前から観たくてたまらなかった、蜷川さん演出の舞台「ハムレット」を
観る事ができました。
もちろん・・・観ると言っても、すでに遥か昔に公演は終わっているので(笑)
DVDで観ました。
発売されているものではなく、以前にWOWOWで放送されたのを録画していた友達の
好意で・・見せてもらうことが出来ました
小栗さんは「DVDで観る舞台ほどつまらないものはない!」と力説しておられましたが(^^;)
すでに手段がないのですからぁ~~(--;)
それに、もちろん・・・生で観る事に勝るものはないですが
DVDでも十分、楽しめましたよ^^
まぁ・・・生で「ハムレット」を観てないからこそ、そう思うのでしょうが。
(生で観た「恋の骨折り損」をDVDで観たら、違う印象を受けるのでしょうけど)
という訳で、観たんです。
藤原竜也さん主演、蜷川幸雄さん演出・・『ハムレット』を。
ここで、簡単なあらすじを。
『デンマーク王(西岡徳馬、王の弟と二役)が急死する。
王の弟クローディアス(西岡徳馬・二役)は王妃(高橋恵子)と結婚し、
跡を継いでデンマーク王の座に就く。
父王の死と母の早い再婚とで憂いに沈む王子ハムレット(藤原竜也)は、
従臣から父の亡霊が夜な夜な城壁に現れていることを聞かされる。
亡霊に会ったハムレットは、実は父はクローディアスに毒殺されていたことを知る。
復讐を誓ったハムレットは狂気を装う。
王と王妃はその変貌ぶりに憂慮するが、相ポローニアス(たかお鷹)は、
その原因を娘オフィーリア(鈴木杏)への実らぬ恋ゆえだと察する。
父の命令で探りを入れるオフィーリアをハムレットは無下に扱う。
やがて王が父を暗殺したという確かな証拠を摑んだハムレットだが、
王と誤ってポローニアスを殺してしまう。
オフィーリアは度重なる悲しみのあまり狂い、やがて溺死してしまう。
ポローニアスの息子レアティーズ(井上芳雄)は父と妹の仇をとろうと怒りを燃やす。
ハムレットの存在に危険を感じた王はレアティーズと結託し、
毒剣と毒入りの酒を用意してハムレットを剣術試合に招き、秘かに殺そうとする。
しかし何も知らぬ王妃が毒入りの酒を飲んで死に、
ハムレットとレアティーズ両者とも試合の最中に毒剣で傷を負ってしまう。
死にゆくレアティーズから真相を聞かされたハムレットは、王を殺して復讐を果たした後、
事の顛末を語り伝えてくれるよう親友ホレイシオ(高橋洋)に言い残し、
ノルウェー王子フォーティンブラス(小栗旬)に王位を継がせると言い残して死んでいく。』
(少し加えましたが、基本・・上の文は
こちらから貼り付けました)
小栗さんの登場シーンはほんと~~に少ないです。
でも、以前に小栗さんが仰っていたのを読んだことがありますが
そんなに少ない登場シーンであるにもかかわらず、蜷川さんが「若き4人」を軸として
自分をその中の1人として扱ってくれた事が嬉しかった・・・と言われてましたね。
かなり少ないです。
最初の登場まで、2時間ちょっとかかりますし(^^;)
やっと出てきた!
と思っても、一瞬にして去っていく
で、次は・・・ラストシーンまで登場せず
そのラストもホントに最後の最後のシーンで・・・。
時間にしたら本当にごくわずかな時間なのですが、驚いた事に・・
小栗さんのフォーティンブラスの美しさが、今回もくっきりと記憶に残るというのが・・
素晴らしいです!
やはり小栗さんの美しさは、セリフが少なくても・・輝くというか・・
本当に佇まいが美しい人だなぁ・・と改めて思いました
ご本人はイヤかもしれませんが
この見た目の美しさ、佇まいの綺麗さは・・もの凄い武器だと思います。
フォーティンブラスの画像がなかったので・・オーランドーで(^^;)
小栗さんの美しさ、存在のインパクトは当然記憶に残ったのですが
何といっても、主演の藤原竜也さんの・・・演技力には本当に度肝を抜かれました。
四方を金網のようなもので囲まれた舞台演出で、観客席は二方向に分かれ・・
向かい合うような感じで座っている・・ようでした。
なので、役者さんたちはどこに居ても、どこからか見られている・・という中での芝居となります。
そういう舞台演出もなんだか興味深いものでしたが
先ほども書いたように、なんといっても藤原竜也さんです。
小栗さんとはまた違った魅力を持った方です。
タイトルロールのハムレットを演じられた藤原さんですから
当然、ほぼ出ずっぱりです。
セリフの量も半端でなく、恐ろしいほどに膨大な量です。
ですが、彼は・・・当然なのですが、一言も詰まらず、もちろん噛まず・・・・
イヤ・・それは当然なんですけど・・・・。
詰まる詰まらない、という見かけの状態というのではなく・・・
セリフを完全に自分の言葉とされていたんですね。
内からほとばしるというか・・・
本当にご自分の思いを伝える言葉として、口から出ていたというか・・。
「セリフを自分のものにする」という状態は、こういう事なんだな・・と
まざまざと見せ付けられた感じがしました。
これには本当に驚きました。
何の違和感もなく、心にすっと入ってくる。
小栗さんが仰っていましたが
「『ハムレット』に限らず、シェイクスピアの作品は、ポエムのように描かれている言葉の中に感情がある。
それを役者が完璧に動かす事ができたら、なんてキレイなものになるんだろうって思います」って。
「ハムレット」の藤原さんは、まさにそれでした。
物語はあらすじを見てもわかるように、悲劇です。
それゆえ、終始・・空気は重苦しく、描かれているのは窒息しそうなほどのハムレットの悲しみ。
怒り。
疑い。
混乱。
狂気。
それを取り巻く企み。
決意。
ほんの少しの安らぎ・・・・。
舞台上で描かれる様々に変化する感情の雨を、藤原さんは一人背負い、もの凄いスピードで疾走していきます。
彼は完全にハムレットに成り切っておられました。
そのどれもが取ってつけたような表現ではなく、本当にハムレットがその場に生きて
今、体験しているかのように・・・そして今体験している状態から感情が沸き起こり
そこから発する言葉のように・・・そう感じざるを得ないほど・・。
そこに居るのは、まさにハムレット・・・その人でした。
髪を振り乱し、狂気の目をして、舞台を駆け回り・・汗だくになりながら
倒れこみ・・叫び・・泣き・・・もがき苦しむ。
父を失った悲しみ、その父を殺した叔父への憎しみ・・・その叔父と結婚してしまった母への怒り、嫌悪感
自分を愛してくれるオフィーリアへの愛おしさ、
切り捨てられない母への愛情、そして自分の身に起こっている悲劇への悲しみ憎しみ恨み・・・
その苦悩にもがき、自分の身をも引き割かんばかりの苦しみに耐えながら
父を殺した叔父への復讐を決意するハムレット・・・
「生きるべきか・・・・・・・死ぬべきか・・・・・・・それが問題だ・・」
有名なこのセリフの意味が、苦悩するハムレットを観て
ようやく分かった気がしました。
復讐と死へ向かって突き進むハムレット、その心には矛盾と苦悩を抱え込み
自分ですら狂気と正気を区別できないほど・・・心の奥底から沸き起こる感情に支配され
それに突き動かされ、翻弄されていく・・・。
ハムレットとは・・・・・こういう人だったのか・・・。
シェイクスピアの「ハムレット」とはこういう物語だったのか・・と
分かった気がしました。
(ストーリーは以前から知ってはいたんですよ)
藤原さんに求められていたのは、死に向かって突き進む・・悲しみの王ハムレットの姿なのでしょうか
舞台上の彼は、常に悩み、考えている表情をし、いつもうつむいているか、
そうでなければ・・遥か遠くを見ているような目をしていて
まるで本当に狂っているかのような表情でした。
その目には悲しみが溢れ、見つめているだけで・・・こちらも思わず涙が出てくるような・・。
「四大悲劇」というだけあって、本当に重々しい悲しみが漂っていましたが
私が感じた「タイタス・アンドロニカス」との違いは・・・
「タイタス」ではそこにいる人、それぞれが悲しみ、憎しみ、怒りを抱えていて
そのそれぞれの炎が終焉に向かって一つ方向に向き・・燃え盛っていき
ラストに最大の悲劇の炎が燃え上がる・・・という印象があるんですね。
多くの魂の憎悪が渦巻いていて、それが集まった時に起こる最大の悲劇・・というか・・。
でも「ハムレット」では、大きすぎる悲劇の炎を、ハムレット一人が背負うというか・・・
その姿はあまりにも痛々しく、途中から私は涙なしには観れませんでした。
ハムレットの心の痛みを、私が最大に感じた場面は
最愛の父を殺した叔父と、結婚をした母をなじる場面でした。
叔父の殺人を確信したハムレットが、舞台役者たちを使って・・・その光景を演じさせ
それを叔父や母に見せるんですが・・それに動揺した叔父を気遣って、母がハムレットを
なだめるというか・・・言って聞かせる場面があります。
そこでハムレットの怒りと悲しみと苦しみが爆発するんです・・。
今まで狂気を演じてきたのだ!と泣きながら叫び・・・・母を責め立てます。
「母上のした事は・・慎みや恥じらいに泥を塗り、美徳を偽善と呼び、
汚れない愛の芳しき額から・・愛の証の薔薇をもぎ取り、代わりに娼婦の烙印を押す事です。
結婚の誓いをくだらぬイカサマ博打のかたに入れてしまうことだ。
ああ!!
あなたがした事は・・・契りという肉体から魂を抜き取り・・・清い誓いの言葉を戯言の羅列にする事だ・・
(中略)
あなたの年だったら・・情欲の盛りもおさまり・・落ち着いた理性に従うはずだ・・・・
そしてどんな理性がこちらからこちらに移させたのだ
どんな悪魔に目隠しされて騙されたんだ?
恥を知れ!!!」
慌てて書き留めたので合っているかどうか・・わかりません。
また一部省略しましたが・・・
こういうセリフを母を押し倒し、ウロウロと所在無いように歩き続けながら
頭を抱え込み・・・泣きながら・・・・ハムレット、藤原さんは叫び続けます。
その目には涙が溢れ・・・・悲しみで気が狂わんばかりです・・。
もう・・私はこの時のハムレットの悲しみの大きさが伝わってきて
苦しいくらい・・・悲しかった。
と、その時・・・・父の亡霊が現れ「母に言葉をかけてやれ」と語るんです・・。
父の亡霊はハムレットにしか見えず、母はハムレットが本当に気が狂っていると思い
可哀想な我が子を抱き寄せ、抱きしめ、母としての愛情、慈しみで包もうとするんです。
ハムレットはきっと一瞬・・・・癒されたと思います。
自分でも押さえ切れないほどの悲しみ憎しみで動かされながら過ごしてきた、この数ヶ月・・・。
ほんの少しでも母の愛情に触れて・・・忘れてた安心を感じたかもしれません。
母に抱き寄せられ、ほんの一瞬・・・安らかな目をした次の瞬間
彼はまた狂ったように叫び、母への罵りを続けます。
そして・・・復讐へと突き進むために・・・母への別れを告げ、立ち去ろうとするハムレット。
でも・・どうしても行けない。
母の元に駆け戻り、母にしがみ付いて泣き崩れるハムレット。
残されている母への愛情に動かされて・・・何度も何度も母を抱きしめながら
ひたすら泣くんです。
意を決して立ち去ろうとするのに、立ち去れない。
振り返り・・・「もう一度・・」と母に駆け寄りすがりつく。
そうかと思えば・・また怒りの表情を見せ、母を罵倒し・・・
そしてまた抱きついて泣き崩れる・・・
この混乱・・。
この混乱こそがハムレットの悲しみを現していて・・・・・
もう・・私は観ているのも辛く、胸が張り裂けそうでした。
その悲しみ色に染まった・・・後に
爽やかな風が吹き抜けます。
ノルウェー王子、フォーティンブラスの登場です。
(またオーランドーで^^;)
小栗さんは客席の後ろのドアから登場し、軽やかに階段を駆け下り
舞台に上がります。
その姿、動きは本当に美しく、清らかな風が吹いたような印象を受けました。
凛々しく、爽やかでしかも若き王子らしく堂々とした佇まいは
そこに立っているだけで、癒しになり
それまでの悲しみを打ち消すのには十分な存在感でした。
この人が・・この悲しみを救ってくれるかもしれない・・・
と、そんな感覚になるんです。
ほんの数分の小栗さん・フォーティンブラスの登場で、それまで息つく間もない苦しい雰囲気に
カラカラだった喉に、冷たく透明な一杯の水を与えてくれて・・・
はぁーーっと溜め息をつくことが出来ました。
暗黒の世界に身を置き、更にその深淵に向かって突き進んでいるハムレットと
清清しい朝日を背に受け涼しい風が吹く草原に立っているかのような
心爽やかな気持ちにさせるフォーティンブラスの存在。
ハムレットの狂気に引きずり込まれそうになっている気持ちを
引き戻すのには十分な役割を果たしていたと思います。
母の元を去ったハムレットはいよいよラストに向けて走り出します。
叔父と間違ってハムレットに殺されてしまう・・愛しいオフィーリアの父。
その父の死によって、気が狂ってしまったオフィーリア。
父の死と、狂った果てについに死んでしまった妹オフィーリアの姿を見て、
ハムレットへの復讐に燃えるレアティーズ。
そのレアティーズの思いを利用してハムレットを殺そうとする叔父。
剣の試合をする事となったハムレットとレアティーズ。
しかし、その試合はどっちにしてもハムレットが死ぬように仕組まれています。
レアティーズの剣の先には毒が塗られ、ハムレットが負ければその毒の剣にやられる事となり
またハムレットが勝てば、祝いの杯が授けられ・・そこには毒が入っているんです。
この企みを知らず・・ハムレットは堂々と試合をし・・・勝利は目前。
その勝利を確信して、母が喜びのあまり・・・ハムレットが飲むはずだった杯を飲んでしまう。
その様子を見て・・・悔しがったレアティーズは後ろから刺すという卑怯な手段に出る。
怒ったハムレットは、剣で向かい・・・その拍子にお互いが剣を落としてしまい
入れ替わってしまいます・・。
レアティーズは自分で塗った毒の剣に倒れ・・母は毒入り杯で息絶え・・・
死ぬ間際に叔父の陰謀である事をレアティーズがハムレットに告げ・・・詫びる。
ハムレットは最後の力を振り絞って・・叔父を殺し・・
自分もその場に倒れます・・・・・。
舞台上にはまたしても血まみれの4人の姿。
息も絶え絶えの中、ハムレットは唯一の自分の理解者・・
唯一心穏やかになれる・・・親友であり臣下である・・ホレイシオに抱きかかえられながら
こう告げます。
「この・・酷い世界で・・苦しい息を吐きながら・・・・・俺の事を伝えてくれ」と・・・
「次に王に選ばれるのはフォーティンブラス・・・・・。
彼を選ぶのが俺の意志だ・・・・・・・・・・
だから彼に伝えてくれ・・・・・・・これまでに起こったことの顛末を・・・」
そう言い残し、ハムレットはついに死んでしまうんです。
呆然として・・・
「気高い魂が砕けてしまった・・・・」と悲しむホレイシオの元に
戦い終えて・・・兵を率いた若き王子、フォーティンブラスが再び登場します。
血塗られた現場を目にして・・・驚き、怒り・・・叫びます。
「この死体の山!!殺戮の嵐が吹いたか・・・・・?
驕れる死よ!!地獄で饗宴を開こうというのか!
これほど多くの王侯貴族を一度に無残に倒すとは!!」
ゆっくり近づくフォーティンブラスに、ハムレットの遺体を人々に見えるように高く掲げてくれるように頼むホレイシオ。
そして事の起こりを語らせてくださいと懇願。
じっとホレイシオの話に耳を傾け・・・気高いハムレットの死を悼み、尊み
立派な王としての扱いを施して弔うように、自分の兵に命じるフォーティンブラス。
そして一気に階段を駆け下り・・・横たわっているハムレットのもとにひざまずき
最高の敬意として・・・・・そっとハムレットの唇にくちづけをする・・・。
すっと雄雄しく立ち上がり、「大砲を撃て!!」と叫ぶフォーティンブラス。
ハムレットに対してこれ以上ない敬愛を示すために
鳴り響く大砲の中、高々と上げられるハムレットの亡骸・・・。
ここで・・・終了です。
フォーティンブラスがハムレットにキスをした時、私は本当に嬉しかったんです。
ハムレットに「良かったね・・良かったね・・」と心の中で声をかけ
涙が出ました。
これは小栗さんのアイデアだったようですが、素晴らしいシーンだったと思います。
本当に素晴らしい舞台、素晴らしい藤原竜也さんのハムレットでした。
この人は・・・凄いな・・・・・・・と、溜め息が出ました。
あの舞台を一人で背負っておられたんですから・・・。
彼はこの後、「ハムレット」で共演した、オフィーリア役の鈴木杏ちゃんと
「ロミオとジュリエット」を公演しています。
「ハムレット」の時の2人なのですが、そこにはまた全く違うロミオ・藤原竜也がいて
それもまた驚きます。
いつも熱い・・・情熱的な演技をされるところは同じといえば同じなのですが。
本当に凄い人です。
もう・・表す形容詞が・・・それしかない(^^;)
蜷川さんが小栗さんのことを
「小栗はもっと重い役を背負えるはずだ。ロミオなどもやるべきだ」というような事を
仰っているのを読んだ事がありますが
いつか「ロミオ」や「ハムレット」などもやってほしいですね。
小栗さんがやれば・・どんなハムレットになるんでしょうね・・・。
今回も相変わらず長々、ダラダラ書きの感想を読んでくださって
ありがとうございました