脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

くも膜下出血の診断について

2018年10月20日 | くも膜下出血
先日、このブログにmayakoさんから下記のようなコメントを頂きました。

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ブログ読ませていただいております。
私のブログにきたコメントを記事にしました。
すごく悲しく、親御さんの気持ちが本当に理解できるので、
先生にもお読みいただき、若い医師に患者や家族の気持ちを分かってもらいたくて、かき込みました。
https://blog.goo.ne.jp/sahmayamama/e/5b0a40dbac1baf343ebbabc8badeed12
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本件は重要なことですので、私の意見を述べたいと思います。
このような事例は稀ならず報告されます。なぜなのでしょうか?
そのためにはまず、くも膜下出血の症状を知る必要があります。
拙書「脳卒中をやっつけろ!」の「その1:敵を知り」では以下のように説明しています。

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 脳卒中の中でも、くも膜下出血はかなり症状が違います。そこで、別に解説します。
①頭痛:くも膜下出血に典型的なのが「頭痛」です。というと、「自分もそうかもしれない!」と心配になりますよね。でも安心してください。ほとんどの頭痛はくも膜下出血ではありません。というのも、くも膜下出血の頭痛は特徴的で、「突然の激しい痛み」なのです。それも「何時何分」と、時間を特定できるほど急に起きる頭痛なのです。患者さんはよく、「これまで経験したことのない激しい頭痛」とか「ハンマーで頭をたたかれたような頭痛」と言います。そんな頭痛はあまり経験しませんよね。ですから、「このところ何となく頭が痛い」とか、「肩こりがひどいと頭が痛くなる」というのは、まずくも膜下出血ではありません。 
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このように「突然の」激しい頭痛という点がくも膜下出血の頭痛の特徴とされています。
さらにCTを撮影するかどうかについては、この本の中で「コラム:突然の頭痛にCTは必要か?」として取り上げました。

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 新聞などで、毎年のように「くも膜下出血の見逃し」が報道されます。なぜ見逃されてしまうのでしょうか?
 まず、見逃されるのは軽症の患者さんです。重症の患者さんは意識障害などがありますので、救急車で搬送され、迅速に診断されることがほとんどです。しかし、患者さんが頭痛だけで他に症状がない場合には話が変わってきます。私たち脳神経外科医は「突然の頭痛」と聞いただけでCTを撮らずにはいられませんが、あるインターネットの掲示板で「突然の頭痛というだけで緊急CTは撮らない」とする一般医師の意見が多く、私は大変驚きました。(中略)さらには、CTを行ったとしても、軽度のくも膜下出血は診断しにくいため、見逃されてしまうことが多いのです。以前調査したところ、軽度のくも膜下出血は脳神経外科医の専門医しか診断できませんでした。しかも、発症から時間が経過すると専門医であってもCTで診断できなくなってしまいます。こうなると特殊なMRIや腰椎穿刺(背中を注射して脳脊髄液を抜き取って調べる検査)を行わないと診断できなくなってしまうのです。
 つまり、自分の身を守るためには、突然の激しい頭痛はすぐに脳神経外科の専門医に診てもらうことが重要なのです。頭の病気は頭の医者に、おなかの病気はおなかの医者に診てもらうのが一番いいのです。「突然の頭痛」は迷わずすぐに脳外科を受診してくださいね!
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個々の事例についての言及は避けますが、症状が典型的ではない場合には私たち専門医でも迷います。
ただし、私は必ず検査をします。そのきっかけとなった患者さんのことを紹介します。

私が休日当番だったある日、「座布団の上に後ろ向きに倒れた」という赤ちゃんが救急外来にきました。見た目は全く普通でしたし、麻痺などもありませんでした。よく聞くと、分厚い座布団の上に倒れて、その後は嘔吐などもなく、全く正常ということでした。小児は検査の途中に安静にできない事が多く、場合によっては座薬や注射で眠らせないと検査できないので本人と放射線技師さんに負担をかけてしまうことが多いのです。また、そこで放射線技師さんに相談しました。そうするとその技師さんは「先生、いいよ。動いたらCT室に手伝いに来てね。」と気持ちよく引き受けてくださいました。そして、検査をした結果、なんと小脳に出血しているではありませんか!当然、緊急入院となりましたが、幸い手術は不要で、経過は良好でした。
この経験以降、私は頭蓋内の異常の可能性がある場合には必ず検査をすることに固く決めました。そして、一緒に仕事をする仲間達にはこういった事例を紹介して、同様の対応をするように指導しています。

医学は不確定要素の大きな学問です。診断や治療に100%確実ということはありません。頭痛もはっきりしないのに出血を認めることさえあります。ですから、ご自身とご家族を守るためにもぜひ医学の知識を増やし、頭の病気を疑ったら必ず脳神経外科専門医を受診してください。

「脳卒中をやっつけろ!」はこのような事例を減らしたい、そんな思いで書きました。皆さんのお役に立てば嬉しいです。
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水頭症の手術:脳室腹腔短絡術(シャント術)その2

2013年04月11日 | くも膜下出血
水頭症手術のつづきです。
以前は一旦この手術を行っても、水が流れすぎたり、流れが足りない時には手術をやり直す必要がありました。しかし最近ではチューブの途中に上の図のような圧可変式バルブをつなぐことで、再手術の必要がなくなりました。
皮膚の上から機械を当てて、ボタンを押すだけで目的の圧に設定できるのです。とても良いシステムです。
ただ、圧の変更には磁石の力を使っているので、日常生活で強い磁力のあるものを避けるようにしなくてはなりません。例えば、磁気枕や磁気ネックレスは使用を控えるべきですし、ヘッドホーンや携帯電話もバルブのところに直接当たらないようにしなくてはなりません。
また特に注意しなくてはいけないのがMRIです。MRI検査を受けたら、必ず圧の再調整が必要です。
ただ、最近ではMRIを受けても圧が変わらないタイプのものも市販され始めました。この領域も進歩していますね!


水頭症.jp
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水頭症 その2

2013年03月20日 | くも膜下出血
水頭症の症状についてお話しします。
水頭症には2つのタイプがあります。
急性水頭症と慢性水頭症です。

急性水頭症は、水の流れ道が急に閉塞することで起こりますので、「閉塞性水頭症」とも呼ばれます。
急に水の流れが塞がれるので、脳室で産生される水の行き場がなくなり、頭の中の圧力が上がります。これを医学的に「頭蓋内圧亢進(ずがいないあつこうしん)」と言います。
症状として、頭痛や嘔吐、視力低下などが起こります。

慢性水頭症はくも膜下出血や髄膜炎の後に起きてくるものを指します。
水の流れが徐々に悪くなって起こります。とは言っても流れ道はそれなりに残っているため「交通性水頭症」とも呼ばれます。また、くも膜下出血後の水頭症は「正常圧水頭症」と呼ばれます。
さて、このタイプには典型的な3つの症状があります。
1)物覚えが悪くなる
2)歩行障害
3)尿失禁
この3つです。この症状は認知症の症状に似ています。このためこのタイプの水頭症はうまく診断されず、「認知症」として治療されることが多いと言われています。

脳の症状というと、麻痺や言語障害が多いものですが、水頭症ではちょっと違った症状が出るのです。

          
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水頭症 その1

2013年03月17日 | くも膜下出血
水頭症について説明する準備段階として、まず脳脊髄液について説明します。

私たちの頭の中にはお水があり、脳脊髄液(のうせきずいえき)または髄液(ずいえき)と呼ばれています。以前、医学生に「髄液って血液が混じったような赤色ですか?」と聞かれたことがあるのですが、本当に透明なお水なのです。不思議ですけど、涙のようなものと考えると納得がいくかもしれませんね。

さてこの髄液、脳の中の脳室という部屋で産生され、脳の中をめぐった後、外側に出て脳の表面を回った後、くも膜顆粒というところから静脈に出ていきます(上図)。1日の産生量は約500mlとされていて、成人では脳室の体積が180ml前後とされているので、1日に3-4回 入れ替わると言われています。脳の中も外も綺麗な水で満たされているのです。

さて、髄液の流れ道のどこかがブロックされると、どんどん水がたまってしまい、脳室の中の圧力が高まってしまいます。この状態を水頭症と呼びます。

次回は水頭症の病態についてお話しします。






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脳内出血だけを起こす動脈瘤

2012年05月14日 | くも膜下出血
なぜ脳内出血だけを起こす動脈瘤があるのかとご質問がありました。
それは上の図を見て頂ければ分かると思います。

左の図のように、通常の動脈瘤は「脳の外」にあるため、破裂した時に血液は「脳の外」、つまり「くも膜下腔」に流れ出ます。ですから「くも膜下出血」になるのです。

これに対して、右の図の動脈瘤は先端が「脳の中」に潜り込んでいるため、ここが破裂すると「脳の中」だけに出血する、というわけです。

純粋に脳内出血だけの動脈瘤はそれほど頻度は高くありません。しかしくも膜下出血に脳内出血を合併するという程度ならかなり良く経験されます。
この場合、普通の脳内出血と間違われ、動脈瘤の治療が遅れることがあるので注意が必要です。

以上、ご参考となれば幸いです。

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破裂脳動脈瘤のコイル塞栓術

2012年05月13日 | くも膜下出血
破裂脳動脈瘤をコイルでつめるイメージがわかないというご指摘を受けました。

動脈瘤が破裂している最中は、もちろんどんどん動脈瘤の外へ血液が漏れています。しかし出血がしばらく続くと、動脈瘤の外側(脳側)の圧力も上がってくるため、徐々に止血されてきます。つまり動脈瘤が破裂してもほとんどの場合、一旦止血します。

破裂点はかさぶたのようなもので、ふさがれます(上図左)。この状態で落ち着いてしまえば問題ないのですが、いずれはこのかさぶたのようなものが外れて出血(再破裂)することが多いのです。この再出血が致命的となることが多いため、その前に止血処置、すなわちコイリングやクリッピングを行うわけです。

ですから破裂動脈瘤とは言っても、治療する時には未破裂と同じように単なる袋になっているため、未破裂と同じように詰めることができます(上図右)。

ご理解頂けたでしょうか?
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脳動脈瘤の再発について

2012年05月11日 | くも膜下出血
くも膜下出血を経験した方から、再発について質問がありました。
外来でも時々この質問を受けますので説明したいと思います。

治療後の再発率は、くも膜下出血となった患者さんにコイリングを行ったか、クリッピングを行ったかで違います。
クリッピングの場合には再発は少なく、完全にクリップが行われた場合には年間再発率は0.02%と報告されています。
これに比べ、脳血管内手術の場合には再発することが稀ならずあります。
例えば、米国のCARAT研究では、クリッピング後の再治療は1.7%であったのに対し、コイリングでは15.7%に行われています。この数値だけを見ると約10倍ですね。
ただしコイリングの方も、治療後3年経過すれば、その後の再発は減少することが報告されています。

このためコイリングを行われた場合には、治療後最低でも3年間は定期検査が必要とされています。
クリップの場合にも、再発がゼロではないという考えから定期検査が行われることがありますが、完全な治療が行われていれば年間0.02%ですから、10年でも0.2%と極めて再発率が低いので、定期検査を行わない病院もあります。

以上ご参考となれば幸いです。
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未破裂脳動脈瘤の治療について

2010年11月17日 | くも膜下出血
先日地元の新聞に未破裂脳動脈瘤にどう対応するかというテーマでコラムを書きました。
見出しが「動脈瘤あれば手術」となっていたので、最後に「?」を加えました。
動脈瘤に対する治療は切る手術にしろ切らない手術にしろ、治療するかしないかを決定すること。
それが重要なのだというメッセージです。
未破裂脳動脈瘤と診断された場合、皆が悩みます。
この記事が、少しでもサポートとなれば幸いです。
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コメントについて

2009年08月25日 | くも膜下出血
以下のようなコメントを頂きました。
「私は去年の11月にくもまっかの手術をしました。動脈リュウは1.5センチあり左目の裏側でバイパスも2本とおってるそうです。麻痺もなく美容師の仕事にも復帰しました。が全て頭に持っていくのは良くないのでしょうが体の不調があると不安感に襲われます!!特別注意しなきゃならないことってありますか??」

うまく治療を受けられてよかったですね。大変腕の良い先生だったのだと思います。
クリッピング術後の動脈瘤の再発はそれほど多くありません。
ですが、再発がないわけではないので、MRIやCTが定期的に行われることが多いです。
また水頭症を合併している場合にも定期検査が必要です。
コイル治療が行われた場合には、動脈瘤の再開通の確率がやや多いため定期検査はきっちりと受けましょう。

脳動脈瘤の発生には,高血圧と喫煙が危険因子とされています。
この二つには特に気をつけましょう。
それ以外は?
別に普通でいいと思います。
「命が助かった!」と前向きに考えられてはどうでしょうか?





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くも膜下出血ー術後管理

2008年10月26日 | くも膜下出血
くも膜下出血の治療には3つの山があります。

一つ目は再出血の山
これまで説明したクリッピングやコイリングがこれにあたります。
もっとも命に関わる山です。

2つ目は脳血管攣縮(れんしゅく)の山
出血の4日後ぐらいから脳の血管が細くなり脳梗塞をおこすのです。
一つ目の山を越えた後に来る、この山も重要です。
2週間まで続きますがその後はまた自然に太くなります。
治療の結果次第では麻痺や失語(言語障害)が後遺症として残ります。
ですから出血の後、2週間は集中治療をしてこの山をなんとか超える。
これがくも膜下出血の術後、最も重要なことなのです。

3つ目は水頭症の山。
出血のために脳の中に水がたまってくるので、頭の水を細いチューブでおなかに流す手術を行います。
これは手術をすればなおります。

以上のようにくも膜下出血は発症してから3の山を超えなければいけない大変な病気なのです。
ただし治療がすべてうまく行くと、全く元通りに戻れる可能性がある病気でもあります。
長い間この病気について説明してきましたが今回で終了です。
次回からは別の話題に移りますね。
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