昔六本木にGeorgeというバーがあった。防衛庁の外壁にへばりつくようにその小さな店は建っていた。一階が店、二階が住まいになっている。店にはママが一人。年中真っ黒に日焼けしている、まるで黒人のように。この店で僕はSam Cookeと出会った。
その頃僕はレコード会社にいて、夜毎赤坂、六本木でマスコミやアーティスト、スタッフを引き連れて飲んでいた。それが終わるのが大体午前二時。それから一人、ないしは秘書をしていた女性と二人でGeorgeに行った。
店内はいつも閑散としていた。時折ママの子供、Georgeが階上から降りてきて焼きそばなどを作ってもらっていた。Georgeは黒人とのハーフ。パパは駐留が終わってアメリカに帰ってしまった。何処にいるのか解らないそうだ。ママが一人で育てている。
仕事で飲む酒は酔えない、ようやくこの店で酔っぱらう。酒癖は悪くなかったが、、この店に来ると何故かもの悲しくなって、やりきれなくなっていつも荒れた。一人の時はまるで自分がTom Waitsになったような気分になり、秘書の女性と二人の時はだだをこねる子供に戻って甘えた。そんな僕を黒人のようなママがカウンター内から笑みを浮かべていつも見ていたものだ。
店内に一台、ジュークボックスがあった。中のレコードはいずれも擦り切れていて、回るとどの曲もバリバリ音がした。たまにママが金を入れて数曲流す。それ以外はFENが流れていた。
「もう帰りましょ」「いやだ」「明日も会議ですよ」四時を過ぎても飲み続ける僕を秘書が優しくたしなめる。優しくされるともっと甘えたくなる。「帰りたくない」。
その時ジュークボックスから音楽が流れ始めた。諭すように優しく甘い声。
If I go a million miles away
I write a letter each and every day
'Cause honey, nothin',
Nothin' can ever change this love
I have for you
Sam CookeのNothing Can Change This Loveだった。名前は勿論知っていたしBring It On Home To Me等数曲聞いたこともある。この曲だって耳にしたことがあったかも知れない。しかしこの夜この歌は僕の胸の奥底にあった感情とハウリングを起こした。不覚にも涙が流れた。僕は彼女の手を握り、曲が続く間中泣いた。
この後僕は会社を辞め、彼女とも会わなくなった。
今彼女は大物R&Bアーティストのマネージメントをしている。「色気もない怖いおばさんになりました」とメールが来た。この話まだ続きがあるのだが、、後十年経ったら完結させましょう。。。
その頃僕はレコード会社にいて、夜毎赤坂、六本木でマスコミやアーティスト、スタッフを引き連れて飲んでいた。それが終わるのが大体午前二時。それから一人、ないしは秘書をしていた女性と二人でGeorgeに行った。
店内はいつも閑散としていた。時折ママの子供、Georgeが階上から降りてきて焼きそばなどを作ってもらっていた。Georgeは黒人とのハーフ。パパは駐留が終わってアメリカに帰ってしまった。何処にいるのか解らないそうだ。ママが一人で育てている。
仕事で飲む酒は酔えない、ようやくこの店で酔っぱらう。酒癖は悪くなかったが、、この店に来ると何故かもの悲しくなって、やりきれなくなっていつも荒れた。一人の時はまるで自分がTom Waitsになったような気分になり、秘書の女性と二人の時はだだをこねる子供に戻って甘えた。そんな僕を黒人のようなママがカウンター内から笑みを浮かべていつも見ていたものだ。
店内に一台、ジュークボックスがあった。中のレコードはいずれも擦り切れていて、回るとどの曲もバリバリ音がした。たまにママが金を入れて数曲流す。それ以外はFENが流れていた。
「もう帰りましょ」「いやだ」「明日も会議ですよ」四時を過ぎても飲み続ける僕を秘書が優しくたしなめる。優しくされるともっと甘えたくなる。「帰りたくない」。
その時ジュークボックスから音楽が流れ始めた。諭すように優しく甘い声。
If I go a million miles away
I write a letter each and every day
'Cause honey, nothin',
Nothin' can ever change this love
I have for you
Sam CookeのNothing Can Change This Loveだった。名前は勿論知っていたしBring It On Home To Me等数曲聞いたこともある。この曲だって耳にしたことがあったかも知れない。しかしこの夜この歌は僕の胸の奥底にあった感情とハウリングを起こした。不覚にも涙が流れた。僕は彼女の手を握り、曲が続く間中泣いた。
この後僕は会社を辞め、彼女とも会わなくなった。
今彼女は大物R&Bアーティストのマネージメントをしている。「色気もない怖いおばさんになりました」とメールが来た。この話まだ続きがあるのだが、、後十年経ったら完結させましょう。。。