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伝承と神話の間(2)

2008-08-31 | 神話、民俗学
佐倉惣五郎の伝説のもとになった事件は
今から約350年前に起きたと思われる。
その後、嘉永四年(1851年)の時点で既に
彼を主人公とする歌舞伎『東山桜荘子』が
中村座により上演されたという記録があり、
事件から約200年後には、彼にまつわる物語が
少なくとも一つ存在した事実が確認できる。
明治以降にも惣五郎歌舞伎は上演され、
自由民権運動時代や戦後の混乱期にも
惣五郎の物語は様々に編まれてきた。

こんな具合に数百年スケールの時間の経過は、
ある歴史上の事件を風化させ、遠い忘却の彼方へ
追いやってしまうことがある一方、
各時代の世情や民心を事件のうえに投影させ、
全く新しい物語を紡ぎ出す場合もあるものらしい。
勿論これは佐倉惣五郎に限ったことではない。
源義経や豊臣秀吉や宮本武蔵をはじめとして、
小説、映画、TVドラマ、コミック、ゲームなど
表現のバリエーションや登場頻度が増すに連れて
オリジナルの実像から不覊奔放に遊離し、
より多数の人間の願望や憧憬を反映した物語へと
姿を変えている蓋然性は高いように思われる。

ネットやケータイなど新しい媒体の登場によって
一般人の自己表現の場も急増した。とはいえ
<元になった事件の発生→伝説の形成>
のサイクルは急速に縮小する傾向にある。また、
個人の嗜好やライフスタイルの多様化も
伝説の寿命の短縮化の要因になっているようだ。
物語は多チャンネルで大量生産されても、
佐倉惣五郎のような息の長い伝説は
もはや生まれない時代なのかもしれない。


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