本稿でも“蝶”が登場する。三ヶ月前であったか、
いまにも歩行者に踏み潰されそうに路上を彷徨う
一匹の蝶の幼虫を脇の茂みへ移してやった。
程なくして休日の旅の道々で、鮮やかな蝶が
何処からともなく視界の内に飛び入ってきては、
∞(無限)の文字を緩やかに描いて舞ったのち
何処へともなく飛び去るのを幾度か目にした。
「無事に羽化登仙し、天与の生を謳歌した」
あの蝶は健気にそれを知らせに来たのであろう。
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仮想空間と現実世界を行きつ戻りつした一年間。
そんな中、あながち誇大妄想とも思われない感覚を
一度だけ味わったことがある。それは・・・
この現実世界そのものも、じつは何者かが或る目的で
創造した仮想空間もしくはシミュレーションのような
ものではないかという、映画『マトリックス』を彷彿
とさせる悪夢じみた妄想である。
現世の人間はすべからく肉体というアバターに過ぎず、
本体はこの世の外に存在し、自身 . . . 本文を読む
昔、荘子は、自分が蝶になってあちこち幸せに
飛んでいる夢を見た。
人生を楽しむあまり、自分が何者か忘れていた。
突然目覚めて、自分は荘子であることを知った。
私が蝶になったのか、蝶が私になったのか。
『荘子』胡蝶の夢より
グーグル社の運営するメタバース(3D仮想空間)
「Lively」が閉鎖されることになったらしい。
今年7月のベータ版公開から半年間でのサー . . . 本文を読む
過ぎにし夏、伊豆の海で一塊の魚群を見掛けた。
波打ち際から離れた地点、その沖津磐座の傍ら、
宙空より射し込める陽光に魚鱗を閃かせつつ
水面近くを蛇行する緩急自在の動きを
興味深く見守っていたことがある。
学者の語るところによれば、
魚類や鳥獣や昆虫の類いは
個体ごとではなく集団で意識を共有するという。
なるほど潮風に舞う海鳥の群れは
苦もなく一斉に行く手を転回して
右顧左眄する風情を示すことはなく . . . 本文を読む
週末、府中へ向かう途路、
中央線と武蔵野線の行き交う駅で
乗り換えの電車を待っていた。
行楽日和の休日にしては妙に閑散としている。
プラットホームの背後は手入れもそこそこに
群草がほしいままに生い茂り、
いま己が立つは廃線の駅かと想わせる。
その一画ではすすきの穂が高々と群れ伸び、
微風に相槌を打つように揺れていた。
陽が傾きつつある秋の空は甚だ平板で、
やや表情に乏しい水彩画のようである。
草 . . . 本文を読む