今日は出産の話をしようと思う。
というのは、よく夢に見るんである。
つい最近も生々しく見たばかりなので。
といっても夢の中では私は、出産はするんだが痛みを感じない。
生々しいというのは、夢なのに
「ああ・・・また一人増えておむつだミルクだとイチからやり直しか。」
「そもそも金がない」
「猫をこれ以上増やせない」
といった夢のないことを思っている自分である。
女というのはとかく出産を武勇伝のように語ってしまう。
そのくせ、その痛みがどのようなものであったか詳しく説明してみよ、と言われたらどうだろう。
「もうね・・・とにかく痛いのよ!」
「なんていうか波があって・・・こう・・・ワーーーッッと!!」
あげくに
「とにかく鼻からスイカを出すの!」
とか未経験者や男性にはまったく分からない説明しか言えない。
それはそうであろう。
たぶん、よく覚えていないのだ。
私がそうだ。
上の二人は双子で陣痛も知らぬまま帝王切開だったが、7年後に私はようやく通常の出産をすることになる。
体重を増やしすぎた点意外は順調に予定日を迎え、2日ほど過ぎたところで少量の破水があり、そのまま入院し陣痛を待つことになった。
色々と事情があって上の二人をダンナに託し、母に主に立会いを前もって頼んであった。
入院の手続きがちょうど昼すぎくらいであったか。
お腹の張りが一定間隔になったな、以外は特に痛みは感じず、
「今のうちに食べておいた方がいいよ」
と言われ、サンドイッチをモシャモシャ食べた。
サッカーのワールドカップの試合を見ながら、未知なる痛みにいささか緊張気味であった。
夕方4時くらいになって、なんとなく「痛み」と呼べるようなものが襲いだした。
痛みの質は違うのだが、
「朝に飲んだ牛乳が賞味期限切れてたんじゃないか、と疑い始める1時間目」
という感じである。
お腹につけている装置のモニターを見て、看護師さんが
「陣痛ついてきましたね。」
と言った。
ふうんこれが。
さっ、用意していたメタルを聴こうっと。
ズドドドドドド ドダダダダダダ バーラッ!バーラーッ!ダダダダダダ!!!!
胎教?なにそれ。
妊娠初期からデスメタルだけど。
いつの間にか私は眠ってしまったらしい。
と、強烈な鈍い痛みに目が覚める。
耳からイヤホンが外れ、爆音で聴いていた音がこぼれる。
うおっビックリした!痛い!
しかし、ちょっとしたら治まってしまった。
まだいけそうな気がする・・
次の休み時間でトイレに行ってみようと思う2時間目。
この時間になり、今日は出産ラッシュらしくたぶん5部屋くらいあるカーテンで仕切られた陣痛室に続々と産婦さんが入ってきた。
今までイヤホンしてたから気付かなかったけど、隣の部屋の人はかなり痛みが進んでいるようである。
ご主人と思われる人の声と、小さな女の子の声が聞こえる。
「ホラ、赤ちゃんも苦しいからね、頑張ろう。」
「ままー、がんばれー」
「ウン・・・イタ、イタ、イタ、あーー・・・・・」
・・・なんだか不安になってきた。本当にあんなに痛いのか。
「う”あ”あ”あ”ーーーーッッ!!!う”ぼえ”え”え”ーッッ!!!」
隣の隣から断末魔の叫び声。
こ、コワイ・・・。
CD止めてるのにデス声が聴こえる。
私もなんかだんだんせり上がる何かが襲ってきた。
それは、「痛み」というよりは「衝動」である。
出さねばならぬ。しかし今は出せない3時間目まっ最中。
ああなぜ2時間目休みに行っておかなかった。
「この時に呼吸法をやるのよ、ほら落ち着いて痛みを逃しましょう」
いわゆるヒッヒッフーである。
ちなみにこのヒッヒッフーというのはあくまでも一例で、陣痛の進行度によって
ヒッヒッフー・・・ウンだのヒーーフーーだのハッハッハッだの色んなバージョンがある。
ちなみに今はウンの部分で痛みを逃すらしい。
まったく意味がわからない。
「・・・ウン」くらいで逃せるとは全然思えない。
腹が痛いので出します、という理屈は覆される。
もちろん分かっていたことだが、この出したい衝動を、赤ん坊の頭が通れる10センチくらいまで、子宮口が開かなきゃなにがなんでも抑えなきゃいけない。
「せんせー!おなかが痛いのでトイレに行きたいです!」
と言ったら
「今は授業中です。休み時間にしなさい」
と言われたようなもの。
そのミッション、あなたにできますか。
それとも人間やめますか。
「で・・・今は何センチくらいでしょうか・・・」
とおずおず聞くと、ごそごそと内診をしてくれ、
「うーん、3センチ★」
ガーン!さ、さんせんち・・・。休み時間、はるか先。
この時点で夜7時。
うおっっキタキタキタ!!!ふーっふーっふぅーーどこまでやった、ふいーっうおおおおおおおうぐぐうヒヒヒヒふぇーーーーうおおおおお
というようにあれだけ練習した呼吸法が全くできないほど痛みがキツくなってきた。
と思うと、ウソのようにパッと消える。
その痛みが消える時間、私は寝ていた。
ガクッと眠りに落ちるのだ。
で、また
うおおおおおお
と目が覚める。
その間、なぜかずっとQUEENのBohemian Rhapsodyをリピートで聴いていた。
ママミアママミアー♪のところが定期的に最もツライ。
最後のドラが聴こえるとガクッとなる。
今にして思うが、あの曲は抑揚の感じとか変調とかまさに陣痛時に似ている。
「ママーー!!」と泣いて叫びたくなる。
夜9時、私のママがやってきた。
来るなり様子を見て、
「こりゃ夜中だな」
と言い放った。
こんなにボロボロなのに一刀両断。
このあたりから、私は意識が朦朧とし始める。
陣痛の間隔が短くなり、体の内部から得も言われぬ強い衝動が湧き上がる。
「まだ力入れちゃダメ!!逃して、逃して!呼吸法!」
逃すってなんすかソレ!ヒィーヒィーフオオオオオオオオオ!!
無意識に横の簡易物置のタオルかけを掴んで引っ張り、壊しそうになる。
ママミアママミア~♪
その後に訪れる僅かな休息は、完全に意識外。
で、またガバアと起きる。
とにかく10センチにならないうちに衝動にまかせていきんでしまったら、赤ん坊が窒息してしまう。
「今何センチですかああああ」
「ウン、8センチ★」
ちきしょおおおおおおお
というか恐ろしいことに、この時看護師さんの手が入ってたと思うんだけど全然感覚がなかった。
人体ってフシギ。
そろそろフレディ・マーキュリーの声も限界になってきた。
分娩室から、ドラマのように赤ん坊の泣き声が聞こえる。
別に感動しない。
いいなあ!いいなあ!終わっていいなああ!
羨ましさだけだ。
そろそろ人間やめるかも、と思い始めた4時間目、もとい午前2時。
「そろそろ分娩室に行きましょう」と看護師さん。
あなたは神様ですか?
「歩ける?」
歩くとも!サツキとメイのように歩きますよ、分娩室に行けるなら!
分娩室=休み時間
さっきから出すな出すな言われていたものを、やっと出せる時が来ましたよ、と。
幸い私はここからがすごく早く、たぶんいきんだのは5、6回くらいじゃなかったかと思う。
娘はへその緒が首に絡まって少し酸欠を起こし、生まれるなりすぐに小児科に行ってしまったため、泣き声も聞けなかったが、すぐに「元気になったから安心して」と連絡が入った。
そこで初めて私は、我にかえった。
ちょっとどうかと思うが、医師がちくちくと縫っているので、
「器用ですね・・・(ていうかいつ切ったんだろ)」
などと話しかけてみたりした。
今思い返してみるとすごく思うのは、出産の時には痛みを和らげようとするホルモン、安心感を感じるホルモンなど、女性の体の内部からはさながら麻薬のようなものが分泌されるというが、私の場合はそれをハッキリと感じることができた。
出産時の痛さを、どう表していいかわからない、よく覚えてないというのはまさにこのホルモンの成せる技。
自然の摂理、生き物の生理とは、本当によくできている。
当たり前だけど、当たり前ではない。
自分がそれをできたことに、静かに感謝するのみだ。
痛みが想像できず怖い。と思われている妊婦さん。
大丈夫。なんとかなります。
立ち会い出産をされる予定のご主人方。
奥様は非常にイライラしていたりあるいは罵声を浴びせられたりするかもしれませんが、すべてホルモンのせいです。必ずもとの優しい奥様に戻りますので、気を確かに持って下さい。
最後に、この日記を書くにあたり、
「出産 ホルモン」
でググっていたところ、
「マキシマムザホルモンのナオちゃん無事出産」
というニュースが一番先にヒットしました。
おめでとうございます。
出産時の嫁さんの言動は別人。
生まれて一時間後に再開したら母になってて焦ったのも事実。
あーそうそう。思い出したわ。分娩室行く直前に本格的に破水して、「なんか出ーたーっ」て叫んだわ。
>はりーさん
でしょ?ホルモンの神秘。私は普段から悪妻だからアレだけど。
まあ、なんとかなる。
>まりおんさん
トラウマがおありになるようで…ホルモンですよ、ホルモン。