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「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

人体の連続性と滑らかさを調べる 1

2016-05-08 15:17:40 | 症例から考える

数学書を読んでいて、ふと気づいたことがある。

数学の定理は全て「こういう条件が満たさされれば、こういうことが成り立つ」という形で述べられている。そして、その「こういう条件」というのは多くの場合、ごく一般的な普通の状態で満たされていることが期待されるものである。

つまり、数学の定理とは「自然界の一般的な状態の下では、当然こういうこと(こういう性質、こういう動作)が可能なはずだよね」ということを言っているわけだ。

そして、この世界は数学的基盤の上に物理と化学が乗り、その物理的、化学的基盤の上に生物学、解剖学、生理学、生化学などが乗っている構造になっている。である以上、その根底にある数学的基盤において「自然に満たされているはず」の条件が満たされなくなったとしたら、その影響は当然、上部構造全てに及ぶことになる。

では、さまざまな数学の定理の中の条件で最も一般的で最も本質的なものは何か?と考えると、それは連続性、次いで滑らかさ(=微分可能性)ではないかと思う。もちろん、特に代数学の中には、連続性や可微分性を仮定しない定理も数多くあるが、それを解析学や幾何学に持ち込んで使おうとすると、どうしても連続性や可微分性を仮定せざるを得なくなる。

また、連続性や滑らかさが満たされていることはある意味、最低条件であって、「それが満たされていれば、もう何の問題もない」などということは全くない。けれども、その最低条件すら満たされていないとしたら、その上に何を積み上げても用をなさない。

…と、そんなふうに考えて、臨床の中で「まず、連続性や滑らかさが満たされているか」、逆にうと「連続性や滑らかさが満たされていない部分があるか」を調べることにした。

で、今回はそのうちの「連続性」について更に詳しく述べよう。

治療云々といったこととは全く無関係に、連続性は数学の非常に重要なテーマの1つだ。連続かどうかで成り立つものがガラリと変わってしまうので、関数や図形(注:実は関数と図形とは同じものだが、ここではあまりそういった厳密性にはこだわらない)が連続かどうかは常に問題にされる。

ところで、では「連続」とは何だろう? 感覚的には見た目がつながっていれば「連続」ということになるが、神ならぬ人の目には全てが一望のもとに見渡せるわけではない。それに、治療で言えば「体内の○○反応の連続性」のように、それ自体が連続であるかどうか具体的に目に見えないものについては?

そこで数学では「連続であること」をギリシア文字のε(イプシロン)とδ(デルタ)を用いて以下のように定義する(ここでは簡単のために、ごく一般的な2次元の(x, y)空間で定義された関数y = f(x)についての連続性の定義を述べる)。

関数y = f(x)が点(a, f(a))において連続であるとは、任意の正の数εに対して、ある正の数δが、|x - a| < δを満たす任意のxが必ず|f(x) - f(a)| < εを満たすように取れることを言う。


これだと長いので、数学記号を使って書き直すと

∀ε> 0, ∃δ> 0 s.t. ∀xに対して|x - a| < δ⇒|f(x) - f(a)| < ε

となる。なお、∀は「任意の」、∃は「ある…が存在する」、⇒は「ならば」を表す記号、そしてs.t.はsuch thatの略である。

これが、高校まで数学自慢で大学の数学科に入ってきた学生が、1年の春にコレの洗礼を受けて一気に数学が嫌いになる人間が出てしまうという、“悪名高い”ε-δ論法というヤツだ。だから、あなたが初めてこれを見てわからなくても、ガッカリする必要はない。

ただ言っていることは、「連続な関数なら確かにそうなるよね」という極めて真っ当なことなのだ。

関数y = f(x)のグラフが連続である(つまり、途中でブツ切れになっていない)としたら、f(a)を中心にどんな小さな距離εを取ったとしても、それに対抗して距離δを取ってきて、aからの距離がδ未満の位置にあるxは全部、f(x)がf(a)からの距離をε未満にすることができる、ということなのだから。

例えば、f(x) = 0 (x < 0の時), =1 (x≧0の時)とすると、この関数は点(0, 1)では連続でない。なぜならεとして1/2を取ると、どんなふうにδを取ってきても「|x - 0| < δとなるどんなxでも|f(x) - 1| < εが成り立つ」ようにはできないからだ(δをどう取ってもxが負の数の時は、|f(x) - 1| = |0 - 1| = 1となって、|f(x) - 1| < εは満たせない)。同じようなことが他の不連続関数に対しても言える。

この連続性の定義は、距離といった概念が存在しない抽象的な位相空間にまで形を変えながら出てくる、数学においては非常に基本的なものだ。当然、本来は連続であるべきものの連続性が失われると、数学的に成立するはずのさまざまな性質、状態、動作が成り立たなくなり、その影響は上部構造全てに及ぶ。なので、それを調べておくことには価値があるのだ。

調べ方は、上記の連続性の定義が成り立っているかどうかをキネシオロジー的に筋反射テストで調べればよい。

ただし、上の定義はごく一般的なユークリッド空間におけるものなので、十分性に欠けるかもしれないことはご容赦願いたい(もっと抽象的な空間での連続性の定義は、例えば位相空間論の本を見てほしい)。また、必ずしも定義の意味がわかっていなくても結果は出るが、意味がわかっていた方がいいことは言うまでもない。

続く「2」では滑らかさ(=微分可能性)を取り上げる予定。


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