面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ

日本語と英語の慣用句やことわざには、表現や発想がよく似たものがある。
たとえの面白さをいろいろな角度からながめる。

面白い日本語と英語の慣用句(イディオム)とことわざ

2007年10月04日 | 日本語の慣用句、英語の慣用句
 約600〜700万年前に地球上に人類が誕生し、やがて言葉を使うようになる。はじめは「好き」、「嫌い」、「寝る」、「起きる」など単純で、直接的な表現だったと考えられる。しかし、やがて人間は間接的な表現を使い始める。いわゆる比喩表現(たとえ)である。日本語であつかましいことを「心臓に毛が生えている」という。ある日、誰かが「あつかましい」というかわりに「心臓に毛が生えている」という表現を使ったはずである。それがどのように世の中に広がっていったのかを考えると非常に興味深いものがある。この慣用句を使うとき、心臓に毛が生えた姿を想像する人はいないと思われる。日頃何の気なく使っている慣用句は奇抜さと誇張に満ちた表現の宝庫である。慣用句やことわざは日本語だけでなく、色々な言語でそれぞれ独自に育まれてきた。同じ意味を持つ比喩表現が言語により全く同じ表現であったり、よく似ていたり、表現は異なるが発想に類似点が見られたり、表現も発想もまったく違っていたりとさまざまである。ここでは言語として「日本語」と「英語」を取り上げ、たとえの面白さをいろいろな角度から眺めて見たい。慣用句やことわざの他に一部口語表現も含める。英語の慣用句やことわざとして選択したものは、主としてアメリカ英語である。

 1 日本語と英語の表現はほとんど同じであるが、意味が異なる例

 (1) 足を引っ張る pull someone's leg

 「pull someone's leg」を直訳すると「脚を引っ張る」となり、日本語の慣用句「足を引っ張る」とほとんど同じ表現である。しかし、「足を引っ張る」が「人の出世や成功の邪魔をする」に対し、「pull someone's leg」は「からかう」と意味はまったく異なる。これまでに見つけた「表現がほとんど同じで、意味が全く異なる日本語と英語の慣用句」はこの一組だけである。

 2 日本語と英語の意味はほぼ同じで、かつ、表現がまったく同じである例

 ほぼ同じ意をもち、表現がまったく同じである日本語と英語の慣用句やことわざは非常に多い。以下に数例を示す。詳しくは拙著「よく似た英語と日本語の慣用句集」(文芸館)を参照されたい。

 (1) 財布のひもを握る hold the purse strings

 「金の出入りを管理する」ことを全く同じ表現でたとえている。「財布のヒモ」まで一致しているのは驚きである。「財布のヒモを締める」には「tighten the purse strings」が当たる。

 (2) 神のみぞ知る God only knows

 両者は全く同じ表現である。「神だけが知っている」とは、裏返せば「神ならぬ身の知る由もない」、つまり「誰も知らない」ということである。「お釈迦様でもご存じない」のである。

 (3) 顔に書いてある be written on someone’s face

 「隠そうとしていることが表情からはっきりとうかがえる」ことを「顔に書いてある」とたとえた表現がうそのように一致している。

 (4) 記録を破る break the record

 両者は全く同じ表現である。

 (5) 〜のカギを握る hold the key to something

 両者は全く同じ表現である。「カギ」、「key」のいずれも「問題解決のために必要な事がら」を意味する。英語の方は主として「(犯罪・事件などの)カギを握る」という場合によく使う。

 3 日本語と英語の意味はほぼ同じであるが、表現の一部が異なる例

 ほぼ同じ意をもち、表現の一部が異なる日本語と英語の慣用句やことわざもやはり非常に多い。以下に数例を示す。

 (1) 犬猿の仲 on cat-and-dog terms

 表現はほとんど同じであるが、「仲の悪い」ことを日本語は「犬と猿」で、英語は「猫と犬」でたとえている点がわずかに異なる。

 (2) 棺桶に片足を突っ込んでいる have one foot in the grave

 「いつ死ぬかわからない状態」を日本語は「棺桶」に、英語は「墓」に片足を入れているとしている。「棺桶」と「墓」のわずかな違いがある。

 (3) 首を突っ込む poke one’s nose into [in] something

 両者とも「他人の問題に干渉する」ことを「対象物の中に体の部分を突き出す」という表現でたとえている。体の部分として日本語では「首」、英語では「鼻」が選ばれている。

 (4) 席をはずしている away from one's desk

 どちらも「いつも座っている場所にいない」ことを意味する。いつも座っている場所を日本語は「席」で、英語は「デスク」でたとえている点で少し異なる。

 (5) 将棋倒し fall like dominoes

 ドミノはイタリヤで始まった西洋カルタの一種。立てて並べた象牙の小札が一つ倒れると、それにつれて全部が倒れることから。会社が「連鎖倒産する」などの比喩的な意にも使える。「ドミノ」と「将棋」の違いを除けば、同じ発想の表現である。

 4 日本語と英語の意味はほぼ同じで、表現はまったく異なるが、発想に類似点がある例

 ほぼ同じ意をもち、表現は異なるが、発想に類似点がある日本語と英語の慣用句も比較的多い。以下に数例を示す。

 (1) 坊主憎けりゃ袈裟まで憎い Love me, love my dog.

 英語の「私が好きなら、私にかかわるすべてを好きになって」と日本語の「その人が憎いとその人に関係するすべてが憎くなる」は裏返しの表現になっているが、発想は類似している。

 (2) 目くそ、鼻くそを笑う.  The pot calls the kettle black.

 見出しの英語のように主語+動詞の形式で使われることはほとんどなく、「the pot calling the kettle black」や「like the pot calling the kettle black」のように動名詞を使って表すのが一般的である。日本語は「目くそ」と「鼻くそ」、英語は「黒くなった鍋」と「黒くなったヤカン」を使って「自分のことを棚に上げて、他人を批判する」ことをたとえている。「汚いものが汚いものを非難する」という発想に共通点か見られる。

 (3) シラミつぶしに調べる search with a fine-toothed comb

 「search with a fine-toothed comb」は「目の細かい櫛ですいてシラミやノミを取り除く」の意から。くまなく調べることのたとえとして、両者が「シラミ」を想起したことは驚きである。

 5 日本語と英語の意味はほぼ同じであるが、表現も発想も異なる例

 (1) 無用の長物 white elephant

 「無用の長物」は「場所を取るばかりで、用をなさない無駄なもの」の意。一方、「white elephant」は次のような故事に由来する。昔、タイなどでは「白象」が神聖視され、その飼育に非常に金がかかった。そのため王様が嫌いな家来に与え、嫌がらせにするのに使われた。これより、「あっても役に立たず、かえって邪魔になるもの」のたとえたして使われるようになった。両者の表現も発想もまったく異なる。

 (2) 歯に衣着せぬ call a spade a spade

 「歯に衣着せぬ」は「余計な遠慮せずに思ったことを率直に言う」の意。「call a spade a spade」の直訳は「スペードをスペードと呼ぶ」である。「spade」は通例幅広い刃のついたシャベル状の農具で、足で押して土を掘るのに用いる。スペードを他の呼び方でなくずばりスペードと呼ぶことで「あからさまに言うこと」をたとえている。両者の表現も発想もまったく異なる。

 (3) 虫も殺さぬ butter wouldn’t melt in one’s mouth

 「虫も殺さぬ」は殺生などできないような非常にやさしくて穏やかな顔のさま」をたとえている。実はひどいことをするというような場合に使うことが多い。一方、「butter wouldn’t melt in one’s mouth」も「誠実そうな顔をしている」の意で、通例見かけと違うという含みで用いる。おそらくもの静かでおとなしい人間は体温が低くて、バターでさえ口に入れても溶けないと考えられたことから。両者の表現も発想も異なる。

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2 コメント

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はじめまして (usausa)
2007-12-02 06:47:59
面白い表現が沢山ありますね。今後も楽しみにしています
類似表現に興味あります (corpusfukuoka)
2008-04-28 02:21:26
既に取り上げられているかもしれませんが・・。
最近ヒラリー・クリントンがオバマを下した選挙で言ってました。
”Tide is changing!"
”潮目が変わる”ってことですよね

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