2013年3月23日、南九州の第3セクター鉄道「肥薩おれんじ鉄道」に、新たなる観光列車が走り始めました。
その名は、「おれんじ食堂」。工業デザイナー・水戸岡鋭治氏のデザインによる観光列車…といえば、JRの観光列車ではすでにお馴染みですが、この列車のコンセプトは大きく異なります。調理室こそないものの、沿線とタイアップして本格的な食事を提供する、限りなく「食堂車」に近い列車です。このような列車が生まれた背景からは、おれんじ鉄道の挑戦と覚悟も垣間見えます。
話題性充分の列車ながら、運行開始当初はマスコミへの露出は少なく、前例もない列車だけに成功するかはなんとも未知数。ぜひ実際に乗って、「体験」したい列車の一つでした。
そこでGW前半戦の中日。職場の仲間5人とともに、満を持して走り出した西海岸のグルメ列車を体験してきました。
おれんじ食堂は、JR線を1駅乗り入れた新八代駅が始発駅です。新幹線との連携も視野に、福岡、関西方面からでも便利な駅が出発地として選ばれました。狭いホームには、期待に胸ふくらませた乗客であふれていました。
はやる気持ちを抑えながら、車内へ入ります。こちらが、僕らの乗車した2号車の海側の「座席」。しっかりしたテーブルに、スマートな椅子がしつらえられた車内は、カフェのような装いです。
山側の座席は、ゆったりしたソファ席。海への眺めは遠いかわりに、ゆったりとくつろげます。
カーテンを引けば、個室のような落ち着きも…
発車するとさっそく、おしぼりのサービスが。布製の、温かいおしぼりが嬉しいです。
各席には、ペットボトルのミネラルウォーターが置かれています。雰囲気に合わせるなら、ペットボトルよりガラスの水差しが合いそうだなと思いますが、使い勝手重視かな?
八代駅を出発しておれんじ鉄道に入ると、さっそく絶景の区間に差し掛かります。おだやかな不知火(しらぬい)の海です。
青い背景に、ドアに記されたロゴが映えます。
景色が良くなってきたところで、コーヒーをオーダー。コースターはゴムでできていて、すべり止めの役割も。コーヒーメーカーで淹れた普通のドリップコーヒーではありますが、絶景のおかげで、どこのカフェにも勝る味に感じます。
肥薩おれんじ鉄道がJR鹿児島本線だった頃、特急「つばめ」のビュッフェで味わうコーヒーも格別でしたが、さらにグレードアップしました。
忙しそうな乗務員さんをわずらわせたくなければ、セルフでコーヒーを貰うこともできます。揺れる車内での持ち運びには注意!お代わりは、駅の停車中がよいかもしれません。
よくばりに、フレッシュジュースも注文。デコポンをジューサーで絞った、絞たてのジュースです。つぶつぶも残り、これがまた美味しいのなんの。
このジュースも、道中ではフリードリンクとして楽しめます。2号車の指定席料金は1,400円と、指定券としてはかなりの値段ですが、ゆったりした座席や、ジュースやコーヒーのサービスまで考えれば、お値打ちとも感じられます。
一方の1号車は、解放感のある内装です。大人数で楽しむには、こちらが楽しそう。
2号車と大きく違うのは料金で、全区間の乗車に食事、各駅での「駅マルシェ」でのお土産も含めたパッケージ料金になっています。昼間の列車は12,800円、夜の列車は14,600円と、高級レストラン並みのお値段です。
JR九州の観光列車は「特急」と銘打っているものの、特定料金の500~1,000円の追加で乗れるものが多いです。沿線の観光バスをからめた割引きっぷがある列車もあり、豪華な内装とも相まって、お値ごろ感があります。
ただこれも、アクセスに新幹線を使ってもらうことで、トータルでペイすればいいという考え方があればこそ。一方で「独立採算」のおれんじ鉄道では、列車単体で稼ぐことが条件になります。高い料金の代わりに、JR九州をも上回る手厚いサービスを提供することで勝負しようという戦略が伺えます。
2003年の新幹線開業後、地元に委ねられた おれんじ鉄道は、慢性的な乗客減と赤字に悩まされてきました。各地の「並行在来線」会社も同様で、各社とも模索が続けられています。
その中でも「おれんじ食堂」は、観光に特化した挑戦と言えそうです。
なお2号車では、オプションとして4,500円の追加で食事を付けることもできます。また各種割引きっぷと組み合わせての利用も可能。僕らも、1回当たり3,500円で九州内の全鉄道の普通列車乗り放題になる、「旅名人の九州満喫きっぷ」を使って来ました。
福岡からの交通費に、食事も含めて9,400円。片道は普通列車になりますが、目下、一番安く「おれんじ食堂」を楽しめる方法です。その分、おれんじ鉄道の売り上げへの貢献は少ないかったかも!
1号車には、食事の準備と飲み物やグッズの販売を行うバーカウンターが。ビールやワインだけでなく、土地柄から焼酎を各種取り揃えていて、大人の雰囲気があります。結婚式明けの二日酔いじゃなければ、いろいろ飲んだだろうな(笑)。
ちなみにこの日は、TBS「朝ズバ」の取材チームが入っていて、3時間の間ずっと取材に奔走されていました。実際のオンエアは2分程度だったのに、ご苦労さまです。
僕もインタビューを受けて、ディレクター氏の誘導通りにコメントしたら、見事オンエアとなりました。列車の雰囲気に合った乗客とは思えないんだけど(笑)。
トンネル内での2号車。海岸線を走っている時の雰囲気とは、またぐっと変わります。夕暮れから、夜にかけて走る列車も良さそう。アルコールの味もひとしおでしょう。
では子どもが退屈な列車かといえば、さすがは水戸岡トレイン。最前部と最後部には、お子様用の展望シートがしつらえてあります。連休中とあって子どもの乗客もあり、このシートは気に入ったようです。客室乗務員と遊んでもらいながら、3時間の間、終始ゴキゲンでした。
ちなみに大人はとても座れない寸法に作ってあり、「大きなお友達」としては子どもが羨ましかったです。
▽続く