原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

論文の壁(論文の段階)

2011-10-25 | 勉強法全般
短答の壁というか,ステップアップへの段階はかつて書いたところですが,今日はその論文版を書いてみようと思います。各段階と,その処方箋を少し。

<ステップ1>法律論文の体裁をみたさない

答練の採点をしていると,1割くらいはこういった答案がでてきます。比喩的に言うと,「作文」「大学入試小論文」的な答案です。要するに,法的三段論法を遵守できていなかったり,論理性に欠く(印象・感覚的結論を導く)答案です。法的三段論法を遵守できていないとは,規範を提示せず裸の利益衡量をしている,抽象論(≒規範)と具体論(≒あてはめ)が区別できていない,などの答案です。

この段階においては,まずは法的三段論法について勉強して,そして,法律論文として成立している答案を写経してみるのが適切な処方箋のように思います。

なお,この段階に属する答案で,判例・裁判例の書き方を模倣しているかのごとき答案がありますが,判例・裁判例は答案のモデルではないので注意が必要です。

<ステップ2>何を書いていいかわからない,大枠をはずす

法的三段論法については理解して,法律答案とはどんなものかがわかって,次にくる時期です。答練の採点をしていて,これもよく見るタイプの答案です。採点項目から大きく外れたことを書いてしまう,というものです。この段階の答案の一つの特徴として,条文に触れないということが挙げられます。添削で「しっかりと条文の引用を」などと書かれていたら,この段階だと思ってよいでしょう。

原因の一つは,端的に言って,知識不足です。条文知識がないために,間違った条文の問題にしてしまう,あるいは,問題の所在に気付けない。また,別の原因として(知識不足に含まれるのですが),点(≒結論)を追いかける勉強をしてしまったばかりに,知識が使える形で入っていない,ということも考えられます。この典型が,論証パターン暗記的な学習に尽きてしまっているタイプの受験生です。問題発見能力がないのですね。また,当該問題で参考とすべき判例があっても,その判例の結論しか頭に入っていないために,その判例の事例に引き付けて考えることができない,ということもあります。

この段階においては,もう一度,基本書に戻って知識を補充する必要があります。いわゆる論点(「論点」思考にならないためにあまりこの言葉を使いたくないのですが)につき,なぜその論点があるのか(問題の所在),判例の位置付けと事案の概要,などについて正確に押さえなくてはいけません。この部分は,短答対策と並行して行っていくべき部分です。

<ステップ3>書くべき点(≒論点)は捉えられているが,その記述が不正確・誤り

答練の採点をしていると,このタイプの答案が山のように出てきます。出題趣旨でも繰り返し「お説教」されている点です。超重要判例の規範が正確に出てこない。また,ひどい場合は,完全に誤っている場合もあります。目的効果基準,処分性の定義,民法94Ⅱの第三者の意義…,挙げたらきりがないのですが,こういったところが覚束ないと,採点者としては答案全体に「不信感」を抱くようになってしまうものです。

処方箋は簡単で,反復して身体に染みこませることに尽きます。通常は,上塗りしていく中で自然にクリアしていくのですが,答案を書かない(あるいは構成しかしない),詰めの甘い勉強をしていると,ここで長期間留まる場合があります。

このステップ3をクリアしないと,合格の可能性は「ない」と言えます。ここをクリアすると,(大きくはないが)合格の「可能性」が出てきます。

<ステップ4>規範は正確に出てくるが(また,他に知識の部分で誤りはない・少ないが),あてはめで点が付かない

採点をしていると既修者答案に多くあるタイプです。既修者が不合格になる場合は,これが要因になるケースが多いのではないかと思います。

原因ですが,骨太な理解ができていない,表面的記憶に尽きる勉強をしている,要するに「ちゃんと法律がわかっていない」ということではないかと思います。単純な例でいうと,例えば,殺意の検討について,殺意とは「死の危険を発生させる現実的危険性ある行為を行うことの認識」とはわかっていても,それが「実行行為時」に要求されるということをわかっていないような答案です。犯行計画を練っている段階では殺すつもりはない事案で,しかし,実行行為時にはそれが認められるような場合,犯行計画を練る段階の行為者の主観を検討してしまうんですね。そこを検討するのではないのです。行為時にどうだったか,そこが問題なのです(犯行計画時の意図も,殺意の有無を推認する間接事実にはなるのですが)。

この処方箋が実は結構難しく,一番いいのは,他者(合格者以上が望ましい)に指摘してもらうことです。その意味で,答練で添削を受けることを重ねていくのが最善です。私も,結構,この手の指摘をしました。

ここをクリアできると,合格可能性は高まるように思います。

<ステップ5>法解釈能力(≒問題発見・規範定立能力)と事実認定能力(≒あてはめの力)はあるが,出題趣旨で指摘されるような事案の特殊性を捉えられない

本試験で60点以上が付く答案は,程度の差こそあれ,これができる答案です。今年の憲法の答案で言うと,X社の表現行為には自己統治の価値はなく自己実現の価値も希薄である,などを具体的事例に即した分析ができる答案です。言われれば「そうだよねぇ」というところを,本試験でズバッと言える答案です。

これができるようになるには,まずは,骨太な法解釈能力(制度・制度趣旨の深い理解など)や,基本的事例(判例のケース・教科書事例)の確固たる理解と目の前の事案をそれと比較する能力,といったあたりが必要です。

以上,今,思うところをざっと書きました。後日,また加えて思うところがあれば書きます。<ステップ5>までクリアできれば合格は間違いないとは言えると思います。より突っ込んで言うと,<ステップ5>をクリアしていると上位合格,<ステップ4>までクリアしていれば何とか合格圏に滑り込み,<ステップ3>をクリアできないと合格は望めない,こんなところではないかと思います。

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9 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (子持ち既卒)
2011-10-26 23:48:09
原先生へ
詳細な論文の5段階についてお示し頂きありがとうございます。少しイメージがわいて来ましたが、これでいくと
私の場合はまだ短答がぐらぐらしているので、ステップ2の段階かもしれません。
短答は280点、論文は1000番で合格を目差していますが、まだスタートしたばかりで不安はつきません。ただ、スタ論公法系は先日憲法でたまたま54点とれて、やれば出来るかもと思い、この調子で行きたいと思います。ただ週末からの民事系が心配なので、とりあえずえんしゅう本と写経を続けて準備したいと思います。

取り急ぎお礼のみで失礼します。
また後日ご相談させてください。宜しくお願いします。

 
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Unknown (はら)
2011-10-27 22:45:40
良い目標設定だと思います。スタ論は,本試験と同じように,平均点が45点くらいになるような仕掛けになっていて,採点者的な立場からしても,54点を付ける場合,相対的に見て良好な水準であると判断されたはずです。そのあたりをキープできるようになれば,本試験でも目標に到達できるようになるはずです。

民事は,一度,打ちのめされるかもしれませんが,そこでどうするかが大切です。しっかりと足元を固めることが一番大事です。

ご相談は,いつでもどうぞ。それでは。
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Unknown (ロースクール生)
2011-10-29 17:21:35
都内某ロースクール未修1年の者です。
いつも非常に参考になる記事を掲載していただいて、大変勉強になります。

質問よろしいでしょうか。

>なお,この段階に属する答案で,判例・裁判例の書き方を模倣しているかのごとき答案がありますが,判例・裁判例は答案のモデルではないので注意が必要です。

ということなのですが、僕は判例を大事にしようと常々心がけていて、判例がどのような論理展開で、どのような理由付けで事案を解決しているかをきちんと理解して再現できるようになろうと意識しています。
そして、問題演習の際も、あの判例に似ているなと思うときは、できるだけその判例に引き寄せて、判例と違う点はどこか、など考えながら問題を解こうとしています。
そうすると、答案も判例に似てくる、ということがしばしばあります。

判例・裁判例は答案のモデルではないということなのですが、試験で求められる「答案」と「判例・裁判例」の違いは、どのあたりにあるのでしょうか?
どのような点を意識すれば、判例・裁判例の模倣にならずに、きちんとした答案が書けるようになるでしょうか。

長文失礼いたしました。
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Unknown (はら)
2011-10-30 00:32:36
ロースクール生さん,良い質問です。

試験的な意味での答えを簡単にいうと,判例は,法的紛争解決の準則(規範)を提供するものであって,答案はその準則(規範)を用いて解決までの思考過程を示すものである,ということです。その思考過程は,法的三段論法に従って示します。具体論は,記事にて説明します。

判例を勉強するのは重要です(言わずもがな)。また,参考とすべき判例に引き付けて考えることも,当然,重要です。ここでの「重要」という意味は,当該問題の事案を,過去の判例と同じ基準で解決しうるかという意味,実務は判例に従って処理されるので,実務家登用試験たる司法試験では判例に従って解決することが求められている,という意味で重要だということです。

では,記事をご覧ください。
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付記 (はら)
2011-10-30 03:29:43
ロースクール生さん

未修1年でしたか。「姿勢」が未修1年とは思えず,LS2年かもしかしたら3年かな,と思って記事を書いてしまいました。未修1年ですと,刑訴法の話だとピンと来なかったかもしれませんね。内容自体も,結構,難しいことを書きましたし。

記事の話は,来年の夏くらいまでに「そういうことか」と思えればよいでしょう。まずは,法的三段論法ってどんなものか,勉強してみてください。そして,それとの対比で判例(判決文)を読んでみてください。
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ステップ4について (次回3回目受験)
2011-12-11 00:06:37
ブログを拝見させて頂き、参考にしています。さて、先生がお書きになった「ステップ4」の部分なのですが、そのような事項を正確に押さえるために効果的な勉強方法はありますでしょうか?
もしありましたら、ご教示頂ければと思います。
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Unknown (はら)
2011-12-11 01:51:42
記事の中で指摘したように,合格経験者以上の人に指摘をしてもらって,誤りを修正していくのが一番の方法だと思うのですが,これを自力でやろうとすると,以下の方法であると思います。別のコメントで同じ趣旨のことを書いたので,それを引用させてもらいます。特に,「①要件(その解釈結果たる規範)の具体的意味の理解」の点を参考にしてください。

=引用はじめ=

一つ思うのは,要件(それを解釈した規範)の具体的意味についての理解が甘いのかな,と思います。

例えば,即時取得の善意は,他の場面の善意とは異なり,「取引の相手方が権利者であると信じていたこと」と言います。ここを押さえないと,あてはめの視点がずれてしまうんですよね。

あるいは,刑訴321Ⅰ③の特信性は,絶対的特信情況を言いますが,これは外部的付随情況から判断します。つまり,書面の内容ではなくて,それが作成された状況,その書面の体裁などから判断します。

まず,上記のように要件(その解釈から導かれる規範)を字面だけ押さえるのではなくて,その具体的意味を理解していくことが必要です。そしてこれは,判例の事案に着目するのが良い勉強法です。判例はどういう事案で,どの点(事実)に注目して,それにどのような意味づけをし,結論を導いたか。

また,もう一つは,「事実認定はある程度法定新勝主義である」ということを理解し,典型的な事実認定方法をストックしておくことも有益ではあります。世の中には多くの先例があり,先輩法曹が積み重ねた事実認定があります。

司法試験でも複数回出題されている殺意の有無で例えます。甲がVを刺してVは死亡したが,殺意を否認している,という事案で,甲はVを刺した後,救助行為をしなかったとします。この時,一般的には,救助行為をしなかった事実は,殺意を推認する間接事実になると言われます。「痛めつけるつもりはあったが死んだらまずい」と思っていたら,何らかの救助行為を行うであろうから,それを何もしないということは,基本的には死亡の結果を認容していたと推認されるからです(それを覆すような事情があれば別。例えば,すぐに警察が駆けつけたとか)。

典型的な事実認定の手法は,事実認定の教科書(石井先生の「刑事事実認定入門」など)に紹介されています。入門レベルの事実認定の教科書を読んでいる受験生は,そこそこはいると思います。しかし,本格的なものを読んでいる受験生は多くはないでしょう。恐らくは,答練,判例分析などで,できる範囲で学んでいると思います。

「問題文を読んでこのような事実はここの要件で問題になるのだなということが明確にわからず、結果あてはめができていない」原因は,上記の通り,①要件の具体的な意味が理解できていない,②典型的な事実認定の手法が身についていない,のが理由だと思います。「どうすれば鍛えられるか」は,上に述べた通りと考えます。

=引用おわり=

私も3回目の経験者なのである程度,心中は理解しているつもりでの,エールです。勉強量(知識)は,合格レベルなのだと思います。あとは,何が足りていないか。そこさえ補強できれば,合格です。あれもこれもやらねばならない段階の受験生と異なり,合格までの絶対的な距離は小さいものだと思います。それこそ,100時間あれば補強できる弱点かもしれません。「何が足りないか」の視点を持って,勉強を進めてください。上記が,そのヒントになれば幸いです!

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Unknown (次回3回目受験)
2011-12-11 19:56:55
原先生、早速のご回答ありがとうございました。
先生が仰られることは、確かにそうだなあと思います。択一は過去2回安定的に合格しているので、知識がないというよりは、要件がつかいこなせるレベル(具体的意味の把握)に至っていないということなのでしょうね。

今年の問題で、外してしまった科目が多かったのは、それが原因かもしれません。

お忙しい中、親身にコメントを頂きまして、どうもありがとうございました。
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Unknown (はら)
2011-12-12 00:38:58
今日,「民法案内1」を読んでいたのですが,かの我妻先生も同じ趣旨のことを強調しておられました。

「もう一歩,踏みこんで」勉強をすることができれば,合格は確実になるものと思います。成功をお祈りしています!
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