■12月漱石忌ネット句会■
■入賞発表/2014年12月10日■
【金賞】
★漱石忌港の見ゆる喫茶店/涼野海音
漱石忌。作者は一人港の見える晴れ晴れとした喫茶店にいる。コーヒーを片手に、もちろん漱石の書を開き、三昧にふけっている。明るい漱石忌だ。(高橋正子)
【銀賞】
★黄落の漱石句碑の彫深む/藤田洋子
漱石の句碑のひとつは漱石が教師であった松山中学(現松山東高校)の校庭にある。銀杏の木が立ち並ぶあたりは「黄落」の季節。句碑を読もうとすれば、字の彫りも陰影深く、子規漱石の往時を忍ばせる。(高橋正子)
★マドンナの離婚のメール漱石忌/茂木ひさを
「マドンナ」の句が面白かった。この「マドンナ」は学生時代の作者のあこがれの女性と、「坊っちゃん」のマドンナとをかけている。こういうメールをもらうと、男としてはちょっと心が揺れるのではないか。(林 誠司)
【銅賞】
★漱石忌餡を煮詰める夜の廚/佃 康水
漱石忌の夜、餡を煮詰めている。なにも餡を煮詰めるのに漱石忌でないくてもよいが、一生懸命なところに、それが、餡を煮詰めることだけに、ふっと漱石風のユーモアを感じる。(高橋正子)
★吾輩の居所さだめなき漱石忌/桑本栄太郎
私は、なっちゃんと親しみを込めて呼んでいる夏目漱石。私の尊敬してやまない現代文明と真っ向から立ち向かった文人。人生は、時に旅に例えられる。その人生の旅を生涯、夏目漱石は、していたのではないか。『吾輩は猫である』の猫の視点で描かれた独創的な、デビュー作からずっと居所をさだめることもなく、座ったり横になったりするように精神の安息もないくらいに歩み続けた道のりを偲びつつも親しめる作品との出会いに感謝しきれない。(豊里友行)
★文豪も愛でし湯煙漱石忌/河野啓一
松山の道後温泉の風景。「坊ちゃん」で知られる温泉の湯煙をみながら、今日は漱石忌であったと漱石を偲ぶ作者の姿がみえてくる。(中本真人)
【五島高資特選3句】
★漱石忌餡を煮詰める夜の廚/佃 康水
『草枕』の「余はすべての菓子のうちでもっとも羊羹が好だ。別段食いたくはないが、あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ。ことに青味を帯びた煉上げ方は、玉と蝋石の雑種のようで、はなはだ見て心持ちがいい。のみならず青磁の皿に盛られた青い煉羊羹は、青磁のなかから今生れたようにつやつやして、思わず手を出して撫でて見たくなる。西洋の菓子で、これほど快感を与えるものは一つもない。クリームの色はちょっと柔かだが、少し重苦しい。ジェリは、一目宝石のように見えるが、ぶるぶる顫えて、羊羹ほどの重味がない。白砂糖と牛乳で五重の塔を作るに至っては、言語道断の沙汰である」という一節を思い出した。もちろん、このことを知らなくても掲句における「夜の廚」から生まれる餡には、漱石における美意識の根源を彷彿とさせるものがある。また「煮詰める」という措辞に漱石の芸術への深い思い入れもよく感じられる。
★漱石忌路面電車の音軋む/藤田洋子
★師走の夏目坂下りてはまた上る/高橋信之
【高橋正子特選3句】
★黄落の漱石句碑の彫深む/藤田洋子
漱石の句碑のひとつは漱石が教師であった松山中学(現松山東高校)の校庭にある。銀杏の木が立ち並ぶあたりは「黄落」の季節。句碑を読もうとすれば、字の彫りも陰影深く、子規漱石の往時を忍ばせる。(高橋正子)
★縁側に父居て猫いた漱石忌/祝恵子
★漱石忌港の見ゆる喫茶店/涼野海音
【豊里友行特選3句】
★吾輩の居所さだめなき漱石忌/桑本栄太郎
私は、なっちゃんと親しみを込めて呼んでいる夏目漱石。私の尊敬してやまない現代文明と真っ向から立ち向かった文人。人生は、時に旅に例えられる。その人生の旅を生涯、夏目漱石は、していたのではないか。『吾輩は猫である』の猫の視点で描かれた独創的な、デビュー作からずっと居所をさだめることもなく、座ったり横になったりするように精神の安息もないくらいに歩み続けた道のりを偲びつつも親しめる作品との出会いに感謝しきれない。
★漱石忌余生と云へど枯れ切らず/桑本栄太郎
★漱石忌生涯秘する嘘ひとつ/本村照香
【仲 寒蟬特選3句】
★マドンナの離婚のメール漱石忌/茂木ひさを
「猫」「胃病」「外国」などのキーワードはありふれ過ぎて取りづらい。かと言って全く離れては漱石忌の必然性がない。その点「路面電車」「夜の厨」は即かず離れずでいいのではないか。「マドンナ」は離婚のニュースがメールで来る所が現代的で面白いと思った。思えば「我々のクラスのマドンナは…」などという表現も漱石のお蔭か。
★漱石忌路面電車の音軋む/藤田洋子
★漱石忌餡を煮詰める夜の廚/佃 康水
【永田満徳特選3句】
★猫の髭引っ張ってみる漱石忌/茂木ひさを
漱石は知る人ぞ知る愛猫家である。小説を書くのに倦んで、側の猫にちょっとしたいたずらをしたこともあっただろう。漱石のそういう一面が捉えられた句として好感が持てる。
★思ひ出す吾のあだ名や漱石忌/武藤隆司
★本棚の奥から一冊漱石忌/高橋秀之
【中本真人特選3句】
★文豪も愛でし湯煙漱石忌/河野啓一
松山の道後温泉の風景。「坊ちゃん」で知られる温泉の湯煙をみながら、今日は漱石忌であったと漱石を偲ぶ作者の姿がみえてくる。
★漱石忌路面電車の音軋む/藤田洋子
★瀬戸海を靄の包める漱石忌/佃 康水
【林 誠司特選3句】
★マドンナの離婚のメール漱石忌/茂木ひさを
「マドンナ」の句が面白かった。この「マドンナ」は学生時代の作者のあこがれの女性と、「坊っちゃん」のマドンナとをかけている。こういうメールをもらうと、男としてはちょっと心が揺れるのではないか。
★山門は昔のままに漱石忌/宮 幸代
★たっぷりと世の中教えた漱石忌/迫田和代
【松野苑子特選3句】
★猫の髭引っ張ってみる漱石忌/茂木ひさを
漱石と言えば『吾輩は猫である』。だから、この漱石忌ネット句会でも猫の句多かったけれど、その中でこの句が一番面白かった。漱石忌イコール猫というところにとどまらず、目の前の猫の髯を実際に引っ張ったのだ。すごい。猫には迷惑な話だがこの動作によって句にエネルギーが生まれた。そしてユーモアもある。ユーモアは『吾輩は猫である』の底流にあるものだ。
★漱石忌我輩の胃のピロリ菌/毎野月湖
★漱石忌コーヒー豆は夜の色/涼野海音
【入選7句】
★四十過ぎ迷いばかりの漱石忌/菊池宇鷹
四十代で逝った漱石の苦悩はいかばかりだったのでしょう。現代も変わらぬミドル世代が抱える悩みや迷いが、悩める文豪の忌日にしみじみと伝わります。 (藤田洋子)
★漱石忌テムズの空の北斗星/河野啓一
留学中のロンドンだと思いますが、空の北斗星を仰がれて、いろいろと考えられたと思います。勿論残してきたものえのことです。 (迫田和代)
★抽斗に旧札五枚漱石忌/今村征一
片付けものをしていて、思わぬところからお札が出てくるということは、あるものです。旧の千円札は漱石の肖像。その千円札、使われたのでしょうか? (多田有花)
★漱石忌今日は優しく猫を見る/高橋秀之
何時も追い返している野良猫をやさしく見ているのは今日が漱石忌がであることを知っている作者だ。日向にいる猫と縁側でくつろいでいる作者の姿が見える。(今村征一)
今日は優しく猫を見る・・・猫の死亡通知まで認めた漱石である。彼のまなざしの底に何があるのかは分らないが、忌日のこの日には、優しく猫を見遣るのである。(本村照香)
★歳時記の傷み繕う漱石忌/矢野文彦
気にかかっていた歳時記の傷みを繕う作者、漱石さんのことを思いながらでしょうか。(祝恵子)
★智と情のはざま思うや漱石忌/河野啓一
人は成長するにつれ、智(理性)と情(欲求・感情)のせめぎ合いの中で調和を取りながら、日々生きて居るところがある。漱石の作品の中でも人間の葛藤が描かれ、それが文豪たる所以であり、漱石忌に因み色々深く考えさせられる。 (桑本栄太郎)
★味噌汁の豆腐だけ食ふ漱石忌/仲 寒蝉
味噌汁の豆腐と忌の組み合わせ。意表をついていて、それこそ掴みずらい面白さ。 (をがはまなぶ)