醸楽庵だより

芭蕉の紀行文・俳句、その他文学、社会問題についての評論

醸楽庵だより  661号  『芭蕉という修羅』を読む①  白井一道

2018-03-04 12:30:04 | 日記


  『芭蕉という修羅』を読む ①  嵐山光三郎著


句郎 嵐山光三郎氏の著した『芭蕉という修羅』を読んだ。知人が面白かったというもんだから、読んでみることにしたんだ。
華女 嵐山光三郎氏は以前『悪人芭蕉』を書いた人よね。
句郎 そうそう、『悪人芭蕉』も発売と同時くらいに読んだ記憶があるな。「悪人」とは、普通の人という意味で嵐山氏は用いていたような気がした。俳聖芭蕉じゃなく、ごく普通の俳人だったということを主張したいのかなというのが、読後感だったかな。
華女 芭蕉隠密説を唱えているのよね。
句郎 1970年代の中ごろだったかな。国学院大学の先生が芭蕉隠密説を主張する論文を発表したという話を聞いたのが初めてだったかな。
華女 もう半世紀前から芭蕉隠密説という話はあるのね。
句郎 最近始まった話じゃないよ。初めの頃、芭蕉は徳川幕府の隠密だったというと週刊誌的な興味で売れるという目論見で出てきた話なのかなと思っていたんだ。
華女 でも、実際はどうだったのかしらね。
句郎 今回の嵐山光三郎氏の著作を読み、それなりに説得力のある話なんだなぁーという印象を受けた。
華女 書名の『芭蕉という修羅』とは、どんな意味なのかしら。
句郎 仏教が言うところの六道輪廻という教えがあるじゃない。
華女 地獄、餓鬼、畜生、阿修羅、人間、天を輪廻するという思想でよかったかしら。
句郎 古代社会に生きた人々の中には地獄に生きているような人や餓鬼のごとくに苦しむ人々、畜生のように生きざるを得ない人々がいたんだろうね。さらに阿修羅のごとくに戦いに生きる人々がいた。平和に生きる人間、人々に平和をもたらす天界に生きる人がいたんじゃないかと考えているんだ。
華女 六道とは古代インド社会を反映した教えだったということなの。
句郎 そうなんじゃないのかな。いつの時代も人間は平和を求めてきた。なぜなら、戦争が絶えないかったからね。
華女 人と人とが争い合う中を生き抜いた人として嵐山氏は芭蕉を理解したということなのね。
句郎 それが書名の『芭蕉という修羅』という意味なんじゃないかと理解しているんだ。
華女 江戸時代のどちらかというと下層社会に生きた芭蕉は生きるために戦い抜いたということね。
句郎 江戸時代の被支配階級に生きる者にとって生きるということは、厳しい厳しい日常生活に耐え抜くということだからね。
華女 江戸時代、農家の次男に生まれたものは嫁を貰うこともできなかったという話を聞いたことがあるわ。
句郎 芭蕉は農家の次男だったからね。一家を持つことが許されるような経済状況になかったことは事実だったんだろうな。
華女 当時の農家は大家族だったのね。祖父母、父母、長男夫婦を中心に叔父、叔母が同居する家族だったということね。
句郎 芭蕉は武家屋敷に近接する農地に居住する無足人と身分の農民だった。伊賀上野の藤堂藩主に仕えることのできる農民だった。続く

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