くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

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「ラスト・ダンス」 恋人はサンタ…なんかじゃない… 5

2018-02-16 18:43:37 | 【偽書】シリーズ
「そんな汚いジャンパーではなく新しいのを進呈するわ。我が社の宣伝になるなら。それは紛失届をした君が有り難く着なさい。美人のモデルさんが着たんだから光栄でしょ」
「別に光栄でも市営でも無いですけど」
「また訳の分からないおやじギャグ言って。それじゃあ女の子にはモテないわよ」
「モテなくても困らないですから」
「あの…それじゃあ私控室でお化粧を直して衣装に着替えてきますから…」
ジャンパー女は俺の手にジャンパーを押し付けて足速に去って行く。
多分自分で洗濯をしたのだろう。
落ち切っていない洗濯石鹸の香りがした。
そんなジャンパーを片手のバカ殿様…
端から見れば余りにも絵にならない光景だった。



「では最後に本作品発売のラストメッセージプロモーションを上映させて頂きます。再びスクリーンにご注目下さい」
スピーカーから司会者の声が響くと、場内照明が少し落とされて、再び先程痴話喧嘩をしていた男女のCG映像が浮かび上がる。
互いに携帯端末で何かゲームを熱心にやっている様子が続いて、最後に画像がアップになる。
黒くて巨大な敵が倒され、男女は小さく安堵の溜め息をつくがそれも束の間、倒れた黒き敵は銀光を放って立ち上がる。
やがて画面を埋め尽くす無数の細かな黒い影達…。
それは一つの希望の中から無数の絶望が誕生してしまった様な、新しい戦いが始まった事を意味していた。
日付が画面に現われて、それは彼らの手の中を離れてスクリーンに拡がる。
来年春のある日の日付が大写しにされて、白と黒が反転し、このゲームのテーマソングがオルゴール音で奏でられる。

まるでエンドレスで鳴り響くオルゴールの悲しい音色に、このゲームを誰より心待ちにして来たゲーム・マスコミ関係者達から自然と激しい拍手が巻き起こって、やがて出席者全員の拍手へと変わって行く。

ただ流れるオルゴールのメロディと日付だけの映像で、参加者は続編の発売されるであろう日付を待ち望む子供の如き目を隠さない。
発表会は大成功だった。
そして先程壇上で紹介されたゲームのイメージキャラクターの女性タレントが、ゲームヒロインであろう白銀の甲冑と白い羽根の扮装で再び壇上に上がり、手にしたフルーレをひと振りしてポーズを決めるとひと言言った。
「我、彷徨える者を救済しに舞い降りたり」
ゲームヒロインの決め台詞に拍手が重なっていった。





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筆者敬白