くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽書】虹メイル・アン 〔第六話〕緑の大地に英雄は眠る 25

2017-04-30 08:59:47 | 【偽書】シリーズ
「カレンもそう思いますか?不思議ですが、私達メイルに“感情”なるものが入り込むスペックをドクター敷島は敢えてプログラムしたのでしょうか?」
「分かりません。でも、私達メイルは人間にはなれなくても、より人間を理解するのにはきっと役立つ筈ですよ」
カレンの方を振り向いたサニーはカレンを手招きする。
「一緒に合掌しませんか?この老メイルの為に」
「神や仏を信仰していない私達メイルがそうしてもよいのでしょうか?」
「きっといいと思うよ…って言ってくれると思いますよ。翔太郎は」
「そうですね。こうする科学的根拠は皆無ですが、今の私は何故だかそうしたい気持ちです」
「さあ、祈りましょうか。役割を全うしたこの老メイルの仕事振りに敬意を払って」
サニーとカレンは両手を合わせて瞼を閉じる。

かつて辺り一面緑の大地だった施設周辺に今は生かる草木の姿は無いが、この老メイルがこの地に配属された時にはまだ施設開発中で緑に囲まれていたという。
その大地で役目を全うした老メイルの表情は大役を終えた満足感に溢れていたという。


《fin》





「カレンです。次々と放たれるダーククラウドのテロの嵐。そして徐々に私達のコンビネーション技も研究され苦戦を強いられて行きます。そんな中私達虹のメイルは新たな力を手に入れるべく、かつて女性探偵尼名香が語った翔太郎の姉を探す事になったのですが、その人物が居る場所とは…」

次回・青空と海よりの使者の帰還
ご期待下さい。






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【偽書】チェリーブロッサム 〔咲くるは早咲きの魂。散るるは諸見の雛神輿〕 34

2017-04-26 12:40:10 | 【偽書】シリーズ
いや、全然笑えないけど。
「頭が痛いと姉が倒れた日、外科だった父親の病院へ運び込まれた姉を助けてと、私は父親に懇願した」
「姉妹だもの」
「父は私にこう答えたんだ。“必ず助けるから…”と」
「お医者様なら普通そう言うよね。ましてミソカは娘だし」
「でもね、父親は脳神経外科じゃなかったんだ。勿論幼かった私にはそんな事までは分からなかった。父親は外科の腕の立つ偉いお医者さんだとしか頭に無かったから…」
「そうだったんだ」
「姉を執刀して下さった若いお医者様は、それこそ良くやってくれた。でも限界はあるんだよ。姉の手術が終わっても、姉の症状は変わらず意識の無い状態のまま、二度と目を開ける事は無かった。私は助けると約束した父親をなじったよ。それこそ葬儀の席でも遺骨になった姉の納骨の時でも」
「今のミソカからは信じがたいけど…」
「私にとって、父の約束が全てだったんだよ。大切な姉を病から取り返す唯一の頼りだった」
「ミソカもだけど、お父様も辛かったんだね。娘を失い、残った妹からはなじられて」
「ふふふ。今なら若いな〜って言えるけどね。あの頃は…ね」
「あ、もしかしてそれで…」
私はやっと二人の会話に口を挟む。
「それであの四條さんの…妹さんの病気の為に頑張る四條さんの事を知って、手術費用を後押ししたいと寄付のプランを提案したのね」
「そう…かもね」
はぐらかす様にミソカは語尾を濁す。
「なる程。お姉さんとミソカ、妹さんとあの四條さんを重ねて?」
「その話はあくまでチェリーの想像だからね」
そう言うミソカを見て私は確信した。
ミソカは果たされ無かったお父さんとの約束を、違う形で解消しようとしたのかも知れない。
私が胸に抱いた熱いものの様に、ミソカにも別の熱いものを抱えていた。
ただ私の様に頭に血が昇って拳を振るうのではなく、誰もが納得する形でその熱さを力に変えて。
クールに見えるミソカが実は熱い部分を抱えていた事に、私は妙に安心した。
そして相変わらず私はあの頃から成長していないままな事を気恥ずかしくなっていた。

「ごめん。ミソカ…本当に…」
「チェリー…」
「約束破って今更言えた義理じゃないのはよく分かってる…分かってるつもり。でも、お願いだから…もう二度と力を振るわないから…だから私を許して欲しい。もう少し大人になるように努力するから」





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【偽書】雪華残像(9G) 36

2017-04-25 12:23:25 | 【偽書】シリーズ
「才能ですよ。タレントと申しましょうか」
「確かに月子のこの力はタレントよね」
「そうかな?」
「月ちゃん何だかアイドルみたいね」
姫はよく分かっていないみたいね。執事さんの言いたい事が。
「どちらにしましてもなるべく早く復旧を試みますので」
そう言って扉から出て行く。

「小夜子さんはいい執事さんをお持ちなね」
「持ち物じゃないよ。姫」
「案外驚かなくて少しだけガッカリ。私なんて初めて見た時は心臓止まりそうになったわよ」
「そうしたら月ちゃんに電気ショックを与えて貰うから大丈夫」
「私はAEDじゃないよ」
「電圧強すぎて黒こげになっちゃいそうだわ」
早矢は遠慮しときますとばかりに首をすくめて見せる。
「それにしても、火災報知器の誤報の次は停電?真冬の人里離れた断崖絶壁のお屋敷で怖いのは火と寒さと…お天気ね」
窓を叩く様に北風が吹き付け始め、更に白いものまで混じるに至り、早矢は溜め息まじりに椅子に腰掛ける。
「次は寒さで水道が凍って断水かもよ」
「不吉な事を言うのはやめてよ。悪いことは続きやすいんだから」
月子の軽口に眉を潜める早矢。
「うふふ。楽しいホワイトクリスマスね」
嬉しそうに姫が笑う。
「そんなロマンチックなものじゃないわよ。窓の外も荒れて来ているし、これは、暴風雨…いえ、暴風雪になるわね」
「外は雪か…」
灯油のランタンの灯りを得て発光を止めた月子が早矢に代わって窓の外を見つめる。
「おや…?」
「今度は何よ?」
「誰か外に居る」
「今出て行った執事さんじゃなくて?」
「違うね」
「こんな時間に。しかも停電してるんでしょ。灯りでも持ってるの」
「いや、灯りの類は手にしてはいないよ」
「なら、どれだけ視力がいいのよ。月子は」
早矢が月子の隣りに立って窓の外を注視する。
外は街灯の類も消え、幾つかの部屋からの灯り、アルコールランプの仄かな灯りだけが外に光るだけのほぼ暗闇の世界が広がるだけだった。
「見えないけど」
「…おかしいな」
「見間違いじゃないの?」
「それは無いよ」
確かに昼間は寝てばかりだけれど、夜の月子の視覚聴覚嗅覚は人間のレベルを遥かに超えている。
でも早矢の言う通り、見間違いだって無いとは言えないわよね。



「人だって?」
「真っ暗だよ、桃恵。亡霊でも見たかい」
「まあ、詩織んの動体視力じゃあ、昼間にマンモスが横断歩道で寝ているくらいのスピードを見えるのが関の山ねん」







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【偽書】虹メイル・アン 〔第六話〕緑の大地に英雄は眠る 24

2017-04-23 09:26:52 | 【偽書】シリーズ
「つまり、プログラムが作動しなくなれば…あなたは」
「単なる鉄屑だ。だがそれでいい。それが機械なのだ。儂は満足なのだよ。本分を全う出来て。無事に職員達の安全も確保したしな」
「まだ間に合うかも知れません。私達が肩を貸します。この地下壕を出ましょう」
「無駄な事をしたがるメイルだな。いいのだよ。ここで儂の仕事を、儂の役目を終わらせてくれないか。この場所は本来職員すら執務する事の無いいわば物置の様な場所なのだ」
「ジョージ!」
「懐かしい呼び名だな。この原発のプロトタイプで確かにそう呼ばれていたよ」
「さっき最後に脱出した職員がそう呼んでいました」
「彼はプロトタイプ原発時代からの儂の“上司”だ」
「何か私達に出来る事は無いのでしょうか」
「ややこやしい事を思考するメイルだな。君達は。それが最近の流行りなのか」
「分かりません。でも…」
「そろそろプログラムに過剰な電流を必要とし始めた様だ。プログラム基盤がオーバーヒートして停止するだろう。さようなら。職務を全う出来る機械は限られる。儂は“幸せなケース”だな」
「ジョージ」
「サニー。カレン。機械が機械に看取られて停止するなんて“幸運”だよ。ありがとう。さようなら」
ジョージのプログラム基盤がオーバーヒートしてケーブルが出火防止回路により自動断線する。
一体の古いメイルが役目を終えた。

「ジョージは満足だったのですね。これ以上は何も出来ませんが、せめてこれでも」
「それは…」
「この敷地内では植物は放射能の影響を受ける可能性があるので種子などが外部へ出ない様に全て除草されていた事があったらしいです。科学的に安全性が確認された現在でも敷地には大量の除草剤が土に堆積されていて植物は育たないと聞いています。ですがこれなら」
サニーは室内に飾られていた造花を花瓶から抜き取り、動かなくなった老メイルの前に手向(たむ)ける。
「正直今日まで、ルナの様に亡くなった子供を弔う為に花を供える行為は理解出来ませんでした。でも、この老メイルが動きを止めた、私達は命ではありませんが、その使命を終えた彼の亡骸に、こうして花を手向ける気持ちになれたのは、私にもルナに近い“感情”が芽生えているのかも知れません」
そう語るサニーの背中を見ながら、カレンは小さな溜め息をついた…様に見えた。

「不思議な存在です。側に居なくてもあのルナに私達は何らかの影響を受けているんでしょうか」






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【偽書】チェリーブロッサム 〔咲くるは早咲きの魂。散るるは諸見の雛神輿〕 33

2017-04-22 08:15:16 | 【偽書】シリーズ
「二人の間にはそんな事があったのか」
「メイの為を思って…って事は良く分かるよ。チェリーは自分の為に力を振るったりはしない子だから。でも暴力はダメ」
「言葉も無いよ。約束を破ったのは他ならぬ私なんだから」
「ちょっと待ってよ。確かにチェリーはミソカとの約束を破ったよ。でもそんなチェリーでも私やメイの大切な友人なんだ。例えミソカでもそれは譲れないよ」
「サカエ…」

「ミソカは確かにチェリーの昔を知っていた。でもメイや私は今回初めてチェリーの昔を知ったんだ。それでもやっぱりチェリーは私の大切な友人なんだよ。勿論メイもそう思っている筈。もし、それで何か問題あるってのなら、私はミソカやみんなから外されても構わない。過去の経緯(いきさつ)も含めてチェリーは私の友人なんだから」
「サカエ…」
「何言ってるの?サカエ」
ミソカは息巻くサカエを見ながら、その細い瞳を最大限見開いた様だった(まあ、見かけ上は何も変わらないくらいで、それは後から聞いた話だが)。
「約束を破ったならもう友人でもないし、仲間じゃないってんだろ〜」
「サカエ…」
私はさっきからサカエの名前しか言っていない。
二人の会話に口を挟める身でもないから他に言葉が無いよ。
こんな時、普通の女の子みたいに涙のひとつでも流してメソメソ出来たらどんなに楽だろう…。
生憎私にはそれは出来ない。

「どうしてそう飛躍しちゃうの?サカエは」
「ミソカは約束を破るのを凄く嫌うし、約束を破ったのを許したりもしない、って事も知ってるつもり」
入学時から、ミソカは異常に約束を反故する事を嫌っていた。
クラスメートは勿論、教師や上級生、果てはOBや学校の理事に至るまで、約束を破る相手にこれでもかと言うくらい論理で噛みついた。
まるで親の仇でも討つ様に。
実際はミソカのご両親は健在だし、仲も良いと聞いているが。

「昔ね…」
急にミソカは柔らかな語調で一人ごとを語り始める。

「エッ…何?」
「昔ね。私には姉さんがいたのさ」
「いた…って事は今は…」
サカエが後の言葉を飲み込む。
「良くできた家族思いの優しい姉だった。幼い私の自慢の姉だったんだよ。それこそ将棋は姉から教わったんだ」
「てっきりひとりっ子かと…」
「姉がこの世を去ってから、私は姉に近づこうと勉強でも将棋でも頑張った。生きているうちは姉の分まで決して手を抜かないと決めて。相変わらず人付き合いは下手くそだけどね(笑)」







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