くまだから人外日記

くまだからくまなのだ。

それでいいのだ。

【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』27

2013-10-30 03:29:48 | 【偽書】シリーズ
同行作業をしていた自衛隊の好意で空路で目的地まで一足飛びに向う事が出来た仁美と悌見は、上空から見る惨状に言葉少なに給水を取りながら着陸を待つ。
「リミットに追われているアタイらの出来る事って本当に少ないよね」
「なら尼虎様を見捨てて探索に戻るかい」
「そ、そんな事出来る訳ないだろ。アタイ達や何より殿様の大恩ある虎千代様を見捨てとあっちゃ、南総里見家臣の名折れだよ」
「なら、愚痴ってないでありがたく体力を温存しよう。尼虎様は待っていて下さるさ。俺達の来る事を。俺達の出来る事を」
「分かった。着いたら起こしてよ、テイ」
そう言うといきなり眠りこける仁美。
「おい、こら…もう寝たのか?」




「長らく牢に閉じ込めた恨み、ここで晴らさでおかぬものか」
広間で手枷を外された細身長身超美形の男性、細川ガラシヤはいきなり両手を天に開くと一気に両脇から左右に振り下ろす。

「殿、だからこやつは危険だと進言致しましたものを」
「ま、待て、ガラシヤ!焦るでない」
「人を散々牢獄に繋いでおいて何を今更。わらわは犬や猫では無いぞ」
切れ長の瞳の奥に映る男の姿は氷の様な冷めたブルーに沈んでいた。

「手を収めよ。今お主を撃ちとうない。ひとつこの国の為に働いてもらいたく枷を外したのだ」
「わらわの知った事か。忠義を無くした国など厄災にあって救われなくて当然。この地を荒れ果てた大地に返してくれるわ」
派手な赤い襦袢を纏った美少年は薄笑いを浮かべて、ワハハハと高笑いを繰り返す。

「あの目を閉じさせよ。あの手を押さえ付けよ」
「殿、もう遅おございます。ガラシヤの魔性は止められませぬ」
容堂が叫ぶのに合せる様に、警護の者達が次々にガラシヤの妖力の前に倒れて行く。

「お逃げ下さい!殿」
そう声を発すると家老頭の容堂も意識を失いその場に倒れ込む。
「容堂!」
「次は貴様もこうなるのだ」
ガラシヤは再び両手を上に上げ、手を翳して怪しげなバテレンの言葉を唱える。

「お待ちなさい。ガラシヤ。殿に手を上げる事、相成りません」
「麝香(じゃこう)!」
「殿様、順序が逆でございましょう。今は大義の為ガラシヤの枷を解いたのなら、こうなるのは自明の理。もう一度言います。手を収めなさい、ガラシヤ」
「女風情が何を」
「殿方はその怪しげな魔力で倒せても、“女ふぜい”には手を振り上げる事も出来ぬのでしょう。直ぐに力を収めなさい。そんな事をする為に神父様より洗礼を受けたのですか?」

【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』26

2013-10-28 18:37:21 | 【偽書】シリーズ
「桃恵は桃恵の為に好きにやってるのよ。ゴチャゴチャした事はカトちゃんがやればいいのよ。その為に半ちゃんも付けたんだし」
「では…」
「その上、例の出雲のユカっちゃんも前日余計な事を桃恵や早矢っちに進言して来たしね。ねぇ、巫女って予言者?占い師?なら桃恵の将来も占えって言ったら“無意味な事”って言ったくせに!」
「神有月様は厄災を見通されていたのですか?」
「偶然下手なヤマ感が的中したんでしょ。ボケッ子程悪い予想は当たるのよ~きっと」
「では御所様も」
「早矢っちも今頃甲斐に向かってるわよ、きっと。怪しげな陰明師の卦を受けて、あの少納言の運転で」
「清様の運転で、ですか?」
「命知らずよね~早矢っちも。何せ清は元祖杏ずぅなんだから。無免許運転女子代表の(笑)」
「恐ろしい事です」
「まあ、自分も拳銃の不法所持している“半社会的勢力”だかんね。あの連中は(笑)。それに比べたら桃恵の何て社会派な事」
「…はぁ」




「勝の姐さんよ。儂ゃ何をしでかせばええんね」
「その前に尋ねるが、その身、泰平の世の礎(いしずえ)となる事厭わずと言った事、今も変わらずか?」
「おうよ」
「ならば国虐と叛逆者の汚名も着れるか」
「まあ好かんがそれが大義なれば」
「ならば国元へ帰れ」
「はぁ?何ゆうちょるかの。姐さんは」
ムッとした灰谷に奉行は言い渡す。
「今から国元に戻るのだ。その“ついで”に甲斐に寄れ」
「あの地震のあった甲斐にか。勝の姐さん、何を企んじょる」
「これを渡しておく。いいか、お前さんはあくまでも国元に帰る途中偶然に甲斐に立ち寄るのだぞ」
「面倒じゃのう。偶然を装えとか…」
「表立ってではいけねえのよ、お前さんはあくまで倒幕派なんだから」

手渡された密書を覗き込みながら、灰谷は怪訝そうに尋ねる。
「勝の姐さん。何を企んじょるよ」
「泰平の世だよ。私の企んでいる事はいつも」
「全く訳が分からんぞな」
「頼んだぞ、灰谷。いや龍馬よ」
ニッコリと笑う江戸っ子姐御に軽く頭を下げると、カールのかかった天然パーマの長髪をポリポリと掻きながら男は西に向かって歩き出した。




「暑いねえ。こりゃあ体力を奪われるのも早いわ」
「最初の地震から生存確率が一気に下がると言われるリミットまで、もう時間があまり無いよね」

「仕方が無いな。人も道具も余りにも足りないし。それにしても本当に暑い」
「ほらヒト。失われる前に水分補給を。直に到着するよ」

【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』25

2013-10-24 00:29:14 | 【偽書】シリーズ
「笑えません」
忠深は生真面目な顔を崩さずに答える
「はぁ…。渾身のギャグも滑りましたか。まだまだ修行が足りない様です」
「尼虎様の寒いキャグを磨く為にも何とか頑張って貰わねば」
「おや。これは智海に一本取られた様ですね。流石智海です。キツい一撃でしたよ。ギリィ…」
歯ぎしりの音は瓦礫の外まで響いた。
「虎千代様…」
忠深はまた溜息をひとつついた。





「ねえ。センちゃん。今来たバカ真田十人衆からのメールによると、どうやら例の甲斐のオバ尼ちゃん、埋まっちゃったらしいよん。年取り過ぎて、瓦礫からお尻抜けなくなっちゃったかな?デカ尻も困ったものぬぇん」
「えっ…桃恵様、それって一大事では…?」
「きっと罰よ。吉法師様に刃向かった。後は例のツルピカ信玄入道と一向坊主軍団のツルピカヘッド達も巻き込まれちゃったらいいのにね」
「救助に向われないのですか?」
「何で?吉様に刃向かった事のひとつでも詫びる気でもあれば、桃恵だって鬼じゃないんだから考えないでも無いけど。あっヤッパリ駄目。だってあのオバチャン寒いギャグしか言わないモン。初めて会った時桃恵凍え死にするかと思っちゃったわよ。あの竹でさえ凍えてたよ。いい気味」
「もしかして桃恵様はご自身は言ってないおつもりなんですか?」
「えぇ~何を~?」
「だから寒い“それ”をですよ」
「ナゥでヤングなハクイ桃恵がそんなおやじギャグ言う訳無いでショ」
「気付いてないよこのヒト(小声)」
「こら~センちゃん。ちゃんと聞こえてるわよ~悪口は全部聞こえるんだから~次言ったら切腹ね」
「耳はちゃんとしているんですね」
「五感も第六感もバリバリよ」
「やはり虎千代様と類友では?」
「センちゃん。アンタ誰の軍師よ?半ちゃんと並ぶ軍議の匠とか言われて最近チョーシぶっこいてない?」
「桃恵様?」
「何?」
「どうして西(さい)の国の諸侯は禄を失った桃恵様に付いていらっしゃるかご存じなんですか?」
「桃恵が可愛いからに決ってるデショ」
「いつか竹千代様にリベンジされると信じているからですよ。それなのに今虎千代様の危機を笑っていると知ったら…」
「そりは半ちゃんの仕事~」
「えっ?」
「半ちゃんならカトちゃんと一緒に甲斐に入ってるわよ。あの地震があった時間から一時間後には」
「既に現地に?でも確かあの日は桃恵様は…あのアイドルグループのコンサートに…」



【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』24


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【偽伝】平成八犬伝奇譚with9G 外伝1『哀しき八月の凱歌』24

2013-10-23 00:13:59 | 【偽書】シリーズ
「でもまだこの子…マシーンは稼動にリスク大き過ぎるし、僕が手ぶらで行っても何の助けにもならないんだよ」
「それにしたって手遅れになれば…」
「今は虎千代様の運と仲間達を信じて、まずは僕らはこの子の教育に全力を尽くす事だよ」
「何だか歯がゆいな」
「シノの出番も必ず来る。焦っちゃ駄目」
「腹が座ってるんだな、ヨシは」
「メカニックは常にクールで居なくちゃ。ドライバーの命を預かってるんだから。半端なマシーンを提供出来ないわ」
義巳は信生にそう言うと、現場処理を始めた自衛官らとの打ち合わせを兼ねてドイツから届いたマシーンの動作チェックに向かう。
信生は足元の小さな瓦礫をポーンと蹴飛ばす。やはりミニスカじゃないとしっくり来ないやと思いながら。



「ヨシは動かないか」
「でもそのつもりでいたんでしょ、タカは」
「まあね。ヨシ達の目処が付くまでは、先はヒトとテイに頑張ってもらうか」
「皮肉なものね。自ら動いた虎千代様が犠牲になるなんて。毘沙門天様の加護がありながら」
「多分あのお方はこう言っておられるさ。配下や臣民ではなく自分で良かった、と」
孝視は虎千代の口真似をしながら答える。




「虎千代様、ご無事ですか?」
「尼虎様」
「おや。その声は忠深ですね。それに智海まで。お久しゅう。元気にしていましたか智海」
「尼虎様、今はそんな事は…」
「おや、随分焦っている様ですが、智海は何か急いでいる事でもありましたか?」
「尼虎様の事です」
「おやおや。それは手数をかけていますね。私とした事が。まあ、配下の者達が無事な様子なのが不幸中の幸いとしましょう」
「今何とか致します」
「忠深。余り容易い事は口にしない事です。この事態は私の配下の者でさえ簡単には手出し出来ない具合の様。忠深なら退かせるのですか」
「すいません。気安い事を口走りました」
慌てて忠深は詫びる。
「良いのですよ、忠深。私をおもいやっての言葉でしょうから。その心使いだけは伝わりましたよ」
身動きの取れない中、謙信はいつもと変わらず語り返す。
「大恩ある虎千代様に私はいつまでも何もお返し出来ない小さな身でございます」
悔しそうに忠深は詫びる。
「今、担衆が参ります」
兼続が謙信に進言する。
「担衆とて被災地では微力。救援を待ちましょう」
「そんな。虎千代様、お体は持ちそうですか?」
忠深の問に謙信は至って達観して答える。
「尼は神仏に仕える身なれば、天に向うのに恐れてはおりませんよ。恐いのは治勢が乱れる事。やはりどんな時でも人たるもの、知性を保たねば…。だからここは笑う所ですよ、忠深」