できるだけごまかさないで考えてみる-try to think as accurately as possible

さまざまなことを「流さずに」考えてみよう。"slow-thinking"から"steady-thinking"へ

「我が子が心配」という言葉を盾にしている限りは、放射線への不安は永遠になくならない

2011-06-21 17:15:22 | Weblog

先週、ここでも採りあげた、柏市の主婦による署名活動と、柏市への要望書提出の話だが、何と、幼稚園・学校や公園の土の入れ替えなどを求めていたとのこと。そこまで求めていたとは知らなかった。

 

東日本大震災:福島第1原発事故 首都圏にも「高線量地点」 「わが子が心配」(毎日 2011.06.21)

 ◇放射線講座、熱心にメモ 土入れ替え、署名1万人

 東京電力福島第1原発事故の影響で、首都圏でも大気中の放射線量が比較的高い地域があることが分かり、市民の間で不安が広がっている。福島県内のように、年間の推計被ばく線量が20ミリシーベルトを超えるような地域があるわけではなく、各自治体は冷静な対応を呼びかける。だが、市民の間では「ホットスポット」と呼ぶ声も上がり、自治体は対応に追われている。【早川健人、橋口正、和田浩幸】

 千葉県柏市内で18日に開かれた「放射線講座」。講師の専門家が「安全と安心は一緒ではない。科学的に安全な数値でも、それが安心につながるかは別」と説明すると、350人以上の参加者が熱心にメモを取った。企画した地元の私立幼稚園協会の溜川(ためかわ)良次会長は「経営者と保護者の判断材料にしてほしい」と話す。

 3歳と1歳の男児がいる市内の主婦、大作(おおさく)ゆきさん(33)らが幼稚園・学校や公園の土の入れ替えなどを求めて署名運動を始めると、周辺の「幼稚園ママ」らの口コミで、署名は1万人を超えた。

 しかし、市から具体的な返答はなく、長男が通う幼稚園も放射線対策には消極的という。大作さんは「7月から休ませようか」と思い悩む。

 同様の署名の動きは栃木県や茨城県、東京都の父親や母親にも広がる。大作さんは「みんな、わが子が心配なんです」。柏市や千葉県我孫子市では、園庭の表土を削り取る作業を実施した幼稚園もある。

 一方、千葉県には、公式の測定場所が県内1カ所しかないことに批判が集中。県が5月末から小学校などの放射線量測定を始めたところ、柏市内の公園で1時間当たり0・54マイクロシーベルトを記録。南南東約50キロの公式測定場所では同約0・08マイクロシーベルトで、父母の不安を裏付けた。同市など県北西部6市も「東葛地区放射線量対策協議会」を結成し、独自測定した結果、流山市内の公園で最高0・65マイクロシーベルトを記録した。

 調査結果は、文部科学省が定めた校庭などの利用時の暫定的目安の1時間当たり3・8マイクロシーベルトを下回る。だが、保護者が懸念するのは、8割超の地点で、同省が目標値とする年間限度1ミリシーベルトから逆算した同0・19マイクロシーベルトを上回っていることだ。

 県の調査で市内で唯一、同0・19マイクロシーベルトを上回った野田市の保育所は、20日から砂場とすべり台周辺の立ち入りを禁止した。保育所長は「これから泥遊びをさせたいのに」と言葉少な。根本崇野田市長は「騒ぎすぎと言われようと、市民の不安を払拭(ふっしょく)しなくてはならない」と説明する。6市の調査で最高値が出た流山市の公園では「数値を下げるため」として、急きょ草刈りが実施された。

 都内でも、放射線量を独自測定し、結果を公表する動きが広がっている。

 一部報道で「ホットスポット」があると指摘された葛飾区では5月以降、住民からの問い合わせが殺到。今月2日から区内7カ所で放射線量の測定を始めた。結果は毎時0・1~0・2マイクロシーベルト台で推移。同区はホームページと広報誌で結果を公表し、希望者にはメール配信もしている。


 ◇リスク判断難しい/自治体は不安解消を

 なぜ首都圏でも「ホットスポット」があるのか。放射線の環境影響に詳しい山沢弘実・名古屋大教授によると、放出された放射性物質は一様には広がらず、雲のように塊になったものが風で流され、雨とともに降下する。このため地表の放射性物質の濃度はまだらになる。山沢教授は「放出量が多く、関東方面への風が吹いた3月20~22日に広がったものが降雨で沈着した影響が大きい」と話す。

 千葉県柏市などで計測された毎時0・5マイクロシーベルト程度の場所で、1年間屋外にいた場合に浴びる放射線量は約4・4ミリシーベルト。佐々木康人・日本アイソトープ協会常務理事は「被ばく量は少しでも下げた方がいい。ただ、仮にがん死亡率が高まるとしても0・02%程度で、2人に1人ががんになる時代にそのリスクの大きさを判断するのは難しい。過度に不安で過ごすことで受けるストレスや健康への影響、生活上の他のリスクと比べて考えてみることが大事」と指摘する。

 首都大学東京・加藤洋准教授(放射線計測学)は「草を植えれば粉じんが舞うのを防げるし、草を刈り取れば土壌の放射性物質の濃度が低下する」と話す。野口邦和・日本大専任講師(放射線防護学)は「自治体が住民の求めに応じて計測し、不安を解消する仕組みを整えるべきだ」としている。【杉埜水脈、久野華代】

 

・・・いやもう、「放射線アレルギー」そのまんまの様相を呈している。批判したいのではなく、楽に考えてほしいのである。そして、少しでも心に余裕が出てきたら、「子どもが心配だから」という言葉で、逆に子どもにストレスをかけていないかを想像していただきたいのだ。

 

<「年間1ミリシーベルト以下でなければならない」と保護者が思い込んでいること自体が「無用な心配」>

柏市に限らず、関東圏の保護者の心配のポイントは、

・『「年間限度1ミリシーベルトから逆算した、毎時0.19マイクロシーベルト」というラインを越えている=子どもには危険』

という考え方が、何か絶対的に重要な基準であるかのように一人歩きしている点である。たとえばこの保護者のように。

 

<本日の日テレ系、ミヤネ屋より>

 

しかし、先週紹介したページ(放射線医学総合研究所)にあるように、事故終息後の復旧期においては、原発作業員でなくても、「年間20ミリシーベルト以下」という基準を設定し、最終的に年間1ミリシーベルトをめざせば問題ない。

 

しかも、先月の朝生のレビューで紹介したように、放射線は、一度に多量で浴びるのと、少しずつ少量で浴びるのは、後者の方がよほど「安全」なのであって、そこを逆に捉えてもいけない。

 

<松本義久氏>

 

松本義久:特に、妊婦の方や小さなお子さんをお持ちの方のご不安はよくわかります。放射線の影響というのは、正確にはリスクで表すものでありまして、特に一番心配されるのはがんの発生率だと思います。しかし、実際には、100mSv(ミリシーベルト)以下のところではがんの発生率増加は見られたことがないというのが今までの研究や経験でわかっていることです。この100mSvというのも、原爆の被爆者の研究が一番の基になっているわけですが、原爆の場合は一瞬で100mSv浴びています。今回私たちが向き合っているのは、長期にわたって少しずつ被曝して、100mSvに到達されるという方はいらっしゃらないと。ずっと低い線量だということです。そして、長期にわたって被曝した場合の影響というのは、同じ量を一気に被曝した場合に比べて、その危険はずっと小さくなります。

それと、日本は、自然の放射線量が世界の中で比較的低いレベルの地域でありまして、世界では、ずっと自然の放射線量が高い地域がありまして、そこで健康に暮らして、健やかに育っていく子どもさんがいらっしゃるということです。

 

おそらく、多くの保護者は、

「年間1ミリシーベルト以下 かつ、 慢性的に放射線を浴びる方が危険」

という先入観を、根拠もなしに持たされているのではないだろうか。だとすれば、そのような先入観を持たせるような文章を「科学者」の名前で書いた、火山学者の早川由紀夫氏と、元原子力安全委員の武田邦彦氏の罪はきわめて重い。彼らによる「警告」によって、数値ではなく「基準」の方が、現実的な安全性とは完全にかけ離れたものに固定されてしまったのだから。

 

本日のミヤネ屋に出演していた、東京都市大学工学部原子力安全工学科本多照幸教授も、「現在の柏や我孫子のレベルでは、経過をよくケアすれば、心配するレベルではない」と断言していた。経過をケアするとは、外で遊んできたらシャワーを浴びるであるとか、心配な点が出てきたら医師に相談するなどのことである。

 

 

ちなみに、「現在の柏や我孫子のレベル」とは、このくらいである。

 

<どちらともミヤネ屋より>

 

この中で最も高い数値は、我孫子市の0.60マイクロシーベルト毎時であるが、これを1年間に換算しても、内部被曝4倍分を足しても、絶対に年間20ミリシーベルトにはならないので、例年より多少は手洗いやシャワーなどを増やし、不安な点があれば医師に相談するという形で、すこしずつ「平常心」を取り戻していただきたい。

0.6(マイクロシーベルト)×8(時間)×365(日)×5(内部被曝4倍分を足す)=8760マイクロシーベルト=8.760ミリシーベルト

大丈夫。20ミリシーベルトの半分の、10ミリシーベルトにもならない。

 

 

繰り返すが、今多くの人が「ホットスポット」だと思いこまされている、野田~流山~守谷~取手~我孫子~柏~松戸~金町の地域に「不安」が根強く残っているとすれば、その原因は、放射線量測定値が公開されていないことではなく、年間被曝量の基準を「1ミリシーベルト以下」だと思いこまされていることによる。厳しい口調かも知れないが、保護者の方々の頭の中にある「基準」そのものを和らげていかないことには、どれだけ「放射線に関する情報公開」をしようが、「放射線不安」は永遠になくならないのである。

 

なお、冒頭に引用した毎日新聞の記事にある、

>過度に不安で過ごすことで受けるストレスや健康への影響、生活上の他のリスクと比べて考えてみることが大事

という指摘が至極もっともであると感じる。今日本屋でたまたま見かけたこの本は、出版されたてホヤホヤである。放射線に対するストレスについては記述がないが、大津波による「身近な人の死」というストレスとどう向き合うかについての示唆、特に子どもの目線に降りた記述が多い点が好印象を受ける。こういう時期は、単に「ホラ原発は危険だった!」という本よりも、こういう本をゆっくり読むことの方が、後で振り返ったときに、より楽な人生を送れたなと思えるのだろうという確信を私は持っている。そういう意味で、強くこの本を薦めたい。

 

災害ストレス 直接被災と報道被害 (角川oneテーマ21)

保坂 隆

(聖路加国際病院 精神腫瘍科医長)

角川書店(角川グループパブリッシング)


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